ファクタリングに必要な会計処理、決算処理の方法は?
2025年1月2日
ファクタリングは、ビジネスにおいて重要な資金調達の手段になりつつあります。昨今ではファクタリングの利用者は、企業だけでなく、個人事業主やフリーランスで仕事をする人にも広がりを見せています。
特に、銀行からの融資を受けにくい、銀行融資ほどの大きな額が必要というわけではない個人事業主や中小企業にとって、ファクタリングを利用して売掛金を即座に現金化できるのは魅力的です。これにより、資金繰りの柔軟性が増し、事業運営の機動力を高めることができます。また、急に資金が必要という非常時のためにも、ファクタリングは知っておきたい資金調達手段の一つです。
メリットの多いファクタリングですが、ファクタリングの種類や、仕訳・勘定科目について知らずに安易にファクタリングを利用すると、想定外の会計上のミスを犯しかねません。ファクタリングによって、会計上の取り扱いや財務報告のしかたが異なるため、適正な会計処理が求められます。
本記事では、ファクタリングの種類ごとに必要な会計処理の方法、注意点、困ったときに相談すべき専門家について説明します。
ファクタリングとは?
ファクタリングとは、個人事業主やフリーランスを含む事業者が保有する売掛金を金融機関や専門のファクタリング会社に売却し、その売掛金に相当する資金を直ちに調達できる金融サービスです。このほか、売掛金の回収を保証するタイプのファクタリングサービスもあります。前者は買取型ファクタリング、後者は保証型ファクタリングと呼ばれています。「ファクタリング」とだけいわれる場合には、買取型ファクタリングをさすと考えてよいでしょう。
一般的な買取型ファクタリングでは、商品やサービスを納入した一定期間後に取引先から支払われる予定の代金である売掛金を、支払期日前に現金化することができます。事業者は、資金繰りを改善し、運転資金を確保する目的でファクタリングを利用します。
ファクタリングの歴史
ファクタリングの歴史は古く、数百年もの歴史があるといわれています。中世のイギリスで利用が広まり、移民とともにアメリカでも広がりを見せました。日本では、ファクタリングが広まり始めたのは比較的最近のことです。日本国内でファクタリングサービスが知られるようになったのは、1970年代ですが、日本の商慣習との相性や、イメージの問題から、当時は広く利用されるには至りませんでした。
その後、日本では法改正があり、債権の譲渡がしやすくなりました。インターネットに続いてビッグデータ処理やAIといった技術が広く使われるようになる中で、ファクタリングサービスが提供しやすくなり、サービスが改善され、ファクタリングは個人事業主を含む中小事業者の間でも現実的な資金管理の手段となりました。
オンラインで申し込みから資金のやり取りまですべてが完結するサービスや、大量のデータを学習させたAIを使って、与信審査などを自動化し迅速に資金を提供するサービスも出てきています。
融資との違い
個人事業主やフリーランスの人にとって、銀行融資の敷居は低くありません。実際に融資が決まっても、資金が手に入るまでには長い期間がかかることもあり、その間に経営が逼迫してしまったり、掴みたかったチャンスを逃してしまったりということもあるかもしれません。特に即座に資金が必要な場面では、比較的手軽に利用できる買取型ファクタリングは有効な選択肢として、覚えておくにこしたことはありません。
ファクタリングの広がりとともに、サービス提供者の種類は多様化しています。従来の金融機関に加えて、専門のファクタリング会社やオンラインに注力したサービスが登場し、利用者の選択肢は増えています。業務に余裕のあるときに、コスト、信頼性、スピードなどの要素をもとに、事業に合うサービスを提供するファクタリング会社に目星をつけておくとよいでしょう。少額の売掛金で気になったファクタリングサービスを体験してみるのも一つの手です。
ファクタリングの種類で会計処理が異なる?保証型と買取型
ファクタリングは、「保証型」と「買取型」の二種類に分類できます。保証型ではファクタリング会社が取引先の支払いを「保証」するのに対し、買取型ではファクタリング会社が事業者から売掛債権を買い取ります。
保証型ファクタリングと買取型ファクタリングでは、会計上の扱いが異なるため、それぞれの仕組みを理解した上で、サービスを利用し、適切に会計処理する必要があります。ここでは、保証型ファクタリングと買取型ファクタリングそれぞれについて説明します。
保証型ファクタリング
