STO(Security Token Offering)とは?ブロックチェーンが変える次世代の資金調達とデジタル証券の未来
2025年11月1日
1.STOとは何か
STO(Security Token Offering)とは、簡潔に言えば、ブロックチェーン技術を活用してトークン化された“証券(セキュリティ)”を発行・販売し、資金を調達する手法です。具体的には、企業や資産所有者が、株式や債券、不動産など「何らかの実質的資産」または「出資/収益分配を得る権利」をトークン化(=デジタル・トークン化)し、投資家に提供することで、従来の株式/債券発行に代わる、あるいは補完する資金調達の可能性を切り拓くものです。
この考え方は、※かつての“ICO(Initial Coin Offering)”との対比で理解されることが多く、ICOが「主にユーティリティ・トークン(サービス利用権等)を発行して資金を集める」手法であったのに対し、STOは「発行トークンそのものが、法律上・実質的に”証券”としての機能・権利を有する」ことが特徴です。
もう少し丁寧に定義すると、以下のようなポイントがあります。
「セキュリティ・トークン(security token)」とは、株式・債券・出資持分・収益分配権・その他資産への権利をデジタル・トークンの形式で表現したもの。
STOとは、そうしたセキュリティ・トークンを発行し、投資家に販売(又は引き受けてもらう)ことをいい、資金調達という観点では、「トークンを購入することで実質的に出資/債権等を取得する」機会を提供するものです。
通常、法律・規制(証券法・金融商品取引法等)を考慮したうえで実施される点が、従来のICOとは異なります。
つまり、STOは「ブロックチェーン×資本市場(証券)」「トークン化された証券を用いた資金調達モデル」と捉えると分かりやすいでしょう。
2.STOが生まれた背景
なぜ今、STOという手法が注目されるようになったのか。その背景には次のような流れがあります。
2-1 ICOバブルとその反省
2017年〜2018年にかけて、ICOが爆発的に普及しました。スタートアップなどが「トークンを発行・販売」して資金調達を行うことで、従来の株式発行や債券発行ではなかった方式が登場しました。例えば、あるプロジェクトのトークンを買えば、そのプロジェクトのサービスを将来使える、などというユーティリティ・トークン型の資金調達モデルです。
しかしながら、この動きには大きな問題もありました。投資家保護が十分でない、法規制が整備されていない、詐欺的なプロジェクトが多数出現した、という点です。実際、「2018年末時点で、暗号資産(仮想通貨)市場の時価総額が数千億ドル規模で減少した」ことも報じられています。
そのため、金融当局・規制当局がトークン発行・販売に対して厳しい目を向けるようになり、「トークン=単なるユーティリティではなく、実質的に証券と捉えられる可能性がある」ことが明確にされました。例えば、米国の U.S. Securities and Exchange Commission(SEC)は、「Howey Test(ハウィー・テスト)」を用いて、トークンが証券に該当するかを判断する立場を明らかにしています。
2-2 ブロックチェーン技術の成熟と証券市場の課題
一方で、ブロックチェーン技術そのものも成熟が進み、次のようなメリットが注目されるようになりました。
資産をトークン化(=デジタル証券化)することで、流動性の低かった資産(例:不動産、アート、プライベート・エクイティなど)に投資機会を提供できる。
ブロックチェーン上で記録・取引が行えるため、決済・清算プロセスの自動化・効率化が期待される。
小口化・分割所有が可能となるため、従来「高額でハードルが高かった投資」をより多くの投資家が参加できるようになるポテンシャルがある。
これらを背景に、「トークン化された証券(セキュリティ・トークン)を、規制をクリアしながら発行・流通させる」STOモデルが、次のステップとして注目を集めるようになったのです。
2-3 規制と法制度の整備
ICOの“野放し”状態を反省して、各国・地域で証券規制(および暗号資産・トークン関連規制)を整理する動きが出てきました。例えば、EU域内では「移転可能な金融商品(transferable securities)としてトークンが扱われる可能性」「MiFID II/Prospectus Regulationとの関係」などが議論されています。
