SPAC上場とは?仕組みと注目される理由を徹底解説

2025年11月4日

近年、米国市場を中心に注目を集めている資金調達手法の一つが「SPAC上場(スパック上場)」です。SPACとは「Special Purpose Acquisition Company」の略称で、日本語では「特別買収目的会社」と訳されます。これは、事業を持たない会社がまず上場し、調達した資金を使って他の企業を買収することで上場を実現するという、従来のIPO(新規株式公開)とは異なるユニークな上場スキームです。

ここでは、SPAC上場の仕組みやメリット・デメリット、実際の成功例、そして日本企業がこの手法を活用する際のポイントについて詳しく解説していきます。

SPAC上場の基本的な仕組み

SPAC上場は大きく分けて「設立」「上場」「買収」の3段階で進行します。

まず、投資家や発起人(スポンサー)がSPACを設立します。この時点ではSPACは実体のある事業を持たず、「将来、有望な企業を買収して上場させる」という目的のみに存在します。次に、SPAC自体が株式市場に上場し、一般投資家から資金を集めます。この段階で調達された資金は信託口座に預けられ、買収先が決まるまで運用されません。

その後、SPACの運営チームは一定期間(通常2年以内)に買収対象企業を探し、交渉を進めます。買収契約が成立すれば、その企業はSPACを通じて間接的に上場企業となるのです。

もし期限内に適切な買収先が見つからなかった場合、SPACは解散し、投資家に資金が返還される仕組みになっています。

なぜSPAC上場が注目されているのか

SPAC上場が世界的に注目されている理由は、大きく3つあります。

1. 上場までのスピードが早い

通常のIPOでは、監査や審査、ロードショーなどの準備に1年以上かかることが一般的です。これに対しSPAC上場では、すでに上場済みのSPACと合併する形で上場が完了するため、数カ月で実現できるケースもあります。

2. 市場環境の影響を受けにくい

IPOでは株式市場の動向が株価に大きな影響を与えます。一方、SPAC上場は事前に買収価格が合意されるため、相場の急変に左右されにくいという利点があります。

3. 柔軟な資本構成が可能

SPAC上場では、買収交渉の段階で資本構成や経営権の割合などを柔軟に設定できます。そのため、創業者や経営陣が経営主導権を保ちやすく、ベンチャー企業にも好まれています。

SPAC上場のメリット

SPAC上場には、従来のIPOにない魅力が多くあります。

・迅速な資金調達:短期間で市場資金を得られるため、成長フェーズにある企業にとって有利です。

・買収交渉の自由度:企業価値の算定方法や契約条件を柔軟に調整でき、創業者側にも交渉余地があります。

・スポンサーの支援:SPACのスポンサーは経験豊富な投資家や経営者が多く、彼らのネットワークや経営ノウハウを活用できる点も強みです。

・市場での認知度向上:SPAC上場を通じてグローバル市場における知名度や信用力が一気に高まります。

SPAC上場のデメリット・リスク

一方で、SPAC上場には注意すべきリスクも存在します。

・スポンサー利益との乖離:SPACの発起人は少ない投資で多くの株式報酬を得られるため、投資家と利害が完全に一致しない場合があります。

・買収先選定の不確実性:期限内に適切な企業が見つからなければSPACは解散します。また、買収先の業績が予想より低迷した場合、株価が急落するリスクもあります。

・監査・情報開示の透明性:IPOに比べ審査が緩いため、不十分な情報開示が問題視されるケースもあります。

・規制強化のリスク:米国ではSPACブームの反動で証券取引委員会(SEC)が規制を強化しており、今後もルール変更の可能性があります。

世界と日本のSPAC動向

SPAC上場は特に米国で盛んに行われており、2020~2021年には数百社がSPACを通じて上場を果たしました。中にはEV(電気自動車)関連やヘルステック、AI企業など、次世代産業の成長企業も多く含まれています。

一方、日本では長らくSPAC上場が認められていませんでしたが、近年になって金融庁や東京証券取引所が制度導入に向けた検討を進めています。日本企業が海外SPACを利用して米国市場で上場するケースも増えており、国際的な動きが加速しているのです。

SPAC上場の成功例

SPAC上場を活用して大きく成長した企業も少なくありません。代表的な例として、電気自動車メーカーのLucid Motorsや宇宙開発企業のVirgin Galacticが挙げられます。これらの企業はSPACを通じて巨額の資金を調達し、急速に事業拡大を実現しました。

また、AIやバイオテクノロジーなどの先端分野では、研究開発に莫大な資金が必要なため、SPACによる上場が効率的な資金調達手段となっています。

日本企業がSPAC上場を検討する際のポイント

日本企業がSPACを活用する場合、以下のような点に注意が必要です。

・法的・会計的な準備:日本ではまだSPAC制度が整っていないため、米国やシンガポールなど海外市場での上場を視野に入れる必要があります。

・適切なスポンサー選定:経験豊富で信頼できるスポンサーを選ぶことが成功の鍵となります。

・企業価値の適正評価:買収交渉において、自社の成長性や事業モデルを正確に評価してもらうための戦略が不可欠です。

・上場後の経営体制強化:SPAC上場後は上場企業としてのガバナンス体制を整備し、継続的な成長を見据える必要があります。

まとめ

SPAC上場は、スピード感ある資金調達と柔軟な上場プロセスを実現する革新的なスキームとして、世界的に注目を集めています。特に、スタートアップやテクノロジー企業にとっては、短期間で大規模な資金を確保できる魅力的な選択肢です。

しかしその一方で、規制リスクや投資家との利害不一致といった課題も存在するため、慎重な検討と専門家のサポートが欠かせません。

日本においても今後SPAC制度の導入が進めば、より多くの成長企業がグローバル資本市場にアクセスできる時代が訪れるでしょう。SPAC上場は、企業の可能性を拡張する新たな資金調達の扉として、これからも注目が続くことは間違いありません。