無借金経営の意味や「実質無借金経営」との違いを徹底解説
2023年4月27日
「無借金経営」とたまに見たり聞いたりすることがあると思いますが、何となくでしか理解できていない方も多くおられます。
無借金経営とは、利子の付いた借金を一切していない経営状態のことです。
【無借金経営の定義】
【賃貸対照表内に利子のついた負債が全く無い「無借金」の状態で経営していること
利子の付いた負債とは、銀行や社債、CP(短期間の無担保の約束手形)などの借金です。
無借金経営は上記のような借金がなく、とてもクリーンな経営をしている優良企業というイメージですが、実はとてもリスクが高い経営方法なので決して良いとは言えません。
なぜなら、いくつものデメリットがあるからです。
そこで、おすすめするのが「実質無借金経営」です。
実質無借金経営とは、借入があるものの、それを上回るだけのキャッシュを常に確保している状態を指します。
近年では実質無借金経営の企業が増え、2018年ではすでに上場企業の実に約6割に上っています。
そこで、本記事では「無借金経営」と「実質無借金経営」の違いについても、詳しく解説します。
最後まで読むと「無借金経営」と「実質無借金経営」の内容が分かり、どちらを目指せばいいのか判断できるようになります。自社の経営を安定させるためにもぜひこの先を読み進めてください。
無借金経営とは?
無借金経営とは、冒頭でもお伝えしたように利子の付いた借入や融資などの借金を一切していない経営です。本章では、無借金経営の概要を以下に分け、分かりやすく解説します。
〇無借金経営の定義
・無借金経営と自己資本率100%との違い
・無借金経営の企業は約25%
無借金経営の定義
無借金経営は以下のように定義づけることができます。
【無借金経営の定義】
・賃貸対照表内に利子のついた負債が全く無い「無借金」の状態で経営していること
利子のついた負債とは、銀行からの借入・社債(株主からの借入)などです。
会社では必ず決算書を作成しますが、無借金経営の企業は決算書の賃貸対照表内に利子付きの負債が全くありません。
つまり、賃借対照表の右側に有利子負債がないにもかかわらずバランスが取れている状態が、無借金経営です。
もう少し詳しく説明しますと、賃借対照表は別名バランスシートと呼ばれ、資産の部、負債の部と純資産の部に分かれており、左右が常にイコールのバランスを保つものです。
社員の給与などは未払金として計上しますし、仕入代金は買掛金です。これらは企業を運営していく上でどうしても必要となるものですが、通常これらに利子は必要ありません。
つまり、無借金経営とは、負債の部の中でも短期借入金、社債、長期借入金といった利子が必要な借入がない状態のことを指すわけで、外部から調達しなくても必要なときにすぐに用意できるほどの莫大な資産がない限りは成立しません。
無借金経営の企業は約25%
「株式会社東京商工リサーチ」が行った2018年の調査によると、同社が保有する約34万社の財政データの内、全国の無借金経営の企業は全体の約25%です。
「無借金経営」はビジネスモデルを評価する指標のひとつであるため、その企業の経営がいかにクリーンであるかを証明するものというイメージが強いでしょう。現に、誰もが知る有名優良企業では「無借金経営」を行っています。
日本では「借り入れ」「借金」をしないことが良しとされています。そのため無借金経営の会社ほど優良企業であるというイメージがあります。
しかし、実際には「無借金経営」を行ったために倒産する企業が多いのも事実ですので注意が必要です。
無借金経営と自己資本率100%との違い
自己資本が潤沢にあれば借金をする必要がないので、無借金経営の企業はイコール自己資本率100%の企業なのでは?と考える方が多いと思いますが、無借金経営と自己資本率100%とは違います。
無借金経営と自己資本率100%の違いは、事業負債があるかどうかです。無借金経営といえども、利子のつかない買掛金などの事業負債があります。しかし、自己資本率100%は事業負債すらない状態を指します。
事業負債について説明しますと、日本は一般的に、先に商品やサービスを提供して後からお金が支払われる「掛取引」です。故に、無借金経営でも材料や商品を仕入れて翌月払いをすれば「買掛金」として負債が生じます。
給与に関しても、当月分を翌月支払いであれば「未払金」として計上することになります。これら買掛金や従業員への給与、賞与引当金などを事業負債と呼びます。
事業負債は、経営を回していくために必要な負債です。
「無借金経営の定義」で説明したように、無借金経営とは利子のついた借金がない状態を指すので、負債があっても利子がない事業負債だけなら無借金経営と言えるわけです。
これに対して、自己資本率100%は事業負債(買掛金や未払金、給与支払い)が一切ないことを言います。
事業負債が一切ない状態での経営は、元手がかからず社員もいない状況でないと難しいです。どんな企業でも何%かは事業負債があるため、自己資本率100%で経営している企業はほぼないと言えるでしょう。
これからの企業が目指すべきは「実質無借金経営」!