保証型ファクタリングでは、ファクタリング会社は事業者に対して、取引先からの売掛金の回収を保証します。
事業者は、ファクタリング会社に対して保証料を支払い、売掛債権を回収できなかった場合に備えます。取引先が倒産するなどして売掛金が回収できなくなるリスクを軽減するために、ファクタリング会社に対して保証料という費用を支払い、保険をかけるようなものと考えるとよいでしょう。
保証料は、ファクタリング会社が取引先の信用度などを加味して決定します。一般に取引先の規模が大きく信用度が高い企業と判断されれば、保証料は安くなります。逆に、取引先が実績の少ないスタートアップであれば、保証料は高くなるでしょう。
事業者が保証料を支払い、保証型ファクタリングの契約が結ばれると、事業者が取引先から代金を回収できなかった場合には、ファクタリング会社から事業者に対して保証金が支払われます。
保証型ファクタリングでは、ファクタリング会社は事業者から売掛金を債権として買い取るわけではないため、売掛金は事業者の貸借対照表(バランスシート)に資産として残ります。ファクタリング会社に支払う保証料は経費として処理されます。
事業者が取引先から売掛金を回収すると、通常通りの入金として処理されます。もし売掛金を回収できず、不良債権となってしまった場合には、ファクタリング会社から契約に基づいて保証金が支払われ、事業者は売掛金を損失として処理します。
保証型ファクタリングのメリットは一見感じにくいかもしれませんが、初めての取引先との高額な取引を想像してみるとよいでしょう。事業の成長につながる仕事とはわかっていても、仕事に費やす時間や、代金が確実に支払われるかを考えると、心配がつきません。そのようなときに保証型ファクタリングを利用すると、貸し倒れによる損失を緩和し、安心して仕事に取り組めます。また、保証型ファクタリングでは、取引先の貸し倒れリスクを判断する作業をファクタリング会社に依頼し、手間を省くこともできます。
買取型ファクタリング
買取型ファクタリングでは、事業者の売掛金はファクタリング会社に売却されます。事業者は、売掛金の金額から手数料などを引いた一定割引の金額をファクタリング会社から受け取ります。手数料は、取引先の信用度や、ファクタリングを申し込んだ事業者と取引先の取引実績などをもとに決定されます。手数料はファクタリング会社やサービス、条件によって異なりますが、売掛金の数%から10%が一般的といわれています。ファクタリングサービスの中には、即日、資金が振り込まれるサービスもあります。
買取型ファクタリングには、「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」の2種類があります。2社間ファクタリングは事業者とファクタリング会社の2社の間の取引で、ファクタリング会社は事業者に対して資金を支払い、事業者が取引先から代金を受け取った後にファクタリング会社に対して資金を支払います。
一方、3社間ファクタリングは事業者とその取引先、ファクタリング会社の3社の取引です。ファクタリング会社は事業者ではなく、事業者の取引先に請求を行います。2社間ファクタリングは取引先にファクタリングを利用していることを知られない、審査がシンプルなため比較的すぐに結果が出るというメリットがありますが、ファクタリング会社にとっては資金を回収できないリスクが高くなるため、一般に手数料は3社間ファクタリングよりも高くなるといわれています。
2社間ファクタリングでも3社間ファクタリングでも、買取型ファクタリングでは、事業者はファクタリング会社に対して売掛金を売却するので、売掛金は企業の貸借対照表の資産から外れます。ファクタリング会社への手数料の支払いが発生するため、会計処理としては、「売上債権売却損」という勘定科目で記録されます。売掛金の額面と実際に受け取った金額との差額が損失として反映されるのです。一方、売却によって得た資金は、現金または普通預金として貸借対照表に反映されます。
買取型ファクタリングのメリットは、保証型ファクタリングよりも直感的にわかりやすく、迅速に資金を調達できる点にあります。個人事業主やフリーランスで、小口の取引が多いという人は、保証型ファクタリングを利用する機会はあまりないかもしれませんが、買取型ファクタリングは資金繰りが逼迫したときに利用する機会があることでしょう。
保証型ファクタリングの仕訳・勘定科目
