M&Aとはなにか?流れやメリットなどをわかりやすく解説します!
2023年10月16日
M&Aとは日本語で「合併と買収」という意味です。さまざまなM&A手法があり、成功によって得られるメリットも異なります。この記事では、M&Aとは具体的にどのような行為を意味するのか、手法ごとの流れやメリット、成功ポイントを解説します。
1. M&Aとはなにか?
M&Aとは、合併と買収を意味する言葉です。もともと外国企業を中心に経営戦略の1つとして活用されていましたが、近年は日本国内の企業も積極的にM&Aを行うようになってきました。
事業や企業の成長・発展を目的としてM&Aを活用するケースが多く、中小企業の場合は事業承継目的でのM&A割合が高く、年々その数も伸びています。
M&Aの意味とは
M&Aの正式名称はMergers and Acquisitionsであり、読み方は「マージャーズ・アンド・アクイジションズ」です。
それぞれ、Mergers=合併、Acquisitions=買収という意味の英単語であり、M&Aとはこの2つの単語の頭文字を取った言葉で「エムアンドエー」と呼ばれます。
M&Aという場合、狭義的には「合併」に該当する吸収合併と新設合併と「買収」で用いられる株式譲渡・事業譲渡・株式交換・第三者割当増資などを指します。
また、企業同士が協業する資本提携(あるいは業務資本提携)なども、広義的な意味でM&Aに含むことも多いです。
2. M&Aの目的とは
企業がM&Aを行う理由・目的にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは売却側(譲渡側)・買収側(譲受側)に多くみられる目的を紹介します。
売却(譲渡)側のM&A目的とは
売却(譲渡)側がM&Aを行う目的には、主に以下の3つがあります。
経営基盤強化
特に中小企業の場合は、自社の資金力のみでは事業の発展が難しいケースもあるでしょう。そのような理由から、経営営基盤強化を目的としてM&Aが行われるケースもあります。
売却(譲渡)側企業はM&Aによって買収側(譲受側)企業のリソースを相互活用できるようになり、経営基盤の強化が可能です。さらに、ノウハウや技術を組み合わせたり、販路や顧客を共有したりすることによって、シナジー創出にも期待できます。
また、複数事業を手掛けている企業の場合は、事業譲渡などのスキームを用いて不採算事業のみを切り離す(譲渡する)ことも可能です。
後継者問題の解決
中小企業の場合、自社の存続を希望していても、経営者の周りに後継者候補となる人物がいないために廃業せざるを得ないケースもみられます。M&Aは事業承継の手段としても活用することができ、第三者(法人あるいは個人)へ自社を売却することで事業承継が可能です。
日本の企業は9割以上が中小規模の事業者ですが、経営者の平均年齢は年々あがっており、団塊世代の多くが引退のタイミングを迎える2025年には70歳以上の経営者は250万人にもなるといわれています。
中小企業の存続は日本経済にも大きな影響を与えるため、後継者問題の解決は国の大きな課題であり、M&Aはその有効な手段といえるでしょう。
事業の拡大
買収(譲受)側はM&Aによって既存事業の拡大や強化が実現可能です。同業種の企業を買収した場合は、売却(譲渡)側企業の保有シェアをそのまま獲得できます。
また、自社と関連性の高い事業を買収すれば、顧客や技術・ノウハウなどを獲得でき、事業領域の拡大を図ることも可能です。
創業者利益の獲得
創業者利益の獲得を目的にM&Aを行うケースも多いです。株式譲渡の場合は、譲渡対価(現金)を株主であるオーナーが受け取ります。
中小企業の多くは非上場であり株式の現金化が難しいですが、M&Aによる株式の譲渡では対価として現金を得ることが可能です。実際に引退後の資金確保のために自社を売却するケースや、得た利益を資金として新たに事業を始めるケースも多くみられます。
買収(譲受)側のM&A目的
買収(譲受)側がM&Aを行う目的としては、主に以下の4つが挙げられます。
優秀な人材の獲得
売却(譲渡)側企業の優秀な人材をまとめて獲得できる点も、買収(譲受)側の大きなメリットです。介護施設や調剤薬局、建設業などのように有資格者がいなければ業務を行えない事業もあります。
事業に必要な有資格者を新規採用することもできますが、十分な人数が確保できるとは限らないうえ、採用した人材のスキルや経験が不足している可能性もあるでしょう。
売却(譲渡)側企業の人材を引き継ぐ方法はM&Aスキームによって異なり、株式譲渡の場合は特別な手続きを行わなくても買収(譲受)側は雇用契約を引き継ぐことができます。
事業譲渡を用いた場合は雇用契約の結びなおすかたちとなり、その際は従業員の個別同意が必要です。
新規事業参入
新規事業への参入をスムーズに行うことを目的に、その業界で事業展開している企業を買収するケースも多いです。新規事業の立ち上げには資金と時間が必要であり、事業がうまく軌道に乗るかどうかというリスクもあります。
M&Aで新規参入したい業界で事業展開している企業を買収すれば、顧客や販路、技術・ノウハウなどがある状態で事業を始めることが可能です。
シナジー効果
M&Aで得られるシナジー効果には「販売シナジー」「生産シナジー」などさまざまなものがあります。設備や販路などの共有による業務効率化や、原材料を大量に仕入れることによるコスト削減などはその一例です。
