新規開業資金とは?概要や特徴、新創業融資制度との違いを徹底解説
2023年7月20日
新規開業資金を活用して事業を成長させよう
新規開業資金は、日本政策金融公庫が提供している融資制度です。
まだ実績が乏しい開業したての事業者は、資金調達で苦労することが少なくありません。
新規開業資金は、これから開業する人、開業して間もない人を対象としている制度です。
新創業融資制度と組み合わせて使うこともできるので、検討してみてください。
新規開業資金の基礎知識
開業時にまず問題となるのが、資金面のやりくりです。
多くの人が金融機関からの融資を利用するものの、金利などの条件や融資可能額がニーズに合わない可能性もあります。
また、銀行によっては実績がないと融資の審査で厳しくなることもあります。
これから開業したいと考えている人に知ってほしいのが、日本政策金融公庫の新規開業資金です。
新規開業資金の概要やポイントをまとめました。
新規開業資金の概要
新規開業資金は、日本政策金融公庫で提供されている融資制度です。
この融資制度は、新規の開業者をターゲットにしている点が特徴となっています。
これから事業を始める人、飲食店を開く人が利用できます。
日本政策金融公庫は、国の政策に基づいて民間金融機関の補完を旨としつつ、社会のニーズに対応することを目的とする金融機関です。
経済危機や自然災害に対するセーフティネットであるとともに、資金調達が難しい中小企業、小規模事業者にも融資や各種支援を提供しています。
新規開業資金は、国民生活事業と中小企業事業で取り扱われている融資制度です。
国民生活事業では、個人企業や小規模企業向けの小口資金融資を中心として扱っています。
一方で、中小企業事業では中小企業向けの長期事業資金を融資していて、比較的大きな規模の企業が利用しています。
ここでは、一般的な新規開業者を対象にしている国民生活事業の新規開業資金について解説していきましょう。
項目ごとに解説しているのでチェックしてください。
資金の使いみち
新規開業資金を受けた資金の使い道は、新しい事業を始めるため、または事業開始後に必要となる設備資金および運転資金です。
一度は廃業したものの、再チャレンジで開業する人もいるかもしれません。
新規開業資金は、前事業に係る債務を返済するために必要な資金にも使用可能です。
融資限度額
新規開業資金の融資限度額は、7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。
返済期間
新規開業資金の返済期間は、設備資金か運転資金かによって違います。
設備資金は20年以内で、うち据置期間2年以内と定められています。
一方で、運転資金は返済期間が7年以内でうち据置期間2年以内です。
開業歴などがあって再チャレンジする場合には、運転資金は15年以内まで利用できます。
うち据置期間2年以内です。
開業後の資金繰りにも関係する部分なので、返済期間についてはよく確認しておきましょう。
金利
新規開業資金の金利は基準利率です。
ただし、一定の要件を満たす場合には特別利率が適用されます。
要件は以下のものです。
1. 地域おこし協力隊の任期を終了して、地域おこし協力隊として活動した地域で新たに事業を始める人
2. Uターン等で地方で新しく事業を始める人
3. 認定特定創業支援等事業を受けて新しく事業を始める方
4. 外国人起業活動促進事業における特定外国人起業家の方で新しく事業を始める人
5. 女性の方、35歳未満または55歳以上の方
6. 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用しているまたは適用する予定で、自ら事業計画書の策定を行い、中小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている人
7. 独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けた人
8. 技術・ノウハウ等に新規性がみられる人
9. 地方創生推進交付金を活用した起業支援金の交付決定を受けて新しく事業を始める人
10. 地方創生推進交付金を活用した起業支援金および移住支援金の両方の交付決定を受けて新たに事業を始める人
事業者によって属性が違うので年齢などの条件を満たすのは難しいかもしれませんが、認定特定創業支援等事業のように一定の研修で適用される条件もあります。
さらに、融資後に利益率や雇用に関する一定の目標を達成した場合に利率を0.2%引下げる創業後目標達成型金利もあるので、使える制度をチェックしてください。
必要な自己資金の目安は?
