インボイス制度とは?その内容と個人事業主がすべきこと

2023年5月18日

今年10月1日から導入が始まる「インボイス制度」。個人事業主やフリーランスにも影響があるとは聞くけれど、一体どんな制度なの? いつまでにどんな対応をする必要があるの? そんな疑問に対し、インボイス制度の内容や導入までにやるべきことを分かりやすく解説します。

インボイス制度とは?

「インボイス制度」とは、2023年10月1日から導入される新しい仕入税額控除の方式で、所定の要件が記載された請求書により消費税を計算し、納付しようという制度です。

このインボイス制度、消費税計算についての説明や使用される用語が少々難しく、分かりにくいと感じている個人事業主やフリーランスの人も多いかもしれません。

インボイス制度導入による影響とは?

インボイス制度の導入によって大きな影響を受けるのは免税事業者(消費税の納税義務がない事業者で、主に課税売上高1,000万円以下の小規模事業者や個人事業主)だといわれており、制度の内容を把握せず何も対応をしないままだと、今後の仕事に影響がでてしまう可能性も……。考えられる影響としては、取引先から取引の停止や消費税額分の値引きを要求される、新たな仕事の依頼がきづらくなる、などがあります。

こういった事態を避けるため、インボイス制度の概要を理解し、制度スタートまでにどういった対応をすべきなのかをしっかり検討しておきましょう!

インボイス制度について詳しく解説

■インボイス制度=適格請求書等保存方式■
通称「インボイス制度」は、正式には「適格請求書等保存方式」と言います。適用税率や税額の記載など一定の基準を満たした「適格請求書(=インボイス)」を発行・保存することで、仕入税額控除を行い、正しく消費税額を計算するための仕組みです。

現在、消費税の税率は原則10%ですが、一部の商品には軽減税率8%が適用されるなど、複数の税率が混在しています。それにより、請求書に記載される商品にどの税率が適用されるのかを明確にする必要があり、インボイス制度が導入されることになりました。

売り手(個人事業主など)が買い手(取引先)に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるための「適格請求書(インボイス)」ですが、インボイス制度導入後には、この「適格請求書」がなければ、買い手(取引先)側が仕入税額控除を受けられなくなるというのが重要なポイントになります。

〇適格請求書(インボイス)とは?
現行の請求書は「区分記載請求書」と呼ばれますが、インボイス制度導入後に必要となる「適格請求書」では、“税率ごとに区分した消費税額等”と“請求書発行者の登録番号”の記載項目(下図の8、9)が追加になります。

適格請求書を発行できるのは「消費税課税事業者」のみ!

インボイス制度導入後に必要となる「適格請求書」ですが、現行の請求書のようにどんな事業者でも発行できるわけではありません。適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」のみで、適格請求書発行事業者に登録するためには「消費税の課税事業者」である必要があります。個人事業主やフリーランスにとっては、ここがポイントになります。

現在、国内で商取引を行う場合、一部を除く商品やサービスに対して消費税がかかります。事業者は商品提供に対して消費者などから一時的に消費税を預かり、その預かった消費税を国に納税するという義務があります。

ただし、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者については消費税の納税が免除され、「免税事業者」でいることが選択できます。そのため、売上高が1,000万円以下の個人事業主や小規模事業者の場合、この免税事業者であるケースが多いのです。

現在免税事業者に該当する個人事業主やフリーランスの人が「適格請求書」を発行するためには、税務署に届出書や申請書を提出し、課税事業者かつ「適格請求書発行事業者」になることが必要になるのです。消費税を納めていない「免税事業者」のままだと、適格請求書を発行することはできません。

