消費税の免税事業者のメリットとは?
2023年5月22日
消費税の納税義務者は「事業者」と「外国から貨物を輸入した者」です。
「事業者」とは、個人で商売を営む経営者や会社など、事業を行う者をいいます。ただし、すべての「事業者」が納税義務者となるわけではありません。
一定の小規模事業者等は、消費税を納付する義務がない「免税事業者」となります。
消費税の免税事業者とは
消費税の免税事業者とは、消費税を納める義務がない事業者のことをいいます。
小規模の会社や個人経営者にとっては、本業の経営の傍らで消費税の税額を計算する作業は非常に負担となるものです。そこで、このような小規模事業者に対する配慮から、前々年度の課税売上が1,000万円以下であるなど一定の条件を満たす事業者については、消費税を納付する義務がありません。
ちなみに、消費税を納める義務がある事業者のことは「課税事業者」といいます。
消費税の免税事業者に該当するケース
消費税の免税事業者に該当するのは、以下のようなケースです。
・個人事業者または法人の基準期間(※)における課税売上高(※)が1,000万円以下である。
・新たに開業した個人事業者または新たに設立された法人で、資本金または出資金が1,000万円未満である。
※課税売上高とは
課税売上高とは、消費税の対象となる収入の合計金額をいいます。
※基準期間とは
納税義務が免除されるかどうかは、前々年度の課税売上で判定します。
この判定の基準となる期間のことを「基準期間」といいます。
個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度です。
以上のように「基準期間」は、個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度です。基準期間が前々年度であるということは、設立したばかりの法人は基準期間がないことになります。
そこで、設立1年目、2年目で基準期間がない法人は、基準期間における課税売上高もないため通常は免税事業者となります(例外については後述)。
個人事業者は、開業して2年間は基準期間の課税売上高はゼロとなりますから免税という扱いになります。
ただし例外として以下の3つのケースでは、基準期間における課税売上高が1,000万円以下でも課税事業者となります。
・資本金または出資金の額が1,000万円以上の法人
・特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合
・特定の新規設立法人に該当する場合
資本金または出資金の額が1,000万円以上の法人
資本金が1,000万円以上ある法人は、新設法人でも消費税の納税義務が生じます。通常であれば、新設法人は基準期間がないため免税事業者です。しかし、ある程度の規模がある法人については、納税する資金力があるだろうとみなされ特別に課税事業者となります。
特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、前事業年度開始の日から6カ月間の課税売上高が1,000万円を超える場合には、納税義務が免除されず課税事業者となります。
「特定期間」とは、前事業年度開始の日以後6カ月の期間のことです。
前事業年度が7カ月以下である場合には、前々事業年度開始の日以後6カ月間が適用されます。
なお、判定の基準は課税売上高に代えて支払った給与等の金額の合計額でも判定することができます。
特定の新規設立法人に該当する場合
資本金1,000万円未満でも、以下の条件を満たす場合には課税事業者となります。
・上記株主または株主と一定の特殊な関係にある法人のうち、いずれかの基準期間に相当する期間における課税売上高が5億円超であること。
・株主から直接または間接に50%超の株式等の出資を受けているなど、実質的にその株主に支配されている状態であること。
つまり、「売上が5億円を超えるような企業から出資を受ける法人であれば、納税する資金力があるだろう」とみなされるということです。
消費税の免税事業者の届出は必要か
資本金または出資金の額が1,000万円以上の法人は「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」が必要
基準期間のない法人のうち、その事業年度の開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である場合には「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を提出します。
ただし、法人設立届出書に消費税の新設法人に該当する旨および所定の記載事項を記載して提出した場合には、この届出書の提出は不要です。
課税事業者が免税事業者となる時には「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」が必要
これまで課税事業者であった事業者が、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となったことにより消費税の課税事業者でなくなった時には、消費税の納税義務者でなくなった旨の届出手続が必要です。
