診療報酬債権ファクタリングとは?メリット・デメリットを解説
2024年10月14日
診療報酬債権ファクタリングとは、診療報酬債権を現金化する資金調達の方法です。
医療機関では、提供した医療の対価のうち、患者の支払う自己負担以外は国保や社保に請求します。
しかし請求すればすぐ入金されるわけではなく、2~3ヶ月待たなければならず、その間の資金繰りが悪化しがちです。
このような場合、国保や社保から入金される診療報酬債権をファクタリングで早期現金化することにより、資金繰り悪化を防ぐことができます。
そこで、診療報酬債権ファクタリングとはどのようなファクタリングサービスなのか、その仕組みやメリットデメリットについて解説します。また、他の資金調達方法との違いや診療報酬債権ファクタリング会社の選び方についても触れているため、ぜひ参考にしてください。
診療報酬債権とは
「診療報酬」とは、クリニックや病院などの医療機関から社会保険診療報酬基金や国民健康保険団体連合などに対し請求する報酬です。
患者が医療機関を受診したとき、診察や治療などにかかった費用のうち自己負担分の1~3割はそれぞれ本人が窓口で支払います。
しかし残りの7~9割は、医療機関から社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会などの支払機関に請求することになります。
月末までに請求する金額を計算し、その翌月10日までに診療報酬明細書(レセプト)を提出することで、支払機関の審査が行われ報酬額が確定し、残りの報酬を受け取るという流れです。
そのため医療機関は患者を診察や治療しても、すぐにかかった費用を全額受け取ることができるわけではなく、支払機関から入金までの間2~3ヶ月待たなければなりません。
診療報酬債権ファクタリングとは
「診療報酬債権ファクタリング」とは、診療報酬債権を支払機関に請求し受け取るまでのタイムラグを埋めるための資金調達のサービスです。
社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会などに請求する診療報酬債権債権をファクタリング会社に売却し、早期に現金化することで資金を調達できます。
資金繰りが厳しいというクリニックなどでも、2~3ヶ月待たなければ入金されない診療報酬債権を前倒しで受け取ることが可能です。
通常、ファクタリングで売掛債権を売却したくても、売掛先の信用力が低ければファクタリング会社から買い取りを断られることもあります。
しかし診療報酬債権の場合、売掛先は社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会など公共機関であり、倒産したり不払になったりというリスクは極めて低いといえます。
そのため診療報酬債権ファクタリングは、クリニックや病院など医療機関にとって好条件でファクタリング契約を結ぶことができ、一般的な売掛債権売却よりも有利です。
診療報酬債権ファクリングの仕組み
「診療報酬債権ファクタリング」は、売掛債権流動化による資金調達の1つであり、その仕組みは「3社間ファクタリング」によるものです。
ファクタリングには、次の2つの契約形態があります。
・2社間ファクタリング
・3社間ファクタリング
「2社間ファクタリング」とは、利用者とファクタリング会社のみが取引するファクタリングです。
「3社間ファクタリング」は、利用者とファクタリング会社に加え、売掛先も関与します。
2社間ファクタリングであれば、売掛先に対し売掛債権をファクタリング会社に譲渡することを知らせる必要はありません。
売掛金入金日には利用者が売掛先から回収し、そのままファクタリング会社に支払う流れとなります。
もう一方の3社間ファクタリングの場合、売掛先に対する通知や承諾を得ることが必要となりますが、売掛先が関与するファクタリングのため売掛金も売掛先からファクタリング会社に直接支払われます。
ファクタリング会社にとってリスクの低い契約形態は「3社間ファクタリング」であるため、手数料も2社間ファクタリングより安く設定されます。
3社間ファクタリングなら、売掛先に売掛金の存在を確認することが可能であり、期日には利用者を経由せず売掛金を回収できるため、利用者に回収した売掛金を使い込まれる心配もありません。