保証型ファクタリングで発生するお金の会計処理の概要については前述しましたが、ここでは保証料の扱いや、売掛金が入金された場合、売掛金を回収できなかった場合の会計処理について詳しく説明します。
仕訳とは、事業で発生する経済的な取引を記録する行為であり、勘定科目はその取引を記録するための分類です。仕訳では、取引は借方と貸方に分けて記入されます。これにより、会計の基本原則である複式簿記が成立し、各取引が追跡され、財務状態を正確に反映するための財務諸表が作成されます。
保証料の仕訳・勘定科目
保証型ファクタリングでは、ファクタリング契約が結ばれると、事業者はファクタリング会社に対して保証料を支払います。保証料の支払いは、ファクタリング会社からの入金の有無にかかわらず、保証型ファクタリングの契約を結んだタイミングで発生します。
たとえば、事業者がファクタリング会社に対して1万円の保証料を支払ったとすると、以下のように仕訳を行います:
<借方> 勘定科目を「支払手数料」として1万円
<貸方> 勘定科目を「普通預金」として1万円
売掛金が入金された際の仕訳・勘定科目
事業者が取引先に請求書を発行すると、売掛金が発生します。たとえば100万円の売掛金が発生したときには、事業者は貸借対照表に以下のように仕訳を行います:
<借方> 勘定科目を「売掛金」として100万円
<貸方> 勘定科目を「売上」として100万円
取引先から代金を回収できたら、売掛金はなくなり、取引先から受け取った現金が増えるので、事業者は貸借対照表に以下のように仕訳を行います。
<借方> 勘定科目を「現金」として100万円
<貸方> 勘定科目を「売掛金」として100万円
上の例では借方の勘定科目を「現金」として、現金での回収を想定しましたが、銀行振込の場合は勘定科目を「普通預金」とします。
このように、特に代金の支払いにトラブルがなく、期待通り取引先から売掛金が入金された場合には、保証料を仕訳し、売掛金を通常通り処理するだけです。
売掛金が回収できなかった際の仕訳・勘定科目
売掛金を回収できなかった場合でも、売掛金が発生した時点で売掛金の仕訳を行います。これは、売掛金を回収できた場合と同様です。取引先から売掛金を回収できないことが確定したら、まず、回収不能になった売掛債権の仕訳を行います:
<借方> 勘定科目を「貸倒損失」として100万円
<貸方> 勘定科目を「売掛債権」として100万円
次に、ファクタリング会社から受け取った保証金額を雑収入として仕訳します:
<借方> 勘定科目を「普通預金」として100万円
<貸方> 勘定科目を「雑収入」として100万円
買取型ファクタリングの仕訳・勘定科目
買取型ファクタリングで発生するお金の会計処理の概要については前述しましたが、ここでは買取型の2社間ファクタリングと3社間ファクタリングそれぞれの会計処理について詳しく説明します。
2社間ファクタリングの仕訳・勘定科目
売掛金が発生した際の仕訳・勘定科目
事業者が取引先に請求書を発行した時点で売掛金が発生します。たとえば100万円の売掛金が発生したとしましょう。以下のように仕訳を行います:
<借方> 勘定科目を「売掛金」として100万円
<貸方> 勘定科目を「売上」として100万円
ファクタリング契約をした際の仕訳・勘定科目
ファクタリング契約を結ぶと、契約自体は結ばれますが、まだ資金をファクタリング会社から受け取っているわけではありません。この時点では、未収入金として借方に仕訳を行います:
<借方> 勘定科目を「未収入金」として100万円
<貸方> 勘定科目を「売掛金」として100万円
売掛金が入金された際の仕訳・勘定科目
ファクタリング会社から売掛金が口座に入金されたら、以下のように仕訳を行います:
<借方> 勘定科目を「普通預金」として80万円、「売上債権売却損」として20万円
<貸方> 勘定科目を「未収入金」として100万円
ファクタリング会社は資金が戻されないリスクを考慮し、事業者から手数料をとります。このため、売掛金の満額が支払われるわけではありません。この差額を「売上債権売却損」として借方に仕訳します。
この仕訳で、借方と貸方の両方に未収入金100万円が現れ、プラスマイナスがゼロになります。
契約と入金が同時にされた場合の仕訳・勘定科目
審査プロセスがシンプルな2社間ファクタリングでは、契約時点で即資金が入金されることがあります。このような場合、未収入金は発生せず、入金の仕訳だけ行えばよいことになります:
<借方> 勘定科目を「普通預金」として80万円、「売上債権売却損」として20万円
<貸方> 勘定科目を「未収入金」として100万円