売却(譲渡)側企業とのシナジー効果創出を目的として買収が行われる事例は非常に多く、シナジーが十分に発揮されればM&A後の事業成長・発展に期待できます。
3. M&Aのメリットとは?
M&Aにはさまざまなメリットがあり、成長戦略や事業承継の手段として活用されるケースが年々増えてきました。ここでは、売却側・買収側のそれぞれのメリットを解説します。
売却側のメリット
M&Aによる売却側のメリットは、主に以下の4つがあります。
①後継者問題の解消
近年は後継者問題に悩む中小企業も多いですが、M&Aによる事業承継(売却)は経営者の周りに後継者がいない場合に有効な手段です。
小牛高齢化が進む日本では、経営者に後継者となる子がいないケースや子が別の企業務めているなどにより引継ぎが難しいケースもみられます。
そのため、経営者が高齢になり引退のタイミングを迎えても、事業承継できない企業も多いのが実情です。中小企業の事業承継は国の課題でもあり、スムーズな事業承継ができるようさまざまな施策も設けられています。
施策にはM&Aに対する制度もあり、後継者候補がいない場合はM&Aによる第三者へ自社を売却することで事業承継が可能です。
③経営者の個人保証の解消
経営者自身が会社の負債の連帯責任者となっている場合、リスクを心配して事業承継や廃業に踏みきれないというケースも多いです。
M&Aによる事業承継では、使用する手法や契約内容次第で経営者の個人保証も解消されます。個人保証からの解放は経営者にとって心理的にも経済的にも大きなメリットといえるでしょう。
②従業員の雇用確保
M&Aは単に事業や企業を売却する行為ではなく、自社の従業員や経営資源なども譲渡・売却の引継ぎ対象です。
廃業という選択をすれば従業員を解雇することになりますが、M&Aであれば従業員の雇用を買収側企業へ引き継ぐことができます。
また、株式譲渡を用いる場合は従業員の雇用だけでなく、取引先・仕入先・顧客なども包括承継される点もメリットです。
④資金調達の実現
元来、M&Aとは、業績不振などの理由で仕方なく企業を売却するといった行為ではありません。過去の事例を見ると、本業や中核事業などに集中する目的で他の事業を売却する企業も多く存在します。
資金ショートする前の対策としてM&Aをする企業もあります。
そのような事業譲渡では、本業以外の事業を売却すれば資金が得られるため、本業への資金に充てることが可能です。
また、株式取得による資本参加というスキーム(手法)の場合、売却後も経営に関われます。財務基盤が安定している企業の傘下となれば、事業の拡大を容易に実現できるメリットも期待可能です。
買収側のメリット
M&Aによる買収側のメリットには、主に以下の4つがあります。
①技術獲得
技術獲得には、ノウハウの獲得も含まれます。そもそも企業は、新規事業へ進出する際に新たな商品・サービスの開発が必要となる場合が多いですが、それには技術・ノウハウが不可欠です。
M&Aによる買収で技術・ノウハウを獲得できれば、新規事業にスムーズに進出しやすくなります。
③事業の多角化
買収側は、M&Aにより多角化経営の実現および隣接事業への進出が可能となります。なぜなら、M&Aでは、シナジー効果の獲得を期待できるためです。
シナジー効果とは、相乗効果のことです。例えば、不動産業を手掛ける企業が小売業を買収すると、シナジー効果により両社の持つ広告口が広がるため、売上を伸ばすことが可能です。
その他にも、互いの事業が良い影響を及ぼし合うことで、それぞれの売上が更に伸びるケースは多々あります。
②人材確保
会社を経営するうえで、最も重要となる資源は人材です。技術・ノウハウと合わせて人材も確保できれば、企業が事業を進めていくうえで非常に有利な条件がそろいます。
また、自社のコア事業に弱みがある場合にも、人材確保によってネガティブ要素の改善が見込むことが可能です。
④コストの削減
既存事業のシェアを拡大できれば、「規模の経済」が働いて仕入れ・運用に関するコストを削減できます。これは、買収対象会社の取引先・顧客などの承継により生まれるメリットであり、短期間で事業拡大を実施可能です。
また、品質管理・物流・販売の各部門を一元化できれば、生産性の向上も期待できます。
4. M&Aのデメリット
M&Aにおける買収側の主なメリット・デメリットには、以下のものがあります。
売却側のデメリット
M&Aによる売却側のデメリットには、主に以下の4つがあります。
①従業員の労働条件が悪くなる可能性