「仕入税額控除」を受けるための要件が変わる

先に少し触れましたが、インボイス制度導入後は、「適格請求書」以外の請求書では買い手(取引先)が「仕入税額控除」を受けられなくなります。

「仕入税額控除」とは、売上時に受け取った消費税額から仕入れや経費にかかった消費税額が控除され、取引段階ごとに重複して税がかからないようにする仕組みです。

つまり、適格請求書の発行がない取引においては、事業者が仕入れや経費にかかった消費税を納税額から差し引くこと(控除)ができず、より多くの消費税を納税しなければならなくなります。そのため、適格請求書の発行ができない個人事業主やフリーランスなど、「免税事業者との取引は控えよう」となってしまうことが予想されるのです。

個人事業主やフリーランスへの影響は? 4パターンで解説

インボイス制度の概要について紹介してきましたが、実際に個人事業主やフリーランスにとってどんな影響があり、どんな選択肢があるのかをパターンごとに見ていきましょう。自身が現在「課税事業者」なのか「免税事業者」なのかによって収益への影響や取引先との関係性が変わってきます。

パターン1:自身が課税事業者&取引先も課税事業者

現在すでに自身が課税事業者で、取引先(買い手・売り手共に)も課税事業者の場合は、基本的にインボイス制度導入により収益などに大きな影響を受けることはないでしょう。インボイス制度の登録申請期限までに適格請求書発行事業者としての登録を済ませ、適格請求書発行の準備を進めましょう。

パターン2:現在免税事業者(売上1,000万円以下など)だが課税事業者になる選択をする

現在免税事業者で、インボイス制度導入に合わせて課税事業者になる選択をする場合は、売上額にかかわらず消費税の納税義務が発生します。そのため、現状と比べて消費税納税分の利益が減る可能性があるでしょう。

なお、課税事業者になることで、適格請求書発行事業者への登録が可能となりますので、取引先との関係性は変わらず今までどおり取引を継続できることになるでしょう。

パターン3:自身が課税事業者&取引先が免税事業者

自身がすでに課税事業者で、取引先(仕入先や外注先など)が免税事業者の場合、その取引先は適格請求書発行事業者ではないため、仕入れなどを行う際に適格請求書を発行してもらうことができず、自身の仕入税額控除が制限されます。

ただし、インボイス制度には「経過措置」と呼ばれる期間があり、双方が条件を満たしていれば、適格請求書発行事業者でない事業者からの仕入れも、段階的に一定の割合で仕入税額と見なして控除することができます(経過措置については「インボイス制度導入前後のスケジュール」の章を参照)。

パターン4:現在免税事業者で今後も免税事業者を継続する

現在免税事業者で、インボイス制度スタート後も免税事業者を継続する場合には、適格請求書発行事業者としての登録ができず、適格請求書を発行することができません。もし、売上先が課税事業者の場合、仕入税額控除が受けられず利益が減ってしまうということを理由に、取引の中止や消費税分の値引きを要求される可能性があります。

ただし自身の売上先が一般消費者や同じく免税事業者の場合は、適格請求書を発行する必要がないため、免税事業者を継続するほうが好ましいケースもあるでしょう。

インボイス制度導入前後のスケジュール

インボイス制度に対応する場合、下記のスケジュールに沿っていつまでに何をすべきかを押さえておきましょう。

インボイス制度は、今年2023年10月1日からスタートします。インボイス制度開始と同時に適格請求書を発行できるようになるためには、原則として2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録申請を完了させる必要があります。

なお、インボイス制度導入から6年後(2029年9月30日)までは、「経過措置」期間が設けられています。この期間中に免税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請を行う場合、通常課税事業者になる場合に必要となる「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要です。

また、経過措置期間中は、適格請求書発行事業者が免税事業者を相手に取引をする場合でも、段階的に一定割合で仕入税額控除を受けられるという特例があります(制度スタート後3年間は80%控除可能、4~6年後までは50%控除可能)。

インボイス制度導入までに個人事業主・フリーランスが対応すべき2つのこと

インボイス制度導入におけるもっとも重要なポイントは、「適格請求書」が発行できない事業者との取引では、「仕入税額控除」が受けられないということです。ほかの事業者から仕入れをしたり業務を発注したりする会社側(買い手)は、仕入税額控除が受けられないことによる利益減少を避けたいと考えます。

