診療報酬ファクタリングのメリットと注意点をご紹介

2023年2月8日

診療報酬制度を活用したファクタリングは、入金から3ヶ月近くかかる売掛金を早く現金化できます。
医療機関でも資金調達の1つの方法として、ファクタリングの利用が増えています。

ファクタリングは借金ではないので、利用によって銀行からの新たな融資に影響することもありません。

どのような場合に利用が有効なのか、メリット、デメリットを整理します。

ファクタリングとは

ファクタリングは、企業などの売掛金(債権)を譲渡して買い取ってもらうサービスです。企業間取引では、請求書が送付されてから支払いが実行されるまで1~2カ月間かかるため、利用するとすぐにお金が入手できる点がメリットです。

3社ファクタリングの仕組み

ファクタリングには大きく分けて

・3社ファクタリング
・2社ファクタリング
の2種類があります。

3社ファクタリングは、

1. 債権を持っている利用者
2. ファクタリング(買い取り)業者
3. 支払いを行う予定の請求先

が契約を結びます。

上記の利用者と買い取り業者のみが、やりとりを行う2社ファクタリングに比べて3社ファクタリングの手数料ははるかに安く1%以下のケースも。

3社ファクタリングには、請求(売掛)先も手続きに加わるので、代金が未回収になるリスクが低いためです。なお医療ファクタリング、診療報酬ファクタリングでは3社ファクタリングが主流です。

診療報酬ファクタリングの他にも、介護報酬ファクタリング、調剤報酬ファクタリングもあります。

診療報酬ファクタリングは診療報酬制度を活用する

クリニックにとっての売掛金である診療報酬を支払うのは、審査支払機関である以下の2つです。

1. 国民健康保険団体連合会(国保)
2. 社会保険診療報酬支払基金(社保)

たとえば2022年4月1日~30日までに診療した分の診療報酬は5月に申請しますが、支払いが行われるのは6月21日。つまり診療を行ってから入金されるまで最長2カ月半も待たなくてはなりません。

上記の1・2から支払われる前に、クリニックとファクタリング会社が債権譲渡契約を取り交わし、両者の連名で社保または国保に「債権譲渡通知」を発送する流れです。契約から1週間程度で、クリニックはファクタリング会社より代金を受け取れます。

最終的に1・2からファクタリング会社に診療報酬の売掛金が支払われ、取引は完了します。

診療報酬ファクタリングのメリット

医療機関が診療報酬ファクタリングを利用するメリットを5つ紹介します。コロナ禍以降、外来患者数が低迷し、資金繰りが悪化している医療機関もあるでしょう。

ファクタリングを利用する医療機関は年々増えています。社会保険診療報酬支払基金によると、2020年度に診療報酬の債権が譲渡されたのは月間の平均が7千件、500億円に達しています。

手数料が安い

診療報酬ファクタリングの手数料は1%前後と、かなり安く抑えられています。

一般的な買取の2社ファクタリングでは20~30%台のケースもあるので、大幅に安い水準と言えるでしょう。これも売掛先である国保、社保の信頼性のおかげで、ファクタリング会社が回収できなくなるリスクが小さい影響です。

審査のハードルが低い

ファクタリング会社の審査で大切となるのは売掛先の信頼性です。診療報酬ファクタリングの売掛先は国保、社保という国の医療保険制度の中枢機関であり、言うまでもなく最高レベルの信頼性があります。

仮に銀行の融資が受けられないなど、クリニックの信用性が乏しい状況でも医療ファクタリングなら審査が通る可能性は高いでしょう。

借り入れにはならない

診療報酬ファクタリングは債権を譲渡する契約のため、お金の借り入れではありません。そのため銀行融資を新たに申し込む際の審査にも影響しません。

従来とは異なる資金調達方法として注目されているのはこのためです。例えば、現在のローンが残っている状態で、分院を開業したいなどという場合、銀行の融資を新たに引き出すのは簡単ではありません。ただファクタリングを併用しても決算上「負債」は増えないのでおすすめです。