M&A後、経営統合プロセス(PMI=Post Merger Integration)の過程で、買収側の人事規定にのっとって売却側従業員の雇用・労働条件は変更されるのが常です。多くの場合、買収側の方が経営規模も大きく、雇用・労働条件は改善される傾向にあります。
しかし、中小企業であった売却側においては、就業規則などの内部規定が不十分であることがあり、買収側の大手企業の内部規定はきちんとした定めがあることから、新たな労働条件を不満に感じるかもしれません。
個人によっては、雇用・労働条件が悪くなったと思う従業員が出る可能性もあります。この場合、その従業員は離職してしまう可能性もあり、PMIにおいて、どれだけケアできるかが課題です。
また従業員の雇用条件についてはM&Aの最終契約書において、条件が悪くなるような変更をしばらくの間はしない、ということを定めることもできます。
買い手企業を探す段階において、こういった内容を理解してくれる会社を探すということもM&A成功のポイントの一つです。
③取引先の反発や契約の打ち切り
買収によって取引先との契約条件変更や担当者変更などが生じた場合、長期にわたって良い関係を築き上げてきた取引先から反発されることがあり、場合によっては契約を打ち切られる可能性もあります。
特に中小企業の場合は、オーナーが個人的に取引先と付き合いがあり、それにより良い条件で契約ができていた場合などは、オーナーが代わることで契約条件もこれまで通りにはいかないということも考えられます。
M&Aでは会社の収益性を見込み評価で判断するケースもあるため、後のトラブルで企業価値を低下させないように注意が必要です。
またそうならないように、取引先への説明なども慎重に行う必要があります。M&A実行後には新しい担当者と一緒に取引先に挨拶に行くなどし、時間をかけて引き継ぐことが重要です。
②売却先の企業が見つからない可能性がある
自社の売却を検討しても、売却先企業が見つからない限りM&Aを進められません。経営者が自社に対してどれだけ時間や資金を費やしてきたとしても、M&Aにおいて評価されるのは、将来的に事業がどれだけ利益を生むのか・どれだけの価値があるのかという点が中心です。
自社に見合った買い手企業を見つけるには、事前にM&A仲介会社などの専門家に相談したうえで、希望額の設定・譲渡内容を含めたM&A戦略を十分に練ることが必要となります。
④企業文化の統合による障害
M&Aとは、異なる企業文化を持つ会社同士が1つになる行為であるため、統合がうまくいかなければ弊害が生まれやすくなります。M&A後における企業文化の融合は、時間をかけて入念に進めていくことが必要です。
融合がうまくいかなければM&A自体が失敗に終わるケースもあるため、従業員の仕事に対する考え方・姿勢・判断軸などを十分に考慮したうえでM&Aを進めていきましょう。
買収側のデメリット
M&Aによる買収側のデメリットには、主に以下の4つがあります。
①収益化できるか不確実
M&Aとは、事業拡大・新規事業への参入など主として収益拡大を目的として実施されるものですが、事業・会社を買収したからといって、必ずしも収益化に成功するとは限りません。
M&Aでは契約条件次第で売却側の負債(簿外債務を含む)などを引き継ぐため、取引対象を十分に認識しないまま承継すると、収益化できないばかりか不利益を被るおそれもあります。
上記のリスクを回避するには、M&A前に財務デューデリジェンス(DD)を念入りに実施すると良いでしょう。
②優秀な人材の流出
M&Aでは売却側の優秀な人材やノウハウなどを獲得できますが、M&A後に売却側の人事制度・会社の風習・評価制度などを変えると、優秀な人材を流出させてしまうおそれがあります。
M&A後の労働条件変更・統合や買収後の派閥争いなどは従業員に不信を抱かせる原因となるため、M&Aによる買収を進める場合には人事デューデリジェンス(DD)を念入りに行い、その内容を企業統合プロセス(PMI)に反映させると良いでしょう。
特に既存の従業員に不利にならないようにすることが重要です。
③シナジー効果が得られない
シナジー効果とは相乗効果のことであり、十分に発揮されると足し算以上の成果をもたらします。しかし、M&Aで組織が拡大すると意思決定のスピードが遅れてしまい、企業の弱体化と企業価値の低下を引き起こすおそれもあるのです。
つまり、M&A後に生じる部署ごとの連携不足・企業文化の違いなどは、シナジー効果獲得に失敗する原因となります。こうした事態を避けるには、企業統合プロセス(PMI)を慎重に行うと良いでしょう。
④買収先企業との融合がうまくいかない
