個人事業主が接待交際費として計上できる経費の上限とは?
2023年5月23日
経費のなかでも接待や贈答などの接待交際費は、経費計上できるのかどうかの判断が難しいです。
個人事業主が接待交際費を計上したい際に、上限は明確には決まっていません。しかし実際には売上の数%以内が多いようです。
具体例とともに、個人事業主が接待交際費を経費計上する際のポイントについて解説します。
●接待交際費に上限はある?
個人事業主においては、接待交際費に上限は定められていません。ただし費用が多すぎると税務調査が入る例があります。
●どんな費用が接待交際費として計上できる?
取引先との食事や慰安、贈答品は接待交際費として計上できます。見極めに重要なラインは「事業に関係するかどうか」です。
個人事業主が計上できる交際費の上限
接待交際費とは、所得税法の「交際費等」に該当します。「交際費等」は法人では上限が定められていますが、個人事業主には特別上限が決まっていません。
法人には上限があるが、個人事業主には上限がない
法人の接待交際費については、以下のように所得税法で上限が定められています。無制限で経費として計上できるわけではないのです。
・資本金1億円以上の法人⇨接待飲食費のうち50%は損金算入可能
・資本金1億円以下の法人⇨年間800万円まで、もしくは接待飲食費の50%のいずれか大きい方
・ただし社外の方と複数名で食事を行なった場合、人数で割った金額が5,000円以下であれば「会議費」などとして全額損金計上できる
一方、個人事業主の接待交際費は、法人と異なり上限金額は決まっていません。接待交際費としての支出全てが経費として計上可能です。
ただし接待交際費の金額が大きすぎると、金額が大きすぎるというだけで税務調査の際に否認されるという例もあります。そのように否認されることを防ぐため、事業に関連するものであるという証拠を残しておきましょう。
実際には、売上の数%以内の人が多い
2015年に行なわれた起業家100名に対するアンケートによると、実際に接待交際費で計上した金額は0円~数万円程度とのことでした。営業収入に対しても、6%以内に収まっているようです。
また法人においても、2018年の会社標本調査によると、営業収入金額10万円当たりの交際費等は256円でした。こちらは営業収入の0.2~0.3%にあたります。
実際に接待交際費として使う金額は、売上の数%以内が一般的と言えるでしょう。
これはOK?個人事業主が交際費に計上できる支出の例
接待交際費を含む「交際費等」は、「交際費、接待費、機密費、その他の費用で事業者がその得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」であると定義されています。
つまり、事業活動に際して必要となる交友に係る支出であれば、交際費として認められるのです。具体例を踏まえて見ていきましょう。
飲食店で取引先を接待した
取引先などとの接待での支出は接待交際費にあたります。通常の飲食代の他に、
・キャバクラでの接待飲食代
・3万円のコース料理などの高額な支出
なども接待交際費として計上可能です。
また取引先との直接的な接待はもちろんですが、将来的に取引先となり得そうな相手との飲食代なども接待交際費となり得ます。
お中元・お歳暮・商品券などの贈答品を取引先に送った
お中元やお歳暮は、取引先などとの良好な関係構築・維持として必要な贈答です。そのため接待交際費として計上できます。
商品券は一般の贈答品に比べると相手の好みを選ばないので、贈答に利用しやすいでしょう。贈答やお返しなどの目的で購入した商品券も接待交際費として計上できます。
なお店舗名などの入ったカレンダーや手帳を取引先に贈答した場合は、交際費ではなく広告宣伝費となりますので注意しましょう。
懇親を兼ねて取引先とゴルフをした
取引先などと懇親を兼ねてゴルフをしたとき、プレーに伴うゴルフ代や、ゴルフ場利用税も接待交際費として計上できます。
打ち合わせを兼ねて食事を取り、代金を割り勘で支払った
打ち合わせなどで複数人で食事をし、費用を各々で割り勘にした場合は、自分の分のみを経費計上しましょう。領収書を分割して発行してもらうことは難しいはずですので、自身で出金伝票などを作成しておくことをおすすめします。