日本でも、例えば「電子記録移転権利等(電子帳簿上で記録される権利)としての扱い」の議論があり、トークン化された権利が既存の金融商品取引法の対象となるかが整理されています。
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このように、技術・ニーズ・規制が揃う局面で、STOの可能性が浮上してきたという構図です。
3.STOの仕組み・構成要素
次に、STOモデルがどのように構成され、実際にどのように運用されるかを、主な構成要素(トークン、基盤資産、プラットフォーム、流通)を踏まえて説明します。
3-1 基盤資産(Underlying Asset)
STOでは、トークンが裏付ける「実質的な資産または権利」が重要です。例えば、次のようなものが想定されます:
・企業の株式・持分(エクイティ・トークン)
・債券・貸付・収益分配権(デット・トークン)
・不動産・芸術作品・コモディティなどの実物資産をトークン化(アセット・バックド・トークン)
この「裏付け資産」があることで、トークンが単なるユーティリティではなく、「投資契約」「証券的な権利・収益分配の期待」などを持ち得るわけです。
3-2 セキュリティ・トークン(Security Token)
この基盤資産の経済的・法的権利(収益の分配、議決権、償還請求権など)をトークンという形でブロックチェーン上に発行します。これが「セキュリティ・トークン」です。
特徴としては:
・ブロックチェーンに記録され、いつでも・誰でもトークンの所有・履歴を監査できる可能性がある。
・発行・売買・移転のプロセスがスマートコントラクトやトークン・プラットフォームによって効率化できる。
・分割所有が可能=たとえば高額な不動産や美術品を、数千・数万トークンに分割して小口投資できる。
3-3 STO発行・販売(Offering)
STOでは、企業等が発行体となり、セキュリティ・トークンを発行し、投資家に販売・引き受けてもらう形で資金を調達します。発行体はトークン購入者に対して、所定の契約条件(例えば、トークン保有による収益分配、議決権、償還条件など)を明示します。
このとき、発行体および投資家は、既存の証券法令・金融商品取引法・マネーロンダリング防止(KYC/AML)等の規制を満たす必要があります。特に米国では、トークンが証券かどうかを判断する「Howey Test」が適用されるという点が重要です。
3-4 流通・二次市場
トークンが発行された後、次に重要なのが「流通・二次市場」での取引です。従来の株式や債券と同様、投資家はトークンを売却・譲渡することで流動性を得たいというニーズがあります。そこで、トークンの流通を支えるプラットフォーム(セキュリティ・トークン取引所)や、スマートコントラクトによる譲渡制限(ロックアップ、転送承認)などの仕組みが使われます。
ブロックチェーンを使うことで、取引の履歴が明確になり、清算・決済のプロセスが簡略化される可能性があります。
3-5 発行プロセスの流れ(概要)
以下はSTOの典型的な流れです(国・地域・発行体によって異なりますが、一般的な流れとして)。
・発行体がトークン化対象となる資産・権利を定める。
・トークン設計(どのような権利を付与するか、議決権・配当権・償還条件等)を定め、スマートコントラクト等技術基盤を整備。
・規制適合性(証券法・金融商品取引法・KYC/AML)を確認し、必要な認可・届出を行う。
・トークンを発行・販売。投資家から資金を受け取り、トークンを割当・発行。
・発行後、トークンの流通・二次取引をサポートする市場を整備し、保有者が権利を行使できる仕組みを提供。
・発行体は報告義務・情報開示義務を果たし、トークン保有者に配当・償還等を実行する。
以上がSTOの仕組みの大まかな概要です。
4.STOのメリット・魅力
STOが注目を浴びる背景には、従来の資本市場・証券発行・資産運用の枠組みに対する「アップグレード」としての可能性があるためです。以下に主なメリットを挙げます。
4-1 規制適合性&投資家保護