たとえM&A後の人材流出が避けられたとしても、M&Aは社風や従業員の待遇が異なる企業同士が統合する行為であるため、企業文化の違いにより会社内での融合がうまくいかないこともあります。
このような事態に陥ると、事業拡大までに時間や費用が必要以上に発生するうえに、その後の企業運営が円滑に進まない可能性も高まるでしょう。M&Aを実施する際には、この点を踏まえて、なるべく自社と類似する文化を持つ企業を買収するのが良策です。
5. M&Aの流れ(手順)
M&Aスキーム(手法)によって細かな部分は異なるものの、大まかな流れは同じです。ここでは、M&Aの流れ(手順)をわかりやすく解説します。
検討
まず「なぜM&Aを行うのか」を明確にし、M&A後のビジョンを描き方向性を検討することが重要です。M&Aを行う目的や方向性が明確になっていないままM&Aに取り組んでしまうと、判断を誤ってしまったりM&Aを成約させることが目的に変わってしまったりする可能性もあります。
満足度の高いM&Aを実現させるためには、自社がM&Aを行う目的をしっかり定めておくことが必要です。買収側企業はM&A後の成長戦略を明確にしたうえで、交渉相手への希望条件や使用スキームなどを検討段階である程度絞り込んでおくとよいでしょう。
売却側企業は、譲渡希望価格の設定・従業員や役員などの雇用・売却時期など目標や希望条件を検討します。また、M&A仲介会社への相談やM&Aの交渉を見据えて、自社の強みや弱みを整理しておくとよいでしょう。
準備
次は、M&Aの方向性や将来の目標などを踏まえて具体的なプランを決めていきます。M&Aでは戦略作成が重要となるため、M&A仲介会社などの専門家と相談しながら進めていくかたちが一般的です。
この段階では、企業価値評価(バリュエーション)や企業概要書の作成も行います。企業価値評価(バリュエーション)は価格交渉のベースとなる株価、簡単にいえば「会社の値段(価値)」を算出することです。
大きく分けてコストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチの3つがあり、それぞれに複数の算出方法があります。それらを用いて企業価値を求め、実態を把握したうえでM&Aの条件を固めていきます。
企業概要書は「売却側企業の情報をまとめた提案書」であり、企業沿革・事業内容・組織体制・財務状況・取引先(顧客)・業務フロー・株主構成など、詳細情報を要約したものです。
M&Aは面識のなかった企業同士が行うケースが多いため、売却側企業の魅力や強みが正しく伝わるよう企業概要書を作成します。
M&Aの準備をしっかり行い計画的に進めていくことが重要です。企業価値評価だけでなくM&A仲介会社などの専門家は企業価値評価だけでなく企業概要書作成のサポートも行っているので相談しながら進めていくとよいでしょう。
相手探し
M&Aを行う準備が整ったら次は交渉先となる企業を選定していきますが、選定時のポイントは売却側・買収側とで異なります。まず、売却側企業が見極めるべきポイントは「社風や経営理念」「事業規模や業績」「業種」の3つです。
社風や経営理念がかけ離れている場合は、M&A後のPMIがうまくいかない可能性もあります。書面から受けるイメージだけでなく、実際のトップ面談でしっかり見極めることが重要です。
また、業種については同業種か異業種化で想定されるシナジー効果が大きく違ってきます。自社がM&A(売却)を行う目的だけでなく買収側の目的も念頭におき、最初は広い視野で検討するとよいでしょう。
一方で買収側が意識すべき点は「成長戦略」「想定されるシナジー効果」「事業承継」です。特にどのようなシナジーが見込めるかはM&A後の事業成長・発展に大きく関与します。売却側企業の事業内容や強みなどを理解したうえで、本格的な交渉へ進むかを検討していくとよいでしょう。
買い手(売り手)へのアプローチ
まずは、M&A相手候補となる法人・個人を見つけてアプローチするプロセスです。譲渡・譲受先となり得る候補先をM&A仲介会社やアドバイザーなど専門家にリストアップしてもらいながら、自社の希望条件に合う候補を決めていきます。
売り手側からは「ノンネームシート」と呼ばれる書類を開示し、買い手側ではノンネームシートの内容を見て検討を進めていく仕組みです。
ノンネームシートは匿名状態で企業概要が記載されており、財務状況や簡単な事業内容などが盛り込まれます。
ノンネームシートだけではどの企業かは特定できない情報量ですが、それでいて買い手側が進めるかどうかをある程度判断できる程度の材料を記載します。
IM(Information Memorandum)の提示
