インボイス制度に対応しないとどうなる?企業への影響を分かりやすく解説します!

2023年10月5日

2023年10月から開始されたインボイス制度について、食品等事業者はどの程度把握できているだろうか。特に請求書を発行する食品メーカーや卸売業などの売り手企業にとっては、今後の取引先との関係維持に関わる重要な取り組みとなるため、理解を深めておくことが重要だ。

今回は、インボイス制度の概要から対応する流れについて分かりやすく解説する。また課税事業者と免税事業者がどんな判断を下せば良いのか、それぞれの対応についても詳しくまとめているため、方針を決める際の判断材料にしてほしい。

そもそもインボイス制度とは?

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、より詳細な税率や消費税額を記載した請求書を取り扱うようにする制度のことだ。その請求書を発行・保存することで、事業者が仕入税額控除を受けられるようになるのがポイントだ。

売り手企業がインボイス制度へ対応するには、従来の区分請求書の様式にいくつかの追記事項を加えた「適格請求書(インボイス)」と呼ばれる請求書や納品書などの書類を発行しなければならない。

しかし適格請求書を発行するためには、インボイス制度の登録事業者になる手続きをし、登録番号を取得しなくてはならない。食品メーカーや食品卸売の事業者は、そうして記載要件を整えた適格請求書の発行する必要がある。

インボイス(適格請求書)とは?

インボイス(適格請求書)は、これまでの区分請求書では記載しきれていない複数税率や消費税額などの情報を盛り込んだものである。記載要件は以下の通りだ。

①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②取引年月日
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤税率ごとに区分した消費税額等
⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

これまでの区分請求書と比較して、適格請求書になることで記入する項目が増える。特に8%と10%の異なる税率を取り扱う場合、それぞれの項目毎に税率や消費税額を分けなければならない。

インボイス発行事業者の登録時に交付された番号を請求書に記載することも、適格請求書に必要な記載要件となる。記入する項目が増える分、漏れやミスなども生まれやすいため注意したいところだ。

インボイス発行事業者になるかの判断はどうしたらいい?

インボイス制度へ対応するかどうかは、自社の事業内容や取引先、消費税を納税・免除することで発生する損益などを総合的にみて判断する必要がある。特に請求書を発行するのは売り手側となるため、自社の商品を取引先に販売する食品メーカーや卸売業にとっても重要な選択だ。

では具体的にインボイス発行事業者になるかは、どういう基準で見定めればいいのだろうか。

課税事業者がインボイス制度へ対応するメリット・デメリット

すでに消費税の納付を行っている課税事業者でも、インボイス発行事業者になるかどうかは任意だ。食品メーカーや卸売業などの売り手側は、取引先が飲食店などの事業者であるケースが多いため、インボイスを発行する重要性も高い。

インボイス発行事業者になる
メリット
・インボイスの交付・保存が可能になり、取引先が仕入税額控除で損をすることがなくなる(取引先との良好な関係を継続しやすい)
デメリット
・登録申請といった手続き、発行したインボイスを保存するなどの手間が増える
・従来の請求書からの切り替えが必要

インボイス発行事業者にならない
メリット
・従来の請求書フォーマットを利用できる
・登録申請やインボイスを保存するなどの手間がかからない
デメリット
・インボイスを交付できず、取引先で仕入税額控除ができなくなる

取引先からすると、仕入税額控除ができないインボイス未対応の事業者から仕入れを行うのは、対応事業者から仕入れを行うのと比較して、支払う消費税額が増えるデメリットに繋がる。

インボイス発行に対応していないことが要因で、結果的に取引先数が減ってしまうリスクを背負うよりは、経理業務の手間が増えることになっても長期的な見通しを立てた場合、インボイス発行事業者になるメリットは大きいだろう。

免税事業者がインボイス制度へ対応するメリット・デメリット

続いて、免税事業者のメリットデメリットを見ていこう。免税事業者のままである場合、飲食店などの買い手から支払われた消費税分がそのまま利益となる。一方で、免税事業者がインボイス制度へ対応するには、インボイス発行事業者への登録に加え、課税事業者として消費税の申告や納付をするといった手間が増える。

課税事業者と同様に、インボイスを交付できないと買い手側が仕入税額控除できなくなるため、従来の取引を見直されるリスクが生まれる。メリットデメリットを考えインボイス発行事業者になるかの判断は必要となる。

課税事業者とインボイス発行事業者へ登録を行う
メリット
・インボイスの交付・保存が可能になり、取引先が仕入税額控除で損をすることがなくなる(取引先との良好な関係を継続しやすい)
デメリット
・消費税の申告やインボイス発行事業者への登録など手間が増える
・これまで免税されていた消費税の納付義務が発生する

免税事業者のまま
メリット
・インボイス発行事業者への登録や消費税の申告手続きをしなくてもよい
・消費税が免税される分、自社の利益に繋がる
デメリット
・インボイスを交付できず、取引先は仕入税額控除ができなくなる
・取引に影響が出る可能性がある

また卸売市場や農協を介して販売されるものは、流通上の特徴から課税事業者と免税事業者から出荷された商品を見分けることが難しい。そのため、商品を卸している生産者が免税事業者であった場合、インボイスの発行が免除される「卸売市場特例」という制度が存在する。

ただし免除される条件には
・農林水産省に認定された中央卸売市場
・都道府県知事に認定された地方卸売市場
・農林水産省が定める基準を満たしていること
などがあり、かなり限定的な点に注意が必要だ。

インボイス制度に対応する流れ

適格請求書が発行できるようになるまでには、登録申請や請求書フォーマットの変更などの準備に時間を要するため、早めの準備が必要だ。ではどのような準備や手続きが必要になるのか、インボイス制度へ対応する具体的な流れについて見ていこう。

適格請求書発行事業者への登録申請

適格請求書は、インボイス発行事業者へ登録した事業者でなければ交付することができない。そのため、インボイス制度へ対応する食品メーカーや卸売業者の方は、まずは登録申請を済ませる必要がある。流れとしては、以下の通りだ。

・税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出
・審査結果を待つ
・登録が承認されれば、「登録番号通知書」が交付される

今からでもインボイス制度への対応を進めよう

インボイス制度への対応は、取引先が仕入税額控除を行うために必須となる取り組みだ。登録申請などの審査にも期間がかかるため、早めの対応を心がけたい。