1章で「無借金経営」がいかに難しいものかということがおわかりいただけたかと思います。結論としては、これからの企業が目指すべきは無借金経営ではなく「実質無借金経営」です。
「実質無借金経営」とは、利子の付いた借金があってもいつでも返せる状態で経営しているスタイルを言います。
実質無借金経営とは?
実質無借金経営とは、利子の付いた借金があり、かつ借金を返済しても経営に影響が出ないほどのキャッシュを確保している状態です。つまり、以下のように定義することができます。
【実質無借金経営の定義】
・賃貸対照表内に利子のついた負債があるが常に返済できる状態にあり、返済しても経営に影響が出ない状態のこと
借金を上回る程度の現金(有価証券なども含む)があれば、いつでも返済することができます。借金を返済したとしても経営に影響が出ないほどの現金を有していれば、経営には何ら問題がありません。
このような状態は事実上の無借金経営とみなされ、「無借金経営」と区別して「実質無借金経営」と呼ばれています。
上場企業の約6割は実質無借金経営
2018年の日本経済新聞の集計によると、上場企業の約6割は実質無借金経営であることが分かっています。
なぜ実質無借金経営の企業が増えているかというと、無借金経営より経営が楽になるからです。
例えば、実質無借金経営をしている企業は、必要のない借入を銀行からあえてしています。なぜなら、銀行との信頼関係を築くことができるからです。長年にわたり銀行にきちんと返済して、信頼度が年々蓄積されていくのが狙いです。
銀行は既存取引のない企業に対しては審査が厳しく、なかなか融資をしてくれません。しかし、日頃から信頼関係を結んでいれば、もし万が一のことがあれば、銀行からすぐに融資を受けられるというわけです。
目指すべきは「実質無借金経営」
実質無借金経営とは、銀行などから利子付きの借金をしながらその利子を「損金」として計上し、実質無借金とする経営のことです。
実質無借金経営は銀行とも信頼関係を築けるため万が一の際にも安心で、賢い選択と言えます。
つまり、これからの企業が目指すべきは、「実質無借金経営」一択なのです。
次章から「無借金経営」と「実質無借金経営」の違いを詳しく解説しますのでぜひ読み進めてください。
「無借金経営」と「実質無借金経営」を徹底比較!
無借金経営は利子付きの借入がないため一見問題ないように見えますが、銀行とつながっていないためいざという時融資が受けられず、倒産のリスクが高いです。
それに比べて実質無借金経営は、利子付きの借入があるものの常に返済できるだけの一定以上の現金をキープしています。借金とはいえ、借りたお金でも企業に入れば資金です。例えば1,000万円借り入れて使わなければ、1,000万円の余裕が生まれます。
つまり、余裕のある現金があり、いざという時も銀行融資という逃げ道があるため、比較的安定した経営を行えるということです。
無借金経営のメリット・デメリット
ここまで読んで、無借金経営がどのようなものかお分かりいただけたかと思います。無借金経営には良い面と悪い面の両面があり、無借金経営を目指すなら失敗しないためにもその両面をしっかりと把握しなければなりません。
無借金経営のメリット
まずは無借金経営のメリットから解説します。メリットは以下の通りです。
決算書に有利子負債がなく健全な経営状態に見える
無借金経営では決算書に有利子負債がないため、健全な経営状態に見えます。なぜなら、「無借金経営の定義」で説明したように、利子のない負債は事業負債となり、「借金」として決算書に計上しないからです。
一般的に、借金が多い企業は自己資本比率が低くなります。無借金経営だと決算書上の借金はゼロですので、決算書の見栄えが良くなり、健全な経営状態に見えやすくなります。
返済の義務がない
無借金経営は返済の義務がありません。なぜなら、利子が発生する金融機関等から借入をしていないからです。
無借金経営は金融機関からの融資や社債などの利子付きの負債が一切ないため、そもそも返済義務が発生しません。
社会的信用度が上がる
無借金経営は社会的信用度が上がります。なぜなら、信用調査での評価が上がるからです。
