内部留保とは|計算方法もあわせて解説

2023年7月8日

経済ニュースやインターネットで「内部留保」と見かけることがあるかもしれません。
労働組合などからは、内部留保せずに人件費の賃上げを要求する一方、経営陣は将来に備えて内部留保を行いたいと考えています。
内部留保とはどのようなことを指し、どのように計算するのでしょうか。
簡単に言うと、個人にとっての貯金とほぼ同じです。しかし、企業では貯金とは異なります。

この記事では内部留保の基本的なことから、どのように内部留保を見るのか、その使い方などを説明していきます。

内部留保とは

内部留保(社内留保)とは、当期純利益のうち配当金に回されない部分のことです。
言い換えると、企業が生み出した最終的な利益のうち、社内(内部)に蓄えられる(留保される)部分を意味します。計算式は以下の通りです。

【内部留保の計算式】
内部留保 = 当期純利益 – 配当金

注意点として内部留保の定義はさまざまな説があり、配当金などの社外流出する部分に役員賞与や役員退職金を含めるなどの説もあります。この記事では社外流出を株主への配当金のみとして説明していきます。

まず、決算書の1つである損益計算書の観点から内部留保を説明します。
具体例として給与のみのサラリーマンを考えてみましょう。
サラリーマンの場合は年間の給与合計額から家賃や税金、生活費などを差し引いた部分が当期純利益に該当します。次にサラリーマンは配当金を払わないため社外流出はゼロです。
したがって、当期純利益がそのまま内部留保になります。
この個人の例で簡単に言うと、1年間の貯金増加分が内部留保です。

次に、企業の内部留保を説明します。
企業では、さまざまな収益から費用・税金を差し引いた結果が当期純利益となります。
ただし企業の場合、収益・費用に必ずしも資金の受け取り、または支払いがある訳ではありません。
個人の例の場合は収益・費用と資金が完全に対応していました。しかし、企業では主に以下のような取引が含まれることがあるため資金が対応しません。

【資金の純収入と利益がずれる原因】
・含み損
・含み益
・過去に資金を受け取ったまたは支払った取引

原因は上記以外にもありますが、含み益の具体例は、有価証券の含み益があります。
有価証券の含み益(値上がり部分)は、収益(利益)が増えるものの有価証券を売却した訳ではないため資金は受け取っていません。このほかにも減価償却費や掛の売上取引など、ずれる原因があります。

企業の内部留保をまとめると、必ずしも資金とは完全対応しません。
したがって内部留保は預金ではなく、企業が貯めた利益です。

内部留保と貸借対照表の関係性

内部留保が、当期純利益のうち配当金に回されない部分、というのは損益計算書(P/L)の観点からの説明です。次は貸借対照表(B/S)の観点から説明します。

結論から言うと、貸借対照表・純資産の部の利益剰余金が「内部留保の累計額」になります。
まず、利益剰余金は以下の式で1会計期間ごとに増加していきます。なお、赤字の場合は想定しません。

【利益剰余金の増加】
期首の利益剰余金 + 内部留保(※) = 期末の利益剰余金

※内部留保 = 当期純利益 – 配当金

貸借対照表の利益剰余金は貸借対照表の日付における利益剰余金の残高を表しています。
利益剰余金は、内部留保が積み重なった残高、つまり「内部留保の累計額」と言うことができます。

また、貸借対照表は資金の運用と調達の観点で見ることができます。
具体的には、貸借対照表の左側(借方)はお金がどのような形となって運用されているかを表します。商品であれば、現金・預金が商品となって運用されている状態を意味します。

また、貸借対照表の右側(貸方)はお金をどのように調達したかを表します。
負債(他人資本)は返済義務のあるお金を調達したことを表し、純資産(自己資本)は返済義務のないお金を調達したことを表しています。特に利益剰余金は企業が自ら利益を出し、株主に配当を支払わずに資金調達した部分と言えます。

ここで重要なことは、利益剰余金が増加した分、企業が現金・預金として貯金しているわけではないことです。このことは個人が住宅ローンで家を購入した場合にも同じことが言えます。住宅ローンを組んだ後はその住宅ローンに対応する預金・現金はありません。家と土地になっているはずです。
企業の場合も同様に、利益剰余金として貯金があるわけではなく有価証券や設備などに投資されています。

日本の企業における内部留保の現状

まず、確認までに内部留保は以下の式で計算されます。

【内部留保の計算式】
内部留保 = 当期純利益 – 配当金

また、内部留保を比率にした内部留保率があり、以下の式で計算されます。

【内部留保率の計算式】
内部留保率(%) = 内部留保 ÷ 当期純利益 × 100(%)

内部留保率の意味は、当期純利益に対して内部留保の割合を表した比率です。
つまり内部留保率が高いほど企業が利益を貯めていることになります。
反対に、当期純利益がマイナスの場合は内部留保率がマイナスになります。

日本企業の平均内部留保率をみると2014年からおおむね50%前後で推移しています。
また、会社の規模別の傾向として大企業よりも中小企業のほうが内部留保率は高くなる傾向があります。

日本の企業における内部留保の現状をまとめると通年であれば50%前後の推移をし、不景気になると内部留保率が下がる傾向があります。内部留保は結局のところ、好景気であれば当期純利益が大きくなるため上がり、不景気の時は当期純利益が小さくなるため下がる傾向があります。
特にバブル崩壊やリーマンショックなどの大きな