そのため、インボイス制度導入後は、適格請求書が発行できない事業者(≒免税事業者)との取引をやめたり、利益減少分の値引きを求めたりといった対応を取る会社が増える可能性がでてきたのです。

特に、年間の課税売上高が1,000万円以下の個人事業主やフリーランスなど小規模事業者は、これまで消費税の納税が免除される免税事業者であるケースも多かったため、インボイス制度を機に取引先から仕事の依頼が減るリスクがあるというのが現状です。

現在免税事業者の個人事業主・フリーランスは、インボイス制度導入までに次の2つの対応が必要になります。

1. 税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する

さまざまなケースを検討し、適格請求書発行事業者になることを決めたら、税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出しましょう。インボイス制度開始に間に合わせるためには、2023年3月31日までに登録申請を済ませましょう。

なお、2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録をした場合は、2023年10月1日から課税事業者となり、2023年10月1日~12月31日の期間については2023年分の消費税の申告が必要になります。

2. インボイスの発行事業者(適格請求書発行事業者)に登録するか否かを判断する

まずは課税事業者を選択し、インボイスが発行できる「適格請求書発行事業者」になるかどうか、を判断しましょう。これまで解説したように、免税事業者が課税事業者を選択して適格請求書発行事業者になる場合、メリットとデメリットのどちらもあります。

●メリット

一番大きなメリットとしては、インボイスを発行できることで取引先との関係性がキープでき、仕事の依頼が減るなどのリスクを回避できるということ。必ずしもすべての事業者が、適格請求書を発行できない事業者との取引をストップするということではないので、現在自身が取引を行う会社がインボイス制度後どのような対応を検討しているのかについても確認しておくと良いでしょう。

とはいえ、個人事業主やフリーランスの場合、インボイス制度後に新規で仕事の引き合いを受けたりすることも十分あるため、その際に「適格請求書を発行できないということが足かせにならないか」というところまで見越して考えておく必要があるでしょう。

●デメリット

一方、適格請求書発行事業者になるデメリットとしては、課税事業者となった後は消費税を納めることになるため、同じ売り上げを上げても手取りの利益が減ってしまうということがあります。また、消費税の申告や納税、帳簿付けの義務が発生するため事務処理も煩雑になるでしょう。

これらのメリット・デメリットを総合的に踏まえたうえで、インボイスを発行できる適格請求書発行事業者に登録するかどうかを判断しましょう。

「簡易課税制度」の検討も!

適格請求書発行事業者になる選択をした場合、課税事業者となり消費税の納税義務が発生します。それにあたり、「簡易課税制度」を選択することも検討してみると良いでしょう。

簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担を軽減し、仕入税額控除の計算を簡素化できる制度です。通常、消費税の納税額を計算するには、仕入れや経費にまつわる取引ごとの消費税の金額をすべて帳簿に付けて算出する必要がありますが、簡易課税制度では「みなし仕入率」を使い、納税する消費税額を簡易的に算出することが認められます。

ただし、簡易課税制度を適用するためには、「基準期間(フリーランスなどの個人事業主は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下」、「『消費税簡易課税制度選択届出書』税務署に提出」などの条件があります。

なお、通常は申請の翌年度から適用となる簡易課税制度ですが、インボイス制度経過措置期間中の2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録申請を行い課税事業者になった免税事業者は、2023年1月1日~12月31日の間に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した場合でも、インボイス制度開始と同時に簡易課税制度を適用することができます。

まとめ

2023年10月1日からスタートする「インボイス制度」により、それぞれの事業者に影響がでます。個人事業主やフリーランスの場合、仕事の増減にも関わる重要な制度になりますので、概要や対応すべきこと、メリット・デメリットなどをしっかり押さえ、期限までに対応を行うようにしましょう。