企業の評価は「帝国データバンク」が行う信用調査によるところが大きく、どの企業もこの調査結果を参考にしています。帝国データバンクは企業を専門に取り扱う日本最大規模の信用調査機関で、定期的に企業の財務調査を行っています。
経営の自由度が上がる
無借金経営は経営の自由度が上がります。なぜなら、外部からの影響を受けないからです。
例えば、銀行から融資を受ける場合、銀行は融資の際に資金使途を厳しく審査するため企業は銀行が納得するような用途にしか資金を使えません。
しかし、銀行などからの融資を受けていない場合は、社内で合意できていればどのような経営をしても自由です。
廃業が容易になる
無借金経営をしていると、廃業する時も容易です。なぜなら、外部に返済の義務がないためいつでも廃業することができるからです。
もしも外部に返済義務が残っている場合は、返済が終わるまで勝手に廃業することができません。
無借金経営のデメリット
借金がなく安全な経営をしているかに見える無借金経営ですが、もしも無借金経営を目指すならデメリットも知っておくべきです。なぜなら、無借金経営には以下のようなデメリットは会社経営にとってそれなりのリスクがあるからです。
資金繰りが大変になるケースが多い
無借金経営は資金繰りが大変になるケースが多く、場合によっては倒産するといったケースもあります。
例えば、黒字倒産があります。黒字倒産とは、利益があるにも関わらず、キャッシュフローが崩れて資金繰りに失敗することです。キャッシュフローとは、資金の変動に対して表を作って資金繰りを管理することです。
実際、無借金経営の企業が黒字倒産をした例を挙げてみましょう。
【無借金経営の企業が倒産に陥った例】
・急遽資金繰りが必要になったため融資を受けるべく銀行に相談したが、銀行と信頼関係がないため融資を受けられなかった。
・新商品が爆発的にヒットし、急に原材料の仕入れをいつもよりも増やすことになった。利益が出るのは翌月以降だが、支払代金は今月末に支払わなければならない。
結果、利益があり黒字になったのにも関わらず、仕入れ代金を支払うことができず倒産に追い込まれた。
このように、無借金経営だと資金繰りが大変になるケースが多いです。
いざという時に銀行からの融資が受けられない
無借金経営では、いざという時に銀行からの融資が受けられません。なぜなら、銀行とのつながりが希薄だからです。
「上場企業の約6割は実質無借金経営」で説明したとおり、長年に渡って銀行から融資を受けていれば、定期的に返済し続けることで信頼を得ることができます。しかし、融資を受けていなければそういった信頼関係も築けません。
銀行は信頼関係のない企業に対してはとても厳しく、審査に通るのがとても難しいです。というのも、銀行は借入実績のない企業が急にお金を借りに来ると、「なにか問題があるのではないか」と警戒するからです。
そのため、無借金経営をして銀行と付き合いがないと、銀行からの融資が受けられないというデメリットがあります。
金融機関からの信用度が下がる
無借金経営は金融機関からの信用度が下がります。なぜなら、再三お伝えしているように銀行は借入実績のない企業は信用しないからです。
銀行をはじめ信販会社などのいわゆる金融機関は信用情報を共有しています(全国銀行個人信用センター)。そのため、銀行からの信用度が落ちることは金融機関全体からの信用度の低下につながります。
つまり、普段から銀行との関係がないと金融機関からの信用度が下がるのです。
成長の機会損失につながる
無借金経営は成長の機会損失につながることがあります。なぜなら、以下のような資金を調達することができないからです。
【企業が成長するために必要な資金の例】
・人材確保のための費用
・宣伝費用
・土地や建物、設備資金
・新製品開発のための費用 など
企業は本来、成長を目指して企業を大きくします。そのためには上記のように多くの資金がかかります。
しかし、金融機関の融資を受けられない無借金経営は新たに大きな資金を作り出すことができず、成長することができません。
実質無借金経営のメリット・デメリット
次は、実質無借金経営のメリット・デメリットを見てみましょう。実質無借金経営は、利子付きの借入をしつつ、その借入を上回る現金を確保することで経営をしていく方法でしたね。
実質無借金経営のメリット
実質無借金経営のメリットは以下の通りです。
