ファクタリングにおける「不確定債権」とは?契約拒否を避けるための知識と対策

2025年8月13日

ファクタリングは、売掛債権を譲渡し、支払期日前に現金化できる手法として、多くの中小企業や個人事業主に活用されています。銀行融資に代わる資金調達手段として脚光を浴びる一方で、契約時に「債権の性質」に問題があると、契約そのものが成立しない、あるいは審査落ちとなるリスクがあります。

その最たるものが、「不確定債権」の存在です。

ファクタリングを利用しようとして、「この売掛債権は不確定なので取り扱いできません」と言われた方もいるかもしれません。この記事では、そもそも不確定債権とは何か、なぜファクタリングで問題になるのか、どうすれば回避できるのかを分かりやすく解説していきます。

1. 不確定債権とは?法的定義とファクタリングとの関係

1-1. 債権には確定性が求められる

まず大前提として、ファクタリングでは「確定した売掛債権(=支払いの発生が法的・実務的に明らかになっているもの)」でなければ、原則として譲渡できません。

これはファクタリング会社が債権を買い取ることで、将来の支払いを確実に得られるという前提に立っているからです。逆にいうと、「支払いが本当に発生するか不明」「請求書はあるが契約内容が不明確」といった債権は、債権として成立していないか、または「不確定債権」とみなされます。

1-2. 不確定債権とは?

不確定債権とは、その金額、発生日、支払義務の有無などが明確に定まっていない債権のことを指します。例えば、以下のような債権が該当します。

・成果報酬型契約に基づく報酬(成果発生が未確定)

・納品前の請求書による売掛債権

・言質(げんち)だけで口約束の請求書

・請負契約のうち、工事完了後に成果確認が必要なもの

・支払い条件が契約書に記載されていないもの

このような債権は、「将来的に支払いが発生するか不明」であるため、譲渡できない、もしくは高リスク債権と評価されて手数料が跳ね上がる原因となります。

2. ファクタリング会社が「不確定債権」を嫌う理由

ファクタリング会社は売掛債権を買い取ることで、将来の支払いを見込んで資金を前払いしています。つまり、債権が確実に回収できるという前提がなければ、業務が成立しません

不確定債権は、以下のリスクを内包しています。

2-1. 支払いが発生しない可能性

成果報酬や契約不履行による未払いなど、支払いがそもそも発生しない可能性があります。これではファクタリング会社の資金が無駄になります。

2-2. 金額や期日の変更が頻繁にある

債権の内容が曖昧だと、途中で金額や支払期日が変更になることがあり、キャッシュフローの予測が狂う原因となります。

2-3. 債権譲渡が法的に認められない

債権譲渡には、民法上の制限や債務者の同意が必要なケースもあります。不確定な債権では、譲渡の法的効力が認められない可能性があるのです。

3. ファクタリング利用者が不確定債権と誤認しがちなケース

ファクタリングの相談現場では、利用者が「この債権は確定している」と思い込んでいるケースが多くあります。以下のような状況は、実は不確定債権とみなされることがあります。

3-1. 請求書はあるが契約書や納品書がない

請求書があっても、実際の取引を証明する書類(契約書・発注書・納品書など)がなければ、売掛金の正当性を証明できません。これは「不確定」の典型例です。

3-2. 定期的な業務委託だが契約内容が口頭

継続的な業務委託や外注業務で、「毎月30万円でお願いね」といった口頭契約だけの場合、その金額や範囲が証明できないため、不確定債権と判断されます。

3-3. 成果型・成功報酬型のビジネスモデル

営業代行やIT導入支援など、成功報酬型のビジネスは、成果が出なければ支払いが発生しない=債権の成立が未確定となり、ファクタリング会社からは敬遠されます。

4. 不確定債権と判断されないためにできること

不確定債権とみなされないためには、日頃の取引記録の整備と契約書管理が重要です。以下のような対応で「確定債権」として認められる可能性が高まります。

4-1. 契約書・発注書・納品書の三点セットを整備

ファクタリング会社は、「契約→納品→請求→入金」という一連の流れが証明されるかを重視します。そのため、

・業務委託契約書

・発注書またはメール履歴

・納品書や作業完了報告書

などを提出できれば、請求内容の正当性を証明できます。

4-2. 支払い実績のある取引先の債権を選ぶ

すでに過去の請求で支払い実績がある売掛先の債権であれば、「信用実績がある=確実性が高い」と評価されやすくなります。

4-3. 見積書や電子契約の証拠を残す

クラウド契約サービスやメールのやり取りも、証拠資料として有効です。「いつ、何を、どの金額で請け負ったか」が明確になっていれば、債権の確定性は高まります。

5. 不確定債権に関するトラブル事例とその教訓

事例①:着手前の請求書で審査落ち
あるIT企業がファクタリングを申請したところ、「開発着手前の請求書」であったため、ファクタリング会社から「債権が未確定」と判断され、審査に落ちた。契約書は存在していたが、作業実績が伴っていなかったためである。

教訓:業務完了後でなければ、請求書はファクタリングに出さないこと。

事例②:成功報酬型の請求を出したが成果条件が曖昧
人材紹介会社が、候補者の採用成功時に報酬が発生するという契約で請求書を出したが、契約書に「報酬発生の定義」が曖昧であったため、債権の発生条件が不明とされ却下された。

教訓:成果型契約の場合は、報酬発生条件を明文化すること。

6. まとめ:ファクタリングの成功は「債権の確定性」にかかっている

ファクタリングは、債務を負わずにスピーディに資金化できる優れた資金調達手段です。しかし、売掛債権が「不確定債権」とみなされた場合、契約が不成立になるだけでなく、資金調達そのものが行き詰まることになります。

ポイントは以下の通りです。

・不確定債権は「金額・支払期日・履行状況」が曖昧な債権

・ファクタリングでは債権の確定性が最大の審査ポイント

・書類の整備(契約書・納品書など)で正当性を証明できる

・成果報酬型や未納品状態ではリスクが高まる

確定した売掛債権であれば、たとえ赤字企業や債務超過であってもファクタリングは可能です。一方で、不確定債権を出してしまえば、いかに信用力があっても通りません。

つまり、ファクタリング成功の鍵は、書面と実態で債権の存在を“証明”できるかに尽きると言えるでしょう。