STOは、トークンを発行する際に法令・規制(証券法・金融商品取引法・KYC/AMLなど)を考慮し、「単なるユーティリティ・トークン」ではなく投資商品として整備されることが多いため、ICOに比べて投資家保護や信頼性という観点で優位とされます。
4-2 流動性の向上と小口化
トークン化により、例えばこれまで「高額すぎてひとりの一般投資家には手が届かなかった」不動産・アート・未上場企業の株式などを「細分化」して投資可能にし、流動性を向上させる可能性があります。たとえば、1つの不動産を1000トークンに分割して発行すれば、小口投資家も参加しやすくなります。
また、ブロックチェーンを通じた記録・清算により、従来よりも迅速かつ低コストでトークンの移転・所有変更ができる可能性があります。
4-3 コスト・時間の削減
従来、証券発行には多くの仲介・清算・証券代行・印刷・書類のやりとりといったコスト・時間がかかりました。トークン化とスマートコントラクトを活用することで、これらを効率化・省力化できるという期待があります。
4-4 グローバルなアクセスとマーケット拡大
ブロックチェーン・トークン発行という方法は地域・国境を超えた資金調達・投資家参加の可能性を広げます。これにより、資金を必要とするプロジェクト側も、より多様な投資家層から調達できる可能性があります。
以上のようなメリットにより、STOは「次世代の証券発行」「資産のトークン化による資金調達の革新」として注目されています。
5.STOの課題・リスク
ただし、STOは万能ではなく、いくつかの重要な課題・リスクも抱えています。実際に導入・運用するにあたっては、慎重な検討が必要です。
5-1 規制・法制度の不透明性
発行地・対象地域・対象資産・トークンの内容によって、適用される証券法・金融商品取引法・暗号資産規制などが異なり、規制が未整備・曖昧なケースがあります。特にトークンが「証券かどうか」「電子記録移転権利かどうか」といった判断が国や地域で異なることがあります(日本も例外ではありません)。
このため、発行体としては法務・コンプライアンス体制を整備しなければならず、規制変更や解釈変更のリスクも伴います。
5-2 流動性・市場成熟度の限界
トークン化された証券が流通する二次市場は、従来の株式・債券市場ほど成熟していないケースが多く、流動性が限定的、または取引の場が限られている場合があります。
たとえば、発行されたトークンが「転売禁止(ロックアップ)」「発行体承認がないと移転できない」といった制限を持つこともあります。これが投資家にとっての流動性リスクとなります。
5-3 技術・運用リスク
ブロックチェーン・スマートコントラクト・ウォレット管理など、技術的な運用も伴うため、セキュリティ(ハッキング・ユーザー管理ミス)、技術仕様の不備、プラットフォームの信頼性などのリスクがあります。加えて、トークンが予定通り機能しない、トークン所有者の権利行使が難しい、運営会社が透明でないなどのガバナンス・リスクも想定されます。
5-4 投資家保護・情報開示の課題
発行体が適切に情報開示をしない、あるいは投資家がその内容を理解していないまま購入してしまうという可能性があります。証券と同様、発行体の財務状況、トークンに付与される権利、将来の収益見通しなどを十分に開示・説明できる体制が求められます。これが不十分であれば、STOでも投資家が損害を被る可能性があります。
6.日本におけるSTOの現状
日本でのSTOについても、徐々に関心が高まっていますが、制度・実務には慎重な進展が見られます。
6-1 法的整理と扱い
日本では、トークン化された権利が「電子記録移転権利等」として扱われる可能性が議論されており、また、既存の 金融商品取引法(FIEA)やその他の法律の枠組みの中でどのように位置づけるかが論点となっています。
たとえば、発行対象が「株式相当・債権相当」の権利であれば、既存の金融商品取引法上の“有価証券”の規制を受ける可能性があります。そのため、発行業者・受入投資家側ともに、法令面・実務面で慎重な対応が求められています。
6-2 日本での実例・動き
日本国内でも、STOやトークン化証券の実験・導入検討が進んでおり、自主規制団体として 日本STO協会(Japan STO Association)などが立ち上がり、定義・実務指針づくりを進めています。
ただし、2017〜2018年のICOブームに比べれば、STOの実案件数・資金調達額ともに限定的であり、市場として「これから成長していく途上」にあります。