しかし利用者にとっては、3社間ファクタリングは非常に使いにくい契約形態となります。
売掛先にファクタリング利用を知られることで、資金繰りが悪化している会社であると売掛先から懸念されれば、その後の取引などに影響を及ぼす可能性もあるからです。
ただ、診療報酬債権ファクタリングの場合、売掛先は社会保険診療報酬基金や国民健康保険団体連合など公的機関であり、たとえファクタリング利用を知られてもその後の取引に影響を及ぼすことはありません。
ファクタリング会社にとっても、極めて貸し倒れになりにくい診療報酬債権を買い取ることになるため、リスクの低い契約を結ぶことができます。
診療報酬債権ファクリングの手数料
診療報酬債権ファクタリングの手数料は、3社間ファクタリングであることと売掛先の信用力の高さから、一般的なファクタリングよりも低めに設定されます。
通常、ファクタリングを利用したときの手数料相場は2社間と3社間でそれぞれ次のように異なります。
・2社間ファクタリング 10~20%
・3社間ファクタリング 1~9%
売却する債権が診療報酬債権でなくても、3社間ファクタリングのほうが手数料は安いといえますが、診療報酬債権ファクタリングでは3社間ファクタリングの手数料相場の中でも低い手数料が設定されやすいといえます。
資金を調達しなければならないけれど、できるだけコストはかけずに手元のお金を増やしたいという場合に向いている方法です。
診療報酬債権ファクタリングのメリット
診療報酬債権ファクタリングは、一般的なファクタリングで対象になる事業者間取引で発生する売掛金ではなく、国保や社保に請求する診療報酬債権を売掛債権として扱います。
国や自治体が売掛先となるため、信用力の高い売掛債権をファクタリングで売却することとになることから、次のようなメリットがあると考えられます。
・診療報酬債権受け取りを短期化できる
・審査に通りやすい
・手数料を安く抑えることができる
・安心して3社間ファクタリングを利用できる
・初月は2ヶ月分受け取ることができる
・財務状況が悪くても利用できる
・負債計上されない
それぞれのメリットについて説明します。
①診療報酬債権受け取りを短期化できる
診療報酬債権ファクタリングのメリットとして、診療報酬債権受け取りを短期化できることが挙げられます。
通常、支払機関から診療報酬債権が入金されるまでの期間は、診療月末から2ヶ月後です。
しかし診療報酬債権ファクタリングを利用することで、1ヶ月程度短縮できます。
②審査に通りやすい
診療報酬債権ファクタリングのメリットとして、審査に通りやすいことが挙げられます。
先にも述べたとおり、診療報酬債権は社会保険診療基金や国民健康保険団体連合会に対する請求権のため、倒産リスクや未回収リスクの低い売掛先の債権です。
ファクタリング会社も安心して債権を買い取ることが可能となるため、安全性の高さから審査に時間もかからず通りやすいといえます。
③手数料を安く抑えることができる
診療報酬債権ファクタリングのメリットとして、手数料を安く抑えることができることが挙げられます。
売掛先である支払機関は公的機関のため、貸し倒れリスクは極めて低いと考えられることから、3社間ファクタリングの手数料相場1~9%のうち低い割合が設定されることがほとんどです。
④安心して3社間ファクタリングを利用できる
診療報酬債権ファクタリングのメリットとして、安心して3社間ファクタリングを利用できることが挙げられます。
通常の3社間ファクタリングを利用するときには、売掛先にファクタリング利用を知られることに不安を感じるものです。
しかし診療報酬債権ファクタリングの売掛先は公的機関のため、風評被害や信用を疑われる不安なく利用できます。
⑤初月は2ヶ月分受け取ることができる
診療報酬債権ファクタリングのメリットとして、初月は2ヶ月分受け取ることができることが挙げられます。
支払機関に対する診療報酬債権は、
前月分を当月10日までに請求
翌月25日に入金
という流れです。
1月分の診療報酬債権は翌月2月10日までに支払機関に請求しますが、その請求分はさらに翌月の3月25日に入金されます。
2月分の診療報酬債権は翌月3月10日までに支払機関に請求し、さらに翌月の4月25日に請求分を受け取る流れです。