売却側の場合、ノンネームシートを提示して買い手側企業が詳しい情報を求めてきたら、秘密保持契約(NDA/CA)を企業間で結んだうえで、IM(Information Memorandum)を提示します。
IMは日本語表記で「インフォメーション・メモランダム」と呼ばれる企業概要書のことであり、会社の名称・詳細な事業内容・財務情報などが記載される書類です。IMを見た買い手企業は、M&Aについて具体的に検討していきます。
トップ面談(経営者同士の面談)
経営トップ同士の面談は、互いの人となりや経営理念など書面ではわかにくい部分を確認しあい理解を深める場として設けられます。トップ面談では譲渡金額や従業員の処遇など条件交渉はせず、M&A後のビジョンや想定されるシナジーを明確にすることを念頭におき臨むことがポイントです。
また、自社が売却側・買収側のどちらであっても「対等な立場」で相手企業のトップと接するよう心がけましょう。トップ同士の面談はM&Aプロセスで必ず行われるものであり、M&Aの成否を左右する重要な機会です。
買収・売却の検討に至った経緯・経営で大事にする信念などを共有できれば、M&Aにおいて最も大切となる信頼関係を構築できます。
トップ面談の後に、買い手側がM&Aに前向きである場合、LOI(Letter of Intent=意向表明書)を売り手に提出するケースもありますが、必須というわけではありません。
基本合意締結
諸条件・使用スキーム・譲渡価額などについて両社が大筋で合意したら、基本合意書を作成して締結します。基本合意の締結は「破談になるような大問題がない限りM&A成約(最終合意契約)に向けた交渉を続ける」と意思表示をしたということです。
そのため、締結する前はもう一度よく検討することが重要となります。売却側企業は「自社を任せられる企業なのか」「従業員の雇用はしっかり引き継いでもらえるか」「企業風土が合うか」などが確認すべきポイントです。
買収側企業は「買収によって得られるシナジー効果はどのくらいなのか」をしっかり検討し、そのうえで買収の運営体制や引継ぎの方法や期間などもある程度詰めておく必要があります。
また、基本合意書はあくまでもその時点での合意内容であり、M&A成約を保証するものではありません。基本合意書そのものに法的拘束力はなく、デューデリジェンスの結果によっては条件や価格の変更されたり、大きな問題があったりした場合はM&A取引が中止となる場合もあります。
ですが、買収側に付与される独占交渉権など一部条項については、法的な拘束力を持たせるケースがほとんどです。
デューデリジェンス(DD)の実施
トップ面談により基本合意を締結した後は、デューデリジェンス(DD)を実施します。デューデリジェンス(DD)とは、売り手企業の状況把握を目的とする精密調査であり、買い手企業が専門家に依頼したうえで実施するケースがほとんどです。
DDには主に財務DDや法務DDなどがあります。財務DDでは公認会計士や税理士などが売り手企業の財務資料を細かく調査し、財務の問題が無いかなど細かく確認します。
法務DDでは主に弁護士が売り手企業の法務面や、契約書周りなどを細かく確認します。
ここで基本合意までに未開示であった問題が発覚したり、顕在化していなかったリスクが明らかになったりすると、M&A取引自体が破談になりかねないため注意しましょう。
最終条件交渉
デューデリジェンス(DD)の結果、買収側がM&Aを成立させて問題ないと判断すれば、最終条件交渉へ移ります。この条件交渉はデューデリジェンスを内容を踏まえて行う、M&Aの最終局面です。
自社を売却することは売却企業の経営者にとって大きな決断となるため、最終契約が目前に迫り「本当にこの選択がよいのか」と悩み、第三者に意見を求めるケースもあるでしょう。
しかし、決断にかける時間が長すぎれば買収側企業がM&A交渉を中止する可能性もあります。売却側の経営者は最終決断は自身で下すことをしっかり認識しておくことが重要です。
買収側にとってM&Aのリスクを最小限にとどめたいと考えるのは当然ですが、リスク回避を意識するあまり無理な条件ばかりを要求すれば、交渉がまとまらず破談になる可能性もあります。「M&Aはリスクがあること」を覚悟することも買収側には必要であり、そのうえで最終的な決定を行うことが重要です。
最終契約
条件交渉によりお互いの認識に相違がなければ、最終契約のプロセスに移行します。以降の手続きでは取締役会・株主総会などでの議決が必要となるため、自社内でも各種準備を進めておかなければなりません。
最終契約書の締結