6-3 日本投資家・企業の注意点
日本でSTOを検討する際には、以下のような注意点があります:
トークンが証券に該当するかどうか(=発行/流通時点で金融商品取引法などの枠組みに入るか)を慎重に判断する。
投資家の募集・販売方法が、金融商品取引業等の登録を要するかどうかを確認する。
投資家側としては、そのトークンの裏付け資産・権利内容、発行体の情報開示状況、流動性・譲渡制限などを十分理解する。
技術・プラットフォームの信頼性、コスト・手数料、保管(ウォレット管理)等の運用面リスクも確認する。
このように、日本でも着実にSTOの体制整備が進んでいますが、実務展開には時間を要しているのが現状です。
7.今後の展望・市場可能性
STOは、将来的な金融・資本市場の変革を促すポテンシャルを持っています。以下、主な展望を整理します。
7-1 市場規模の成長予測
各種調査によれば、トークン化証券市場・STO市場は今後年率数十%の成長が期待されており、数十兆ドル規模となる可能性が指摘されています。たとえば、「2024年に19億米ドルだったセキュリティ・トークン市場が、2033年には174億米ドルに成長見込み」という報告もあります。
また、資産トークン化全体では「20兆ドルを超える可能性」という試算も出ています。
7-2 対象資産・投資機会の拡大
今後、STOの対象となる資産の幅が拡大していくと予想されます。以下のような動きが想定されます:
・不動産・インフラ・エネルギー・芸術作品・スポーツチーム所有権など、従来流動性が低かった資産のトークン化。
・プライベート・エクイティ(未上場株式)やベンチャー投資のトークン化。
・グローバル投資家を対象にした、地理的国境を超えたトークン発行・流通。
こうした動きにより、従来「一部の富裕層/機関投資家しかアクセスできなかった」投資機会が、一般投資家にも開かれていく可能性があります。
7-3 技術・インフラの進化
流通のためのプラットフォーム、ウォレット・カストディ(保管)ソリューション、スマートコントラクトの信頼性、また規制対応可能なセキュリティ・トークン取引所の整備など、インフラ整備が重要です。これらの技術・制度・運用が整うことで、STOがより一般化し、実案件が増えていくでしょう。
7-4 日本・アジアにおける展開
特に日本やアジア地域では、金融規制・ブロックチェーン技術・投資文化という観点から、STO普及にはいくつかの課題と同時にチャンスがあります。例えば、アジアの富裕層・海外不動産投資ニーズ・観光客・インフラ案件などをトークン化資産として発掘する動きも出てくる可能性があります。制度面でも、日・シンガポールなどがデジタル証券・トークン化を推進しており、地域の競争力となる可能性があります。
7-5 留意すべき点(今後の課題)
一方で、次のような課題も引き続きあります:
・規制整備の遅れ/国際間のルール調整の必要性。
・投資家保護・情報開示制度・プラットフォームの信頼性確保。
・流動性確保・二次市場の成熟化。
・発行体・投資家の教育・理解促進。
・技術的なセキュリティリスク(ハッキング、ウォレット管理ミス等)。
これらが適切にクリアされていくことで、「STOが資本市場の一翼を担う」日が来ると期待されています。
8.まとめ
以上、STO(Security Token Offering)について、背景・仕組み・メリット・課題・日本の状況・今後の展望という観点から整理しました。特に以下のポイントを押さえておくと理解が深まるでしょう。
STOとは「トークン化された証券を用いて資金を調達・流通させる」仕組みであり、単なるICOとは異なる。
ブロックチェーン技術を活用することで、資産のトークン化・小口化・流動性向上・コスト低減が期待される。
規制適合・投資家保護・流動性確保などの課題があり、導入には慎重かつ慎重な準備が必要である。
日本を含む各国で制度整備や実務モデルが進みつつあり、市場規模拡大・技術/インフラ整備・新しい資産クラスのトークン化という観点で、今後も注目される分野である。
もしご希望であれば、日本国内での具体的なSTO事例や、発行体としてのステップ・チェックリスト、あるいは投資家目線での注意点・リスク分析なども整理可能です。ご関心があればお知らせください。