日本政策金融公庫による新規開業資金の概要では、自己資金については言及されていません。
新規開業資金の要件として定められていないため、自己資金がいらないと考える人もいるでしょう。
しかし、自己資金の要件が定められていないのは、事業計画や申込者の状況によって必要な自己資金も変わるからであり、一概にいくら必要とは言えないためです。
事業計画、実績によって必要な自己資金額は違います。
自己資金の額は、融資の可否を決定する審査や融資額にも影響します。
可能な限り、自己資金を多く用意しておくようにしましょう。
新規開業資金についての相談は、日本政策金融公庫の公式サイトの事業資金相談ダイヤルでも受け付けているので、利用も検討してください。
新規開業資金と新創業融資制度を使いこなそう
新規開業資金と混同されやすい制度に、新創業融資制度があります。
この2つはまったく違う制度です。
それぞれの違いを知って活用してください。
新創業融資制度の特徴
新創業融資制度は、新規開業資金と同様に日本政策金融公庫で提供されている融資制度です。
新創業融資制度の資金の使い道は、新たに事業をはじめるための設備資金もしくは事業開始後に必要な運転資金です。
融資限度額は3,000万円で、運転資金は融資限度額のうち1,500万円までと決められています。
資金調達を成功させるためには、その制度の特徴を理解して自社に合ったものを選択することが重要です。
以下では、新創業融資制度の特徴を紹介しています。
ほかの融資制度と組み合わせて利用する
新創業融資制度の最大の特徴は、単独で利用できず、ほかの融資制度と組み合わせて使わなければいけないという点です。
すでにほかの融資制度を検討している場合には、新創業融資制度と組み合わせて使うことを検討しましょう。
無担保かつ無保証
新創業融資制度は、無担保かつ無保証で融資が受けられる融資制度です。
創業したての場合、担保となるような資産や保証人を用意できないケースも少なくありません。
しかし、実績が乏しければ金融機関から不動産などの担保を求められることがあります。
新創業融資制度であれば、無担保でも資金調達が可能です。
さらに、第三者や代表者が保証人になる必要がないため、事業がうまくいかなかった場合でもリスクが軽減できます。
ただし、法人の代表者が希望すれば代表者が連帯保証人になることもできます。
その場合には金利の軽減が受けられるため、どちらにするかよく考えてから決定してください。
金利が変動する
新創業融資制度で適用される金利は、経済状況や物価の影響を受けて変動します。
最新の利率を調べるためには、日本政策金融公庫の『国民生活事業(主要利率一覧表)』をチェックしてください。
令和4年7月の基準利率は、2.02~2.90%となっています。
要件を満たす人が利用できる
新創業融資制度は、事業を開始した時期と自己資金の要件が設定されており、両方を満たす人が利用できます。
まず、事業の開始時期は、新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない人です。
自己資金の要件としては、新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない人に対して創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金が求められています。
ただし、現在勤めている企業と同じ業種の事業を始める人や、産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める人などに該当する場合は、本要件を満たしているとして扱われます。
これから新創業融資制度を利用したいと考えている人は、各要件を確認しておきましょう。
新規開業資金と新創業融資制度の違い
新規開業資金と新創業融資制度は、どちらも開業者向けの融資制度であり、混同してしまうことも珍しくありません。
新規開業資金と新創業融資制度の大きな違いのひとつが、単独で利用できるかどうかです。
新規開業資金は、単体、それだけでも利用可能ですが、新創業融資制度はほかの融資制度と組み合わせて初めて利用可能です。
新創業融資制度を使うためには、新規開業資金や女性、若者/シニア起業家支援資金といったほかの融資制度と組み合わせます。
新創業融資制度と組み合わせることによって、無担保かつ無保証で融資が受けられます。
さらに、法人の代表者が連帯保証責任を負うか否かも大きな違いです。
