資金調達の方法と留意したい法律のポイント

2023年12月21日

基本的な視点(B/Sからの洗い出し)

アセットファイナンスのポイントは、現在必要としていない資産を現在価値で現金化するということです。貸借対照表(B/S)の借方(左側の項目)が資産一覧表になっていますので、そこから現在必要性の乏しい資産を見つけ出すことが、まずもっての検討事項となります(ちなみに、B/Sをざっと眺めただけでも、遊休不動産、利用していないゴルフ会員権、保有し続ける意味のない株式、取引のない信用金庫への出資証券などが見つかったりします)。

ところで、現在必要性の乏しい資産を洗い出したものの、いざ現金化する段階となり、次に記載する事項が障害として表面化することがあります。

主観的な価値がある資産

創業時に購入した不動産や工場機械などが典型例です。もちろん気持ちは大事なのですが、残念ながら気持ちだけでは金を生み出すことはできません。客観的に見て資産が価値を生み出していないのであれば、何らかの処分を行い現金化するのが経営上は得策です。

担保対象資産

不動産への(根)抵当権設定などが典型例です。資産を売却等することで当該資産の名義人が変更となっても、担保権者に影響をあたることは原則ありません。しかし、例えば銀行からの借入れの場合であれば、無断の名義変更は約定違反となります(期限の利益喪失による一括返済を迫られるなど、キャッシュフローに重大な影響を与えかねません)。資産を売却等する前に担保権者と話をつけておく必要があります。

コストと時間がかかる資産

ここでいうコストと時間とは、資産を現金化するために売却等した際に発生するコストと時間のことを言います。例えば、不動産であれば不動産業者への仲介手数料や司法書士費用、売却に伴う税金などのコストが発生しますので、これらを考慮(控除)した手取り額を把握しておく必要があります。また、郊外にある広大な敷地等の場合、なかなか買い手がつかないことで現金化に時間がかかるといったことも考慮する必要があります(要は今すぐ資金の需要に応えられないということです)。

上記のような障害への対策を講じつつ、資産の現金化を進めることになります。次に、B/Sには表れているものの、単に眺めただけでは発想しづらい資産の現金化について、いくつか紹介します。

売掛のファクタリング

ファクタリングとは債権の売買のことを意味します。すなわち、取引先に対して有する売掛金等の債権をファクタリング会社に買い取ってもらうことで、債権の現金化を図るということです。ファクタリングのメリットは、売掛金等の支払期日前に現金化できること、(原則的には)回収不能リスクをファクタリング会社に転嫁できることにあります。回収不能リスクの点では差異がありますが、期日前の現金化については一昔前の手形割引をイメージすれば分かりやすいかもしれません。

もっとも、ファクタリングを利用する場合、2点気をつけるべき事項があります。

・手数料が控除されること

当然と言えば当然なのですが、ファクタリング会社も商売である以上、名目はともかく手数料を徴収します。したがって、売掛等について額面額通りの現金化を行うことはできません。

・債務者(取引先)の協力が事実上不可欠であること

やや専門的な話になってしまうのですが、ファクタリングを債権の売買と捉えると、法律上は債権譲渡を行ったことになります。この債権譲渡を債務者(取引先)に対抗するためには、債務者への確定日付のある通知又は承諾が原則必要となります。債務者(取引先)からすれば、ファクタリング会社から督促を受けることになりますので、あまり良い気分ではありません。この点につき、どうやって協力を取り付けるのかが検討事項となります。

リースバック

リースバックとは、保有していた資産をいったんリース会社に売却し、当該資産をリース会社より借り受けるという取引のことを言います。このリースバックの特徴は、資産をリース会社に売却することで一時的な資産現金化を可能にしつつ、当該資産を引き続き使用可能とする点です。例えば、運送会社において一時的に資金が必要となった場合、保有するトラック等の車両をリース会社に売却し、当該車両のリースを受けることで、事業継続を図るといった事例があったりします。なお、最近では自社ビルのリースバックの事例なども増加しているようです。

資産を引き続き使用しつつ、一時的な資金需要ニーズを満たすという点では非常に魅力的な資金調達手法なのですが、デメリットもあります。

まず、そもそも論としてリースバックの対象となる資産についてはある程度絞りがかけられる、すなわち市場価値のあるものに限定されるという点です。リース会社としても、万一支払いが滞った場合、リース対象物件を第三者に売却する等して回収を図ろうとしますので、ある意味では当然のこととなります。また、中長期的な視点で見た場合、当該資産を使用するために必要となるコストはリースの場合が上回ることが通常です。一時的なキャッシュフローの改善につながることは間違いありませんが、将来的には(リース料の支払いが積み重なって)重い負担になることを考慮する必要があります。さらに、資産を売却している以上、自らの所有物ではありません。このため、万一リース料の支払いができない等となった場合、事業を遂行するためには必要な資産であっても使用不可となり(リース会社が引上げ等を行う)、経営を維持することが不可能となります。

あくまでも一時的な資金需要を満たすものであり、将来的にはツケを残すものであることを考慮する必要があります。

生命保険の見直し

生命保険に加入する動機や目的は様々なものがありますが、会社が加入している生命保険の場合、多くの場合は解約返戻金が発生するタイプ(終身保険や定期保険など)が多いようです。

したがって、不必要な生命保険であれば、解約することで現金化(解約返戻金)を図ることが可能です。また、生命保険の対象としている保険金を減額(一部解約)できるのであれば、減額した分に応じた解約返戻金を受け取れる場合もあります。

なお、解約まではしたくないという場合、契約者貸付制度を利用することで、一時的な資金需要を満たすことが可能です(解約返戻金相当額の6~7割くらいの金額を生命保険会社より貸付けてもらえるようです)。

生命保険は万一の保険事故に備えた加入するものですが、事業年数が長ければ長いほど当初の加入目的と齟齬が生じていることが多いようです。もちろん支払保険料の変動や解約返戻金を受領することによる税金負担も考慮する必要がありますが、生命保険を見直すことで資金需要を満たすことも可能ということは、もっと広く知られてよいのではないかと考えます。

倒産防止共済

もともとは取引先が倒産した場合に備えて加入する共済なのですが、税金対策(掛金が全額損金になる等)で加入している事業者も多いようです。

上記(4)の生命保険と類似しますが、取引先の倒産等が発生していなくても、一時的な資金需要のために解約手当金を担保にすることで、中小機構より借入が可能という制度が設けられています。長期的な分割返済はできない(1年内での一括返済)という点は注意が必要ですが、検討してみる価値はあると思われます。

その他

伝統的には、売掛金等の期日前回収、貸付債権の早期回収、在庫処分などによる資金調達が考えられます。

一方で最近では、(資産による資金調達というのは正確ではないのですが)B/Sの資産欄にある動産や売掛金を担保にした資金調達(ABL)、知的財産権等の無形資産を担保又は信託譲渡することによる資金調達、不動産の証券化といった新たな方法も試みられています。