金融機関からの信用度が上がる
銀行からの信用度が上がるということは、イコール金融機関からの信用度も上がるということです。なぜなら、「金融機関からの信用度が下がる」で説明したように、金融機関は信用情報を共有しているからです。
金融機関からの信用度が上がると、企業経営に対する不安材料の大きな要因のひとつを取り除けます。企業が経営の危機に立った時、本当に必要なのは社会的信用よりも金融機関からの信用度のため、このメリットはとても大きいと言えます。
銀行からの信用度が上がり、急な融資も受けられる
実質無借金経営は銀行からの信用度が上がり、急な融資も受けられます。なぜなら、銀行からの融資に対して長年にわたりしっかりと返済を行っているからです。
銀行は融資をする際にその企業を審査し、信用に値するという審査結果の上で貸付を行います。企業はその期待を裏切らないように、毎月きちんと返済を行います。
これによって、銀行と企業との信頼関係ができ、長期にわたるほど信用度も上がります。万が一大きな資金が必要になっても、昔からの銀行との信頼関係がすでにあるので比較的簡単に融資を受けることが可能です。
銀行では融資先に経営アドバイスや好条件での融資提案なども行っているため、銀行からの優遇も期待できます。
そのため、本来であれば融資の必要がなくてもあえて銀行から融資を受けている企業が多いです。
法人税が安くなる
実質無借金経営は法人税が安くなるというメリットもあります。なぜなら、法人税は経費を差し引いた後の利益にのみ課せられるからです。
賃借対照表に法人税を記載する場合、経営に必要な経費は「損金」として計上できます(利子・利息も損金です)。損金は、益金から差し引くことができます。
つまり、利子の分だけ節税でき、結果として法人税が安くなるといえます。
企業が成長するチャンスを掴める
実質無借金経営は企業が成長するチャンスを掴むことができます。なぜなら、銀行融資などで成長に必要な大きな資金を調達することができるからです。
倒産のリスクを減らせる
実質無借金経営は倒産のリスクを減らせます。なぜなら、急な資金が必要になっても金融機関からの融資を受けることができるからです。
「資金繰りが大変になるケースが多い」で説明した黒字倒産の例を思い出してみてください。急にいつもよりも大きく仕入れが必要になった場合、無借金経営では資金繰りが破綻してしまう可能性が高いですが、実質無借金経営は銀行の融資を利用できるため、倒産を回避することができます。
このように、日頃から銀行との関係を築いていると倒産のリスクを減らせます。
実質無借金経営のデメリット
外部からの借入を上手に活かしながら安定した経営を行う実質無借金経営ですが、デメリットもあります。それが、以下のようなものです。
廃業したくてもできなくなる
実質無借金経営は廃業したくても勝手に廃業できなくなります。なぜなら、融資を受けている金融機関に対して返済義務があるからです。
ただし、返済しようと思えばできるだけの現金があるため返済してしまえば問題ありません。
常に返金できる程度の現金が必要
実質無借金経営は、常に返済できる程度の現金が必要です。なぜなら、「2-1. 実質無借金経営とは」で説明したように、実質無借金経営とは常に借金を返済できる額を上回るだけの現金を確保している経営を言うからです。
つまり、借金を返済しても経営に影響が出ないほどの潤沢な資金を保有している企業だけを無借金経営の企業と呼びます。
長期にわたり銀行などから融資を受けて返済していても、経営不振になった時に返済できないようでは実質無借金経営とは呼べません。
まとめ:企業は「実質無借金経営」を目指そう
結論として、実質無借金経営を目指すのがおすすめです。なぜなら、これまで説明してきた通り、無借金経営はメリットが少なく倒産リスクが高いからです。
「上場企業の約6割は実質無借金経営」でもお伝えしたように、2018年の段階で既に上場企業の約6割が実質無借金経営に切り替えていました。現在ではコロナや戦争などで社会情勢が不安定なため、実質無借金経営の企業はさらに増えていると予想できます。
この記事を読むまで「これからは無借金経営を目指そう」と思っていたのであれば、金融機関の信頼を得られ経営が安定する「実質無借金経営」を断然目指すべきです。