立て替え払いとは?意味・仕組み・注意点をわかりやすく解説

2025年10月5日

ビジネスや日常生活の中で、「立て替え払い(たてかえばらい)」という言葉を耳にする機会は多くあります。
社員の出張費や経費精算、医療費の支払い、あるいは債務関係の調整など、さまざまな場面で登場する概念ですが、その本質を正しく理解している人は意外と少ないものです。

この記事では、「立て替え払いとは何か」を中心に、仕組みや会計上の扱い、法律的な位置づけ、注意すべきポイントなどをわかりやすく解説していきます。

1. 立て替え払いとは

立て替え払いとは、本来支払うべき人(債務者)に代わって、第三者が一時的にその支払いを行うことを指します。
つまり、「本来の支払義務者がいるが、その人に代わって一時的に支払う」という性質を持っています。

例えば次のようなケースが立て替え払いに該当します。

・会社員が自分の財布から出張費や交通費を支払い、後日会社がその分を精算する

・親が子どもの大学授業料を一時的に支払い、のちに子どもが返す

・保険会社が被保険者に代わって病院へ治療費を支払う

・保証人が債務者に代わって借金を返済する

このように、立て替え払いは「一時的な支出」であり、後で返済・清算される前提の支払いであることが特徴です。

2. 立て替え払いの会計処理(仕訳)

企業会計において、立て替え払いは頻繁に発生します。特に社員が業務上の費用を自腹で支払うケースは多く、正確に処理しなければ経理上のミスや税務リスクにつながる恐れもあります。

(1)社員が立て替えた場合

たとえば社員が出張時に交通費を自腹で支払った場合、会計上では次のように処理します。

社員が立て替えた時点では、会社にとって「立替金の発生」となります。
このときの仕訳は以下の通りです。

(借方)旅費交通費 〇〇円 / (貸方)未払金 〇〇円

または、後日社員に現金で精算した場合は次の通りです。

(借方)未払金 〇〇円 / (貸方)現金 〇〇円

経理的には「立替金」「未払金」「仮払金」などの勘定科目が使われますが、目的に応じて正しく区分することが大切です。

(2)会社が社員に代わって支払った場合

逆に、会社が社員に代わって何かを支払った場合(例えば個人立替の医療費など)、これは会社が「個人に対する立替金」を持っている状態になります。
この場合の仕訳は以下の通りです。

(借方)立替金 〇〇円 / (貸方)現金 〇〇円

そして後日、社員から返金があったときに次のように処理します。

(借方)現金 〇〇円 / (貸方)立替金 〇〇円

立て替え払いの金額が多くなると、資金繰りにも影響を与えるため、定期的な精算が求められます。

3. 法律上の立て替え払い(民法における位置づけ)

立て替え払いは、民法上「弁済(べんさい)」の一種として扱われます。
弁済とは、債務を履行して債権を消滅させる行為のことです。

民法第474条には、「弁済は、債務者でなくてもすることができる」と規定されています。
つまり、債務者以外の第三者でも、債権者の同意があれば弁済を行えるという仕組みになっています。これが、立て替え払いの法的根拠です。

そして、立て替え払いを行った第三者は、債務者に対して求償権(きゅうしょうけん)を持ちます。
これは「あなたの代わりに支払ったのだから、その分を返してもらう権利」です。

たとえば、保証人が借主に代わってローンを返済した場合、保証人は借主に対して求償権を行使できます。
この求償権があることで、立て替え払いは「一方的な損失」ではなく、「後に回収される前提の支出」として成立しているのです。

4. 日常生活での立て替え払いの例

立て替え払いは、私たちの日常生活の中でも頻繁に起こっています。
以下に代表的なシーンを挙げてみましょう。

(1)医療費の立て替え

日本の健康保険制度では、病院の窓口で患者が一時的に医療費を支払う仕組み(立て替え払い方式)が採用されています。
後日、健康保険組合や国民健康保険から高額療養費などが支給されるため、結果的に一部が返金されるという形になります。

(2)交通費や交際費の精算

会社員が業務の一環で出張交通費や飲食代を一時的に自腹で支払うのも立て替え払いの一種です。
会社が経費として認め、後日精算することが前提となります。

(3)友人同士の立て替え

複数人で食事をした際に一人がまとめて支払い、後で割り勘精算するケースも典型的な立て替え払いです。
支払った人は他の参加者に対して返金を求める権利を持っています。

5. 立て替え払いにおける注意点

立て替え払いは便利な制度ですが、取り扱いを誤るとトラブルの原因になることがあります。以下の点に注意しましょう。

(1)証拠(エビデンス)を残す

立て替えた金額を後から請求するためには、領収書やレシートなどの証拠が必要です。
ビジネスでは「誰が・何を・いつ・いくら立て替えたか」を明確に記録することが求められます。
特に複数人での立替精算では、口約束だけで済ませると後でトラブルになりやすいので注意が必要です。

(2)経費との区別を明確にする

会社の経費として処理すべき支出なのか、社員個人の立て替えなのかを明確に区別しましょう。
混同すると、経理上の不正や税務リスクにつながる可能性があります。

(3)返済期限を定める

立て替え払いはあくまで「一時的な支払い」です。返金期限を設けずに放置すると、貸付金のような扱いになり、会計処理が複雑化します。
特に法人間取引では、立替金の回収が遅れると資金繰り悪化の原因となるため、早めの精算を心がけることが大切です。

(4)税務上の扱いに注意

立て替え払いは本来の費用ではないため、発生時点では損金(経費)になりません。
経費に計上できるのは、会社がその費用を負担することが確定した時点です。
この区別を怠ると、税務調査で否認されるリスクがあるため、経理部門では慎重な処理が求められます。

6. 立て替え払いと似た概念との違い

(1)仮払金との違い

仮払金は、目的や金額が未確定のまま一時的に支出するお金のことです。
一方で、立て替え払いは、すでに発生した支払いを一時的に肩代わりする行為を指します。
したがって、仮払金は「先に出すお金」、立て替え払いは「後で出すお金」と考えるとわかりやすいでしょう。

(2)預り金との違い

預り金は、他人から預かったお金であり、性質的には立て替え払いの逆です。
たとえば、社員の給与天引き社会保険料は会社が一時的に預かって納付するため、預り金に分類されます。

7. 立て替え払いを効率化する方法

最近では、企業の経費精算システムやキャッシュレス決済の普及により、立て替え払いの負担を軽減する仕組みが整いつつあります。

交通系ICカードや法人クレジットカードを活用し、社員が自腹を切らずに支払いできる体制を構築する

経費精算アプリを導入し、領収書の撮影・申請をスマートフォンで完結させる

精算サイクルを月末ではなく週次に短縮し、立替期間を短くする

こうした仕組みを取り入れることで、社員の負担を軽減し、経理処理の効率化にもつながります。

まとめ

立て替え払いとは、他人の代わりに一時的に支払いを行い、後日その分を返金・精算してもらう仕組みです。
企業においては経費精算や社員出張費など、日常的に発生する行為ですが、会計処理や証拠の管理を誤るとトラブルや税務上の問題を引き起こすこともあります。

正しい理解とルールづくりを行うことで、立て替え払いはスムーズな資金運用を支える有効な手段となります。
「誰が」「何を」「どのように」立て替えたのかを明確にし、透明性の高い経理体制を整えることが、健全な企業運営につながるのです。