M&Aの最終契約はDA(Definitive Agreement)とも呼ばれ、M&Aスキーム(手法)によって「株式譲渡契約書」「事業譲渡契約書」などの契約書を作成し締結します。
最終契約書に記載する主な内容は、譲渡対象・売買価額・対価の支払い方法・表明保証・クロージングなどです。最終契約書はそのすべての事項に法的拘束力があり、締結後の一方的な変更や解除は特別な理由がない限り認められません。
最終契約書の締結にあたり、買収側は表明保証に関する事項が盛り込むことが重要です。表明保証とは売却企業が交渉中に開示した一定の事項(財務や法務など)が真実であることを保証するものであり、M&A後に保証違反があれば損害賠償を請求することができます。
売却側はクロージングの条件をしっかり確認しておくことが重要です。最終契約書で取り決めた条件を満たしていない場合は決済(引き渡しと対価の支払い)は行えず、最悪の場合はM&Aが白紙撤回される恐れもあるため、注意して確認するようにしましょう。
社内外の関係者へ情報開示
最終契約書の締結後は、できる限り早く社内外の関係者へM&A実施についての情報開示を行います。 情報開示が必要となるのは、従業員・取引先や顧客・取引している金融機関などです。
どのタイミングで情報開示を行うかは事情によって異なるため、事後のトラブルが生じないよう、M&Aの当事会社や関係者間で協議して慎重に進めるようにしましょう。
特にキーパーソンや有資格者など事業に不可欠な人材が離職してしまうと、M&A後の事業運営にも支障をきたす可能性もあります。M&A後の事業運営がスムーズに進むよう、丁寧に説明し十分理解を得ることが大切です。
経営統合作業(PMI)
譲渡金の受け取り・企業や事業の受け渡しなどが済むとM&A取引が完了し、PMIプロセスに移行します。PMI(Post Merger Integration)とは、日本語表記で「ポストマージャーインテグレーション」と呼ぶ、M&A後の経営統合プロセスです。
PMIは、経営戦略やビジョンの浸透・生産性向上・コスト削減・従業員のモチベーション維持、向上を目的に実施されます。そのため、M&A実施後の企業に新たな組織体制を構築するために重要なプロセスです。
6. M&Aのスキーム(手法)
M&Aには、大まかに分けると合併・買収・分割という3つのスキーム(手法)があります。これらの大まかなスキームは、事業譲渡や株式譲渡のように、さらに細かく分類されているのです。
この章では、M&Aの理解をより深めるため、M&Aのスキームを解説します。
買収
買収は、英語で「Acquisitions」と表記し、日本語で「アクウィジション」と表記します。買収とは、一方の企業がもう一方の企業の議決権を過半数以上取得するなどして、企業(事業)を買い取るスキームです。
買収は経営の効率化・新規事業への進出などの目的で実施されるスキーム(手法)であり、他企業の事業部門や営業権などのほか、ノウハウ・技術を持つ企業自体の買収が目指されることもあります。ここからは、代表的な買収のスキームを細かく紹介します。
株式譲渡
株式譲渡は、買収の中でも「株式取得」に分類される手法の一つです。
譲渡企業のオーナーが、保有株式を第三者に譲り渡すことで、経営権を移譲する手法です。
手続きとしては、売り手と買い手が株式譲渡契約書を取り交わし、株主名簿を書き換えるだけで済むシンプルな方法で、中小企業のM&Aでは最も多く活用されている手法です。
事業譲渡
事業譲渡は、企業が保有する事業の一部または全てを売却するスキーム(手法)です。主として、不採算事業の整理を目的とする企業再編などにおいて採用されています。
株式の異動を伴わないため、M&A後も売却側企業はそのまま会社運営ができ、反対株主がいる場合も行いやすい点がメリットです。
一方で、買収側企業は自社に必要な事業のみを取得することができます。株式譲渡と違い個別承継となるため、債務などのリスクを引き継がなくて済み、損金算入できるので節税効果(法人税)がある点もメリットです。
第三者割当増資
第三者割当増資は、企業が新株を発行して、既存の株主以外の第三者にその株式を割り当てる手法です。
資金調達方法としても広く利用されている手法で、結果として既存株主の持株比率は下がることになります。
M&Aにおいては、第三者割当増資によって第三者が発行済株式の3分の2以上を取得する目的で実施されることが多く、実質的にこの第三者が経営権を得ることになります。
株式交換