現金を得られるまでの期間が短い

ファクタリング業者と契約を締結すると、診療報酬の売掛金のおよそ8割程度が1週間程度で入金されます。

診療報酬の通常の支払い期間は長く、診療を行ってから2カ月前後、請求時から起算しても40日程度の日数がかかるため、早期に現金が得られる点がメリットです。

診療報酬ファクタリングの注意点

医療機関が診療報酬ファクタリングを使う場合の注意点についても解説します。資金繰りが悪化している医療機関にとっては一時的に後押しとなりますが、根本的な解決策とは言えません。

また信頼性のあるファクタリング企業選びは重要です。

悪徳業者に引っかからないように注意

ファクタリングそのものは国も認めている正当な資金調達の手段です。

ただし金融業に比べると規制が緩いため、出自の不確かな信頼性の低い業者が診療報酬ファクタリングを行っているケースもあるとされます。

契約書を交わさない会社や、ホームページに記載された内容に虚偽があると思われる業者との取引は避けましょう。

医療機関の取引実績が豊富な業者から選ぶのが無難です。

「掛け目」制度がありすぐに全額は支払われない

一度に診療報酬の全額が振り込まれるわけではありません。掛け目によって診療報酬請求額のうち、平均80%程度が初回に支払われます。

診療報酬を社保などから回収できない可能性はほぼないと言っていいものの、クリニックが提出したレセプト審査がすべて通るとは限りません。そのため、ファクタリング業者は初回の支払いを額面の80%程度に留めて、診療報酬の支払い金額が確定してから差額を支払う制度を取っています。

依存してしまう可能性がある

融資に比べて手続きが簡単で、審査も厳しくないため比較的利用のハードルが低いのがファクタリングの魅力です。ただしその分、ファクタリングに慣れてしまうと恒常的に利用するクセがつきやすいと指摘されています。手数料は安いとは言え、常に利益が削られ続けるので、長期の継続利用を行うとかえって財務体質が悪化することになりかねません。

業者の中には、1年程度の利用を前提に最低契約期間を設定している場合もあるので注意してください。

ファクタリング利用を検討すべきケース

実際にファクタリングを利用している医療機関の主なパターンを紹介します。以下に当てはまるクリニックは、融資を新たに申請するよりもファクタリングの手軽さが適している可能性があります。

ボーナス、退職金など、短期間で確実に資金が必要

ボーナスや退職金など短期でまとまった資金が必要になるケースがあります。また医療機器を新規で購入する場合、即金で契約した方が割安になることも。

融資の審査機関は月単位で時間がかかりますが、ファクタリングはすでに契約を結んでいる業者相手ならすぐに診療報酬を買い取ってもらえるでしょう。

また審査の簡易で、承認される率も高いため、利用しやすいと言えます。

新規開業まもない場合、1件目のローンが残っている場合

新規開業直後、また開業後にローンが残っている状態で分院を出すなどの計画がある際は、銀行での追加融資は受けづらいものです。

とくに個人事業主として開業した場合、十分な売上、安定的な取引先がなければ追加の融資審査が厳しくなるのは当然です。ファクタリングで得た資金は、どのような用途に使うかは自由なので、開業直後で予想よりも収入が増えない場合には一部を運転資金に回すことも可能です。

資金繰りが厳しい中で設備を刷新したい

コロナ禍以降、外来の患者数が回復しない場合など徐々に売上が下がっている場合は、2ヶ月分の売上を現金化できるファクタリングを使えば、医療機器の導入や内装リフォームなどで経営のテコ入れができるかもしれません。

診療報酬ファクタリングのまとめ

診療報酬ファクタリングはすばやく、比較的手数料も安く利用できる資金調達方法です。保険診療を行っているクリニックは、経営が厳しい状況でもまた銀行融資が断られたとしても高い確率で利用できるでしょう。

いざというときに利用できるように、信頼できる会社選定や申請書類の準備などは進めておくと安心できるのではないでしょうか。

ただし恒常的ではなく、あくまで困ったときに利用できるよう契約条件なども確認しておきましょう。