新創業融資制度は連帯保証責任を負わない時でも借入可能なので、代表者が負うリスクを減らすことができます。
一方で、新規開業資金の場合には、代表者が保証人になるのでリスクが気になるかもしれません。
新創業融資制度と組み合わせて利用することも検討してください。
新規開業資金とほかの融資制度を組み合わせて利用しよう
新規開業資金と組み合わせできる融資制度は、新創業融資制度だけではありません。
例えば、新創業融資制度は税務申告を2期終えていると利用できません。
しかし、税務申告を2期終えている場合であれば、担保を不要とする融資や経営者保証免除特例制度を利用可能です。
経営者保証免除特例制度を使うと、事業者の保証は免除になり、担保の有無は選択可能となります。
保証免除した融資に適用する融資制度の利率に0.2%が上乗せされる制度です。
さらに、金利コストをできる限り少なくするのであれば、創業支援貸付利率特例制度があります。
これは、各融資制度に定める利率から-0.65%になるのに加えて、雇用の拡大を図る場合は、各融資制度に定める利率-0.9%になる制度です。
設備投資を行う場合であれば、設備資金貸付利率特例制度(全国版)が利用できます。
設備投資に関わる融資は、融資日から2年間は各融資制度に定める利率-0.5%となります。
利率の加減は0.3%です。
それぞれの融資制度には、対象となる事業者や要件に違いがあります。
自社のニーズや対象者に合わせて新規開業資金と組み合わせて利用してください。
創業時に使える融資制度を知っておこう
開業時に使うことができる融資制度はたくさんあります。
どのような制度があるのか知っておきましょう。
生活衛生新企業育成資金
生活衛生新企業育成資金は、生活衛生関係の事業を創業する人、または創業後おおむね7年以内のほうが必要な資金についての融資です。
振興計画認定組合の組合員の人は、設備資金として1億5,000万円~7億2,000万円、運転資金は5,700万円が融資限度額です。
それ以外の人は、設備資金 7,200万円~4億8,000万円が限度額となっています。
振興計画認定組合とは、営業者が自主的に衛生措置の基準を遵守し、衛生施設の改善向上を図るための法人格を有した非営利団体として都道府県単位で厚生労働大臣の認可により設立されています。
具体的には、飲食店や理美容室、旅館やクリーニングなどが該当する業種です。
生活衛生新企業育成資金も、新創業融資制度と併用が可能です。
資本性ローン
資本制ローンは、新規事業や企業再建などに取り組む中小企業に対して、財務体質強化を図るための資本性資金を提供する制度です。
地域経済の活性化のために、一定の雇用効果(新しい雇用もしくは雇用の維持)が認められる事業や地域社会にとって不可欠な事業、技術力の高い事業などに取り組んでいる企業が利用できます。
資本制ローンの特徴は、貸付をしてから1年ごとに直近の決算の業績に応じて利率が変わる点です。
具体的には、税引き後当期純利益が0円以上であれば高い利率、0円未満であれば低い利率が適用されます。
また、この融資を受けた場合の債務は金融検査上自己資本とみなされます。
制度融資
制度融資は、地方自治体と信用保証協会、金融機関が連携して行う融資制度です。
融資を実行するのは金融機関ですが、地方自治体がサポートしているため長期間低金利で資金調達しやすい点が特徴です。
地方自治体によって融資メニューが違うものの、新規開業者向けの融資や社会情勢の変化に対応するための融資も充実しています。
提供している自治体によって、制度融資の有無や融資条件が違います。
まずは、開業する地域の地方自治体や市区町村に問い合わせてみましょう。
女性、若者、シニア起業家支援資金
女性、若者/シニア起業家支援資金は、女性や若年者、シニア層の視点を活用した事業の促進を図る事業者をサポートする制度です。
対象となるのは、女性または35歳未満、もしくは55歳以上の事業者で、これから事業を始める人、または事業開始後おおよそ7年以内の人です。
国民生活事業の女性、若者、シニア起業家支援資金では申し込みをして審査を通過すれば、最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)の融資を受けられます。
まとめ
創業時に資金繰りで悩む事業者は多いかもしれません。
創業時や開業時にのみ受けられる融資もあるので、活用を検討してみましょう。
融資制度ごとに特色があり、金利面での優遇が受けられるものや無担保無保証で利用できるものもあります。
自社にとって利用しやすい融資制度を探しましょう。