その際、以下のような事項をなるべく具体的に記載しておきましょう。
・日時
・金額
・店名・所在地
・使用目的・内容
・参加人数・相手
取引先の家族にお祝い事があり、慶弔金を贈った
慶弔金とは結婚や出産のお祝い金、お葬式などの不幸に際して支払うお金です。取引先やその家族に対しての慶弔金も、接待交際費として計上できます。
慶弔金の場合、領収書をもらうことはできないため、自身で出金伝票などを作成しておくのがおすすめです。
友人や親族と食事をした
事業には関係しない、事業の利益を生み出すことにはならない費用は対象となりません。そのため家族で食事をとった飲食代や、プロ野球を観戦したチケット代などは、もちろん接待交際費には含まれません。
ただし支出が「事業に関係する」ものであれば、友人や親族との飲食代も接待交際費として計上できる場合があります。たとえば「取引先でもある友人と街でバッタリ遭遇し、そのまま飲みに行った」などという場合の飲食代は、接待交際費として計上可能です。
「福利厚生費」「会議費」は間違えやすいので注意
接待交際費と似た勘定科目として、「福利厚生費」「会議費」というものがあります。これらの勘定科目は会計上処理を間違えやすく混同しやすいため、注意しましょう。
従業員の慰安のために飲み会を開いたら「福利厚生費」
接待交際費が事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答などの行為の結果に伴う支出である一方、福利厚生費は専ら従業員の慰安のために行なわれる行事に伴う支出を指します。
「従業員を慰労するための食事会」「会社のレクリエーションのために要する費用」などは接待交際費からは除外され、福利厚生費として計上するのが一般的です。
ただし、食事などの目的が従業員の慰安ではなく接待であれば、接待交際費として処理する点に注意しましょう。たとえば退職を検討している従業員を引き留めるための食事の場や、採用したい従業員をもてなす食事会などです。
会議中の食事や飲み物代は「会議費」
「取引先とのランチミーティングでのランチ代」や「会議で出すお弁当代」は、一般的には接待交際費ではなく会議費として計上します。
接待交際費と会議費の違いは、その支出の目的です。接待交際費は取引先などとの接待に伴う飲食代であることに対し、会議費は社内外での会議や打ち合わせなどに要した費用を言います。
個人事業主が交際費を計上するために行なうべきこと
個人事業主が接待交際費を経費として計上するためは、「誰と行ったか」を領収書などにメモしておくことが大切です。
税務調査が入った際に、証拠とともに事実関係の説明がしっかりできなければ認められないこともあるため必ず行いましょう。
領収書をもらえなかった場合は出金伝票を作成する
領収書がもらえなかった場合は、「内容のメモ書きを残す」ことと、「出金伝票を作成する」ことが対応策となります。
取引の内容については自身でこまめに記録を取っておくと良いでしょう。また、市販されている出金伝票を用いて、取引の日時や金額・相手先・取引内容などの情報も加えておくことが必要です。
「誰と行ったか」を必ずメモする
接待交際費を計上するためには、私的な飲食代などではなく、事業に関する費用であると証明する必要があります。そのため「誰と行ったのか」に関する情報は重要です。
領収書に直接「いつ誰と行ったか」「どのような取引内容か」など書き込んでおくと良いでしょう。また記帳時も摘要欄に記しておくことが大切です。
領収書の保存期間にも注意しましょう。白色申告の場合は5年間、青色申告の場合は7年間となります。
接待交際費の仕訳例
接待交際費の複式簿記における仕訳は、以下のようになります。摘要欄に取引相手の名前や人数を具体的に記載することを忘れないようにしましょう。
年月日 → 2023年5月1日
借方 → 交際費 20,000円
貸方 → 現金 20,000円
摘要 → 〇〇会社代表〇〇様と2人で会食
経費計上できるか迷ったら税理士へ相談を!
個人事業主が経費にできる接待交際費は、法人と異なり上限が決まっていません。しかし何の費用でも計上できるわけではないため、接待交際費の範囲を正しく理解することが大切です。
「これは経費計上できるのだろうか」と迷ったら、税務のプロである税理士に相談しましょう。