レターポットとは|想いを「文字」で贈る新しいギフトのかたち
2025年10月7日
インターネット上で人と人がつながる時代において、「お金では伝えられない気持ち」をどのように形にするかというテーマは、多くの人の関心を集めています。SNSでの「いいね」や「リツイート」は手軽に反応を示せる手段ですが、心からの感謝や応援の気持ちを伝えるには少し物足りないと感じることもあるでしょう。
そんな中で登場したのが、「レターポット(Letter Pot)」というサービスです。レターポットは、メッセージを文字単位で贈り合うというユニークな仕組みを持ち、「お金ではなく想いを循環させる」ことを目的に作られたコミュニケーションツールとして注目を集めました。
この記事では、レターポットの仕組み、誕生の背景、利用方法、そして現代社会における意義や課題について、わかりやすく解説していきます。
レターポットとは?
レターポットとは、一言でいえば「文字を贈り合うサービス」です。ユーザーはまず「レター」と呼ばれる単位を購入し、そのレターを使って相手にメッセージを送ります。
たとえば、感謝の言葉「ありがとう」を贈る場合、「あ」「り」「が」「と」「う」の5文字分のレターを消費します。レターは仮想通貨のように取引されるわけではなく、あくまで「想いを伝えるための媒体」として設計されています。
この仕組みを考案したのは、実業家であり、著書『夢と金』などで知られる西野亮廣(にしのあきひろ)氏です。彼は、「お金では表現できない価値」を可視化する新たな形として、レターポットを2018年に立ち上げました。
西野氏は、従来の貨幣経済に加え、「感謝や信頼といった非貨幣的な価値が循環する社会を作りたい」という想いからこの仕組みを構想。レターポットはその理念を具現化したものだといえます。
仕組みと使い方
① レターを購入する
まず、利用者はレターポットのサイトでレターを購入します。レターは文字数を表す単位で、たとえば「100レター」「500レター」といった形で販売されていました。購入時にはクレジットカードやオンライン決済などを使って支払いを行います。
② メッセージを送る
購入したレターを使って、相手にメッセージを送ります。送るときには、文字数に応じてレターが消費される仕組みです。相手に贈ったメッセージは、相手のアカウントに「受け取ったレター」として蓄積されていきます。
③ 受け取ったレターの使い道
レターを受け取った人は、そのレターを別の人に贈ることもできます。つまり、受け取った想いを次の誰かに回すことができる、という「想いの循環」が仕組みの核心です。
単にポイントを貯めるようなものではなく、「誰かからもらったレターをまた別の人に使う」という流れを生むことで、人と人との関係性を深めることが狙いとされています。
レターポットが生まれた背景
西野亮廣氏がレターポットを立ち上げた背景には、「お金に頼らない価値交換」を実現したいという理念がありました。彼は講演や書籍の中で、「感謝を言葉にして伝えることの価値」が社会の中で軽視されていると指摘しています。
例えば、ボランティア活動や人助けなど、金銭的な対価を伴わない善意の行為があります。これらは本来大きな価値を持っているにもかかわらず、現行の経済システムでは「お金にならない」という理由で正当に評価されません。
西野氏は、そうした「お金では測れない価値」を可視化し、循環させる仕組みを作ることで、人々がもっと自由に「ありがとう」を伝えられる社会を目指しました。
また、SNSの普及により、表面的な交流が増えた反面、「本音を伝える場」が減っているという課題も背景にあります。レターポットは、そのような環境の中で「文字を通じた本当のコミュニケーション」を取り戻す手段として位置づけられました。
レターポットがもたらした価値
感謝を“可視化”できる
レターポットでは、どのユーザーが誰に何文字のメッセージを贈ったかが見えるため、「ありがとうの見える化」が可能になりました。お金のやり取りではなく、純粋な感謝や応援が数値として見えることに、多くのユーザーが新鮮さを感じたのです。
信頼を軸としたコミュニティ形成
レターポットを通じて贈られるメッセージは、SNSとは異なり「労力のある行為」です。メッセージを考え、文字を使って送るという行為そのものに「手間」が伴います。そのため、単なるリアクションではなく、誠意のあるコミュニケーションが生まれやすいのです。
この仕組みは、結果として信頼を基盤にしたコミュニティづくりにも寄与しました。
“贈与経済”の実験的モデル
レターポットは、経済学でいう「贈与経済(ギフトエコノミー)」の実験的な試みともいえます。お金ではなく「想い」を贈るという行為が、結果として人間関係を豊かにする。
そのような社会の循環を作り出す仕組みとして、レターポットは一時期、多くの注目を浴びました。
一方で指摘された課題
レターポットは理念的には素晴らしいものでしたが、実際の運用にはいくつかの課題もありました。
まず、「レターの購入=実質的にお金の支払い」であるため、理想的な“非金銭的コミュニケーション”とは言い切れない面がありました。また、使い方によっては「人気者にレターが集まりすぎる」という偏りも生まれ、格差構造のようなものが発生することもありました。
さらに、継続的にサービスを維持するための運営コストや仕組みの難しさも課題となり、レターポットは次第に利用者が減少していきます。
しかし、たとえサービスが一時的なものだったとしても、「お金ではなく気持ちを循環させる」という思想は、その後のオンライン文化やクラウドファンディング、投げ銭文化にも少なからず影響を与えました。
現代におけるレターポット的価値観
レターポットのような仕組みは、今ではさまざまな形で社会に受け継がれています。
たとえば、ライブ配信サービスでの「投げ銭」、SNSでの「ギフト機能」、オンラインサロンでの「感謝投稿」なども、「想いを可視化して伝える」という点で共通しています。
特に若い世代の間では、「お金を払う」ことそのものよりも、「相手を応援する」ことに価値を見いだす傾向が強くなっています。レターポットの思想は、まさにそのような“共感経済”の先駆けだったといえるでしょう。
まとめ|「お金の先」にある価値を考えるきっかけ
レターポットとは、単なるメッセージサービスではなく、「人と人とが思いを伝え合う新しい経済圏の実験」でした。お金の代わりに「文字」を通じて気持ちを贈り合うという発想は、これからの時代においても非常に示唆的です。
今後、AIやデジタル技術が進化していく中で、効率化された社会ほど「人の心」が求められるようになるでしょう。レターポットが示した「言葉の力」や「想いの循環」は、そんな未来において改めて重要な価値を持つはずです。