この流れにおいて、3月に診療報酬債権ファクタリングを利用する場合、2月分の診療報酬債権をファクタリング会社に売却することになります。
また、すでに2月10日に請求した1月分の医療報酬は本来の入金予定日3月25日に支払機関から入金されます。
そのため3月には、ファクタリング会社に売却した2月分の診療債権と、もともと入金が予定されている1月分の診療報酬債権を受け取ることが可能です。
初めて診療報酬債権を利用した月に限り、2ヶ月分同月に受け取ることができます。
⑥財務状況が悪くても利用できる
診療報酬債権ファクタリングのメリットとして、財務状況が悪くても利用できることが挙げられます。
ファクタリング会社で行う審査において、重視されるのは売掛先の信用力ですが、診療報酬債権ファクタリングは公共機関が売掛先です。
そのためきわめて信用力の高い債権を売却することとなり、審査でもファクタリングを利用する医療機関の信用力はそれほど重視されません。
財務状況が良好といえない状況下でも、診療報酬債権ファクタリングなら利用しやすいといえます。
⑦負債計上されない
診療報酬債権ファクタリングのメリットとして、負債計上されないことが挙げられます。
ファクタリングは売掛債権の売却による資金調達の方法であるため、お金を借りるわけではなく、保有している売掛債権という資産を現金という別の資産に換える手続です。
そのため貸借対照表上の負債として計上されず、決算書を汚すことはありません。
むしろ現金化した債権で借入金を返済すれば、貸借対照表のオフバランス化ができ、財務指標を向上させ銀行などからの評価が上がります。
診療報酬債権ファクタリングのデメリット
診療報酬債権ファクタリングはいろいろなメリットのある資金調達のサービスですが、その一方で次の5つのデメリットには留意してください。
・受け取る報酬が少なくなる
・2社間ファクタリングよりも時間がかかる
・一度始めると途中で止めにくくなる
・長期利用で資金繰りが悪化する
・取扱うファクタリング会社が少ない
それぞれのデメリットを説明します。
①受け取る報酬が少なくなる
診療報酬債権ファクタリングのデメリットとして、受け取る報酬が少なくなることが挙げられます。
ファクタリングを利用した場合、所定の手数料をファクタリング会社に支払います。
診療報酬債権ファクタリングの手数料は、3社間ファクタリングの手数料相場1~9%の中でも低い割合が設定されると考えられますが、手数料分受け取る診療報酬債権が少なくなることにかわりはありません。
②2社間ファクタリングよりも時間がかかる
診療報酬債権ファクタリングのデメリットとして、2社間ファクタリングよりも時間がかかることが挙げられます。
3社間ファクタリングの契約形態で手続が進むため、2社間ファクタリングのように最短で即日現金化できるという方法ではなく、入金まで3~7日程度はかかってしまいます。
③一度始めると途中で止めにくくなる
診療報酬債権ファクタリングのデメリットとして、始めると途中で止めにくくなることが挙げられます。
初回利用のときは2ヶ月分の診療報酬債権を受け取ることができる反面、ファクタリング利用をやめる月には受け取る診療報酬債権はゼロになってしまいます。
そのため一度診療報酬債権ファクタリングを始めると、途中でやめにくくなってしまう傾向にあるといえるでしょう。
④長期利用で資金繰りが悪化する
診療報酬債権ファクタリングのデメリットとして、長期利用で資金繰りが悪化することが挙げられます。
ファクタリング会社に支払う手数料分、受け取る診療報酬債権は少なくなるため、長期的に利用すれば資金繰りは悪化してしまう可能性があります。
本来受け取ることができる診療報酬債権が毎月少ない状態が続けば、キャッシュ不足を招くリスクも否定できません。
長期的ではなく、事前にいつまで利用するのか計画を立てた上で利用しましょう。
⑤取扱うファクタリング会社が少ない
診療報酬債権ファクタリングのデメリットとして、取扱うファクタリング会社が少ないことが挙げられます。
一般的なファクタリングと異なり、診療報酬債権ファクタリングは診療報酬債権を扱う知識が必要になるため、取り扱っているファクタリング会社が少ないこともデメリットです。