株式交換は、ある会社を100%子会社化するために用いられる手法で、買い手企業が売り手企業の株式を100%取得する代わりに、買い手企業から売り手企業のオーナーに対価が支払われます。
この対価には買い手企業の株式が用いられることが一般的ですが、他に現金を交付するなどの手法もあります。
買い手から見れば、自社の株式を譲渡対価として用いる場合には買収資金を用意しなくても良いというメリットがあります。
株式交付
株式交付は2021年3月に施行された会社法の改正によって新しく創設された制度です。
株式交換とよく似た手法で、売り手企業の株式を取得する代わりに、買い手が自社の株式を売り手企業のオーナーに渡すという手法です。
株式交換とは異なり、子会社化を目指す限り、100%子会社化を目的としない場合でも適用が可能です。なお、株式交付は外国会社の買収には使えません。
株式公開買付(TOB)
株式公開買付(TOB)は、英語で「Take Over Bid」と表記し、日本語で「テイク オーバー ビット」と表記します。
株式公開買付(TOB)は、買収先企業の株式取得を公告したうえで、不特定多数の株主から金融商品取引所を通さず直接的に株式を取得するスキーム(手法)です。
株式公開買付(TOB)では、一般的に、金融商品取引所における取引価額よりも上乗せされた価額により買付が実施されます。
経営陣買収(MBO)
経営陣買収は、英語で「MBO:Management Buyout」と表記し、日本語で「マネジメントバイアウト」と表記します。経営陣買収(MBO)は、経営陣が自社株式を買収するM&Aスキーム(手法)です。
具体的には、経営陣が自己資産、またはそれが足りない場合には銀行や投資ファンドから資金調達を行ったうえで、自社株式を取得します。
短期志向の株主・投資家などの意見に左右されることなく、中長期的な経営戦略の実施および意志決定の迅速化などが図られるため、経営体制の見直し・上場企業に課せられる情報公開の厳格化などへの対応策として注目されるスキームです。
なお、経営陣ではなく従業員が自社株式を買収するケースもあり、その場合はエンプロイー・バイアウト(employee buyout)と呼ばれます。
合併
合併は、英語では「Mergers」と表記し、日本語では「マージャーズ」と表記するスキーム(手法)です。合併では複数の会社が1つに統合され、上図のように吸収合併と新設合併の2種類があります。
第三者の関係(グループ会社間ではない)企業間が合併を行う場合、事前に株式譲渡で100%子会社化してから合併を実行するケースも多いです。
吸収合併
吸収合併は、英語で「Absorption-type Merger」と表記し、日本語で「アブソープション(タイプ)・マージャー」と表記します。
吸収合併は、一方の法人格を残しながら、もう一方の法人格を消滅させるスキーム(手法)です。合併により消滅する会社の権利・義務の全ては、合併後に存続する会社へと引き継がれます。
新設合併
新設合併は、英語では「consolidation-type merger」と表記し、読み方は「コンソリデーション(タイプ)・マージャー」です。
新設合併は、事業における権利・義務を引き継ぐ会社を新たに設立し、もともと事業を行っていた法人は承継後に消滅します。
分割
分割は、会社の事業に関する権利義務の全部または一部を他企業に承継させる組織再編行為です。会社分割は、上図のように新設分割と吸収分割の2種類に分けられます。
新設分割
新設分割は、会社分割により新しい会社を設立したうえで、新設会社に既存会社の特定の事業や資産を承継させるスキーム(手法)です。
M&Aで会社ごと譲渡するのではなく、会社の中の特定の事業のみを第三者に譲渡する場合に用いられることが多いです。
また、M&Aに限らず、グループの中で組織再編を行う場合にも用いられることがあります。
吸収分割
吸収分割とは、ある会社の特定の事業や資産を切り出して、既存の他の会社に承継させる手法です。
新設分割が会社を新設する手法であるのに対して、吸収分割は既存の会社に事業を移すという違いがあります。
事業譲渡とよく似た手法ですが、事業譲渡の場合は債権者や従業員、取引先の個別の同意が必要であるのに対して、吸収分割の場合はそれを必要とせず、承継が可能です。
そのため吸収分割の場合はコストがかからず、M&Aで用いられることも多いです。
M&Aスキームを選ぶ基準
紹介したようにM&Aスキームにはさまざまなものがあり、それぞれ効果が異なります。自社の目的に合ったもの手法を選ぶことが重要です。
対価の受け取り対象と課税対象
M&Aは手法によって対価を受け取る対象が変わり、課税対象と課税率にも違いがあります。実際に用いられることの多い3つの手法で、対価を受け取るのは以下の対象者です。
・株式譲渡:売却側企業の株主(オーナー経営者)
・事業譲渡:売却側企業(対価は会社へ入る)
・会社分割:売却側企業(対価は会社へ入る)
M&A手法を決める際は「誰が対価を得るのか(得たいのか)」を考えて検討する必要があります。また、M&Aは取引額が大きくなるため税負担も重くなりやすいため、検討時は課税対象者と税率についての考慮も必要です。
手続きやスケジュール
M&Aの大まかな流れはどの手法を用いても同じですが、必要な手続きが異なるため手間や時間の部分は大きく変わります。たとえば、株式譲渡の場合は、株主構成が変わるだけなので対象会社に大きな変更が生じることはなく、必要な手続きは株主名簿の書き換えだけです。
そのため、ケースによっては最終契約とクロージングを同時に行うこともあり、比較的短い期間でM&Aができます。一方で事業譲渡では個別承継と呼ばれる引継ぎ方法となり、従業員や取引先との契約は買収側が改めて結びなおすため数週間~1か月程度は必要です。
また、会社分割の場合(すべてのケースではない)は「債権者保護手続」を行うことが会社法上で定められており、その期間には短くとも1か月半程度を要します。
売却や買収の時期がある程度決まっている場合は、手法に手続きやスケジュールを確認して準備を早めに行うか、状況によっては手法の変更が必要ケースもあるでしょう。
売り手側の注意ポイント
売り手側がM&Aスキームを選ぶ際は、まず売却したい対象が「会社単位」なのか「事業単位」なのかを決める必要があります。会社自体を売却する(経営権を移転させる)場合に適しているのは株式譲渡です。株式譲渡では株主が変わるだけなので、従業員・関係先や事業への影響もさほどありません。
一方、事業の一部(あるいは全部)を切り出して売却したい場合に適しているのは事業譲渡です。取引対象は事業そのものなので経営権の移転は伴わず、売り手側企業はM&A後も会社運営を続けることができますが、重要員の雇用や関係先との契約は新たにまき直しが必要であり、許認可は原則として引き継ぐことはできません。
また、対価の受け取り先が誰(どこ)になるのかも、M&Aスキームを選ぶポイントのひとつです。株式譲渡の場合はオーナー(株主)が対価を受け取るので、引退後の生活資金獲得を目的とする場合などは適しています。一方の事業譲渡では法人(会社)が対価を得るため、資金投入したい別事業がある場合などに適した手法です。
M&Aスキームを選ぶ際は、売却単位と対価の受け取り先の2点を考慮して、自社に合ったものを選ぶ必要があるでしょう。
買い手側の注意ポイント
買い手側がM&Aスキームを選ぶ際も、まず譲受したい対象が「会社単位」なのか「事業単位」なのかを決める必要があります。会社単位で引き継ぐ場合は株式譲渡が適していますが、従業員の雇用や許認可を引き継げるメリットがある一方、資産だけでなく負債も引き継がなければなりません。
簿外債務や偶発責務などが大きければM&A後の事業運営に支障をきたすおそれもあるため、慎重に判断するとともデューデリジェンスの徹底が重要となります。
事業単位で譲受したい場合は事業譲渡が適したスキームです。事業譲渡は対象事業の必要な資産・負債のみを引き継ぐことができるので、自社に不要な事業や負債を負うリスクを避けることができます。ただし、許認可は原則引き継ぐことができず、従業員の雇用は新たに結びなおしとなるため、手間と時間が必要です。
また、買収額がどの程度になるのかという点もM&Aスキームを選ぶ要素のひとつとなるでしょう。株式譲渡と事業譲渡では、株式譲渡のほうが金額が大きくなり、売り手側が優良企業であるほど株価(評価額)は高くなるため買収金額も高額になります。
したがって、買い手側は投資額の回収見込みや取得目的を考慮してM&Aスキームを選ぶとよいでしょう。
まとめ
M&Aは、近年増加している後継者問題や市場縮小をはじめ、さまざまな経営課題の解決方法として活用されています。M&Aで享受できるメリットは予想を上回ることがある一方で、失敗すると企業にとって大きな損失となりかねません。
M&Aを成功させるには、細かなプロセスの定義や意味を踏まえたうえで、自社に合った戦略を策定すると良いでしょう。しかし、M&Aの検討・実施には専門的な知識や見解が必要となる場合が多く、経営陣のみで進めていくのは決して簡単ではありません。
したがって、自社に適したM&A仲介会社などの専門家を起用することがM&Aを成功させる大きなポイントとなります。