銀行にとって債権譲渡のメリットとは?資金回収・リスクヘッジの視点から徹底解説

2025年8月2日

企業間取引における資金調達の手段として知られる「債権譲渡」。ファクタリングや担保設定など、多様な形で活用されているこの仕組みは、債権者である企業や個人事業主にとってのメリットが注目されがちです。

しかし、実は銀行にとっても債権譲渡には大きなメリットが存在します。
金融機関の立場から見たとき、債権譲渡は単なる資金回収手段ではなく、信用管理、資産流動化、貸倒リスクの軽減など、さまざまな観点から有効なツールとされています。

この記事では、「債権譲渡とは何か」という基本的な理解から始め、銀行が債権譲渡を活用するメリットを多角的に解説していきます。

債権譲渡とは?銀行との関係を理解する前提知識

まず、「債権譲渡」とは何かを簡単に確認しておきましょう。

債権譲渡とは、売掛金や貸付金など、債権者(お金を受け取る側)が持つ金銭請求権を、第三者に譲り渡すことを指します。たとえば、A社がB社に100万円の売掛金を持っているとき、その債権をC社に譲渡すれば、今後B社がC社に支払うことになります。

このような債権の流通は、主に以下のような目的で行われます。

・資金繰り改善(ファクタリングなど)

・担保提供(融資の条件として)

・債権回収の効率化

・リスク移転

では、この債権譲渡において、銀行がどのような立場で関与し、どんなメリットを享受しているのかを詳しく見ていきましょう。

銀行にとっての債権譲渡の6つのメリット

1. 貸倒リスクの軽減(リスク分散)

銀行が企業に対して融資を行う際、最も警戒するのが貸倒リスクです。もし借り手が返済不能になった場合、銀行は大きな損失を被ります。

ここで「売掛債権」などを担保に取っていれば、企業が万が一倒産したとしても、譲渡された債権の回収によって損失をカバーすることが可能になります。
つまり、実物資産ではなく流動的な資産(債権)を担保とすることで、返済のセーフティネットを確保できるのです。

2. 融資の拡大が可能になる

売掛債権を譲渡担保として設定することで、銀行は従来よりも安全な形で追加融資が可能になります。

これにより、通常であれば与信枠に達して融資が難しい企業に対しても、「譲渡債権の評価を踏まえて貸出枠を広げる」ことができ、結果的に中小企業支援・地域経済の活性化にも貢献します。

3. 保全の柔軟性とスピード感

動産や不動産担保とは異なり、債権譲渡は比較的迅速かつ簡便に設定可能です。登記の費用や手間も比較的少なく、短期間での保全手続きが可能なため、特に短期融資や緊急の運転資金支援において威力を発揮します。

また、クラウド型債権管理システムの登場により、譲渡債権のモニタリングや証拠管理も効率化されつつあります。

4. 不良債権の早期回収・整理に役立つ

債務不履行に陥った顧客に対しては、通常の方法では債権回収が難しくなるケースがあります。しかし、債権譲渡によって資産を他者に売却することで、**問題債権を早期にバランスシートから外す(オフバランス)**ことができます。

これは、金融庁による健全性評価(自己資本比率)にも影響するため、銀行経営の観点からも重要なメリットです。

5. 与信管理の高度化

債権譲渡を通じて、銀行は顧客企業の売掛先・取引先の状況や信用力を把握する機会を得られます。これは、企業の経営状況や取引の健全性を評価するうえで非常に重要です。

実際、多くの銀行では「債権譲渡の対象となる債権の質」を見ながら、顧客企業の格付けを調整するケースもあります。債権の健全性を間接的に可視化できる手段として、債権譲渡は有用です。

6. 債権流動化ビジネスへの発展

大手メガバンクなどでは、債権をただ保有・回収するだけでなく、それを証券化したり、投資家に再販売したりすることで、資産流動化(ABS)ビジネスへと発展させるケースがあります。

このように、債権譲渡は単なる資金回収手段にとどまらず、銀行にとって新たな収益源の創出にもつながっているのです。

債権譲渡の実務上の留意点:銀行が注意すべき点

債権譲渡には多くのメリットがありますが、銀行としては以下の点に注意する必要があります。

・譲渡禁止特約の確認
債権には「第三者への譲渡を禁止する特約」がついている場合があります。これを無視して譲渡契約を進めると、法的無効となるリスクがあります。

・登記や通知の手続き
債権譲渡が対抗要件を満たすには、譲渡登記または債務者への通知が必要です。これを怠ると、他の債権者に対して優先権を主張できなくなる恐れがあります。

・譲渡債権の真正性と価値評価
譲渡される債権が架空・不良債権でないか、支払能力がある債務者かなど、債権の真正性・評価の妥当性を見極める必要があります。

近年の銀行と債権譲渡に関するトレンド
・クラウドファクタリングとの連携
一部の銀行では、クラウドファクタリング事業者と提携し、柔軟な資金調達支援のスキームとして債権譲渡を活用するケースが増えています。

・電子債権(でんさい)との統合活用
電子記録債権(でんさいネット)を通じた譲渡が一般化してきており、従来よりも安全かつ効率的な債権移転の実現が可能となっています。

まとめ:債権譲渡は銀行にとっても極めて有効な資産管理・収益手段

債権譲渡は、顧客企業にとっての資金繰り改善策であると同時に、銀行にとっても大きな戦略的メリットを持つ手段です。

・リスク分散と資産保全

・追加融資の根拠確保

・問題債権の整理とオフバランス化

・与信の高度管理

・証券化などの金融商品開発

これらの観点から、債権譲渡は単なる法的手続きではなく、金融機関の経営・リスクマネジメント戦略の一部として機能しているのです。

今後、デジタル技術や電子債権の普及がさらに進めば、債権譲渡の活用範囲は拡大し、銀行にとっての可能性もさらに広がることでしょう。