大規模な法人に株式の50%超を保有されている法人は「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」が必要
大規模な法人に発行済株式の50%超を間接又は直接に保有されている法人は、実質的に小規模とはいえず、消費税の納税義務が免除されないので、「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」を提出します。
消費税の課税事業者となったほうが有利なこともある
設備投資が多額であった場合や、輸出業のように売上に係る消費税額より仕入に係る消費税額が多く還付が生じる事業者は、消費税の課税事業者となった方が有利なことがあります。
消費税の免税事業者が、「課税事業者選択届出書」を提出した時には、その提出をした日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間において課税事業者となります。
ただし、課税事業者選択届出書を提出した場合には、原則として適用が開始した課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以降でなければ、その適用を辞める届出(課税事業者選択不適用届出書)を提出することができないので十分検討してから届出を提出することが必要です。
インボイスで免税事業者はどうなるか
2023年(令和5年)10月1日より、適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されます。
インボイス制度とは、登録を受けた課税事業者(適格請求書発行事業者)が交付する適格請求書および帳簿の保存を、仕入税額控除の要件とするものです。
従来は、免税事業者からの請求書であっても帳簿および請求書等の保存が行われていれば、仕入税額控除が可能でしたが、インボイス制度においては、原則として適格請求書が保存されていなければ仕入税額控除の対象とはならなくなります。
免税事業者は、適格請求書を発行できないため、免税事業者からの仕入分については、仕入税額控除の対象となりません。
その結果、免税事業者が事業者間取引から排除されてしまうおそれがあります。
そこで、免税事業者からの仕入については、経過措置が設けられていて、免税事業者からの仕入について、令和8年(2026年)9月30日まではその80%を、その後令和11年(2029年)9月30日まではその50%を仕入税額控除の対象とする特例が設けられています。免税事業者も課税事業者を選択することで、適格請求書発行事業者の登録をすることができますから、この間に課税事業者を選択するかどうか決めなくてはなりません。
免税事業者のメリットを享受するためには
設備投資が多額であった場合や、輸出業のように売上に係る消費税額より仕入に係る消費税額が多く還付が生じる事業者などは、消費税の課税事業者となったほうが有利になるケースもありますが、多くの場合には消費税の免税事業者である方が、消費税の納付義務が免除されるためメリットは大きいと言えるでしょう。
では、この消費税の免税事業者であるメリットを最大限享受するためには、どのような点に注意をすればよいのでしょうか。
消費税の免税を意識して資本金の額を決める
資本金または出資の金額が1,000万円以上となると、消費税の課税事業者となります。
通常であれば、新設法人は基準期間がないので第1期、第2期の売上高にかかわらず最大で2事業年度にわたって消費税の納税義務が免除されますが、資本金または出資の金額が1,000万円以上になると、設立初年度から消費税の課税事業者となってしまいます。
したがって設立時には1,000万円未満としておいた方が、免税事業者のメリットを享受できることになります。
消費税の特定期間を意識して事業年度を決める
消費税法は、前事業年度が7カ月以下である場合には、その前事業年度は特定期間に該当しないと規定されています。これは、数値が確定せず課税なのか免税なのかすぐに判断できず不都合が生じるためです。
したがって、第2期の納税義務を判定する場合においては、前事業年度が特定期間に該当しなければ第2期は免税になります。
そこで、設立初年度開始の日以降6カ月の期間で売上高と給与等支払額が1,000万円を超える見込みである場合には、設立初年度が7カ月以下になるように決算日を設定することで、2事業年度分の1年7カ月間が消費税免税となります。
まとめ
以上、消費税の免税事業者の意味や要件、消費税の免税事業者のメリットを享受するための工夫などについてご紹介しました。
消費税の免税事業者は多くのメリットがありますが、そのメリットを享受するためには、資本金の額や事業年度の設定に注意する必要があります。また、それまで課税事業者であった事業者が、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となったことにより、消費税の課税事業者でなくなった時には、消費税の納税義務者でなくなった旨の届出手続が必要となりますので、忘れずに期限内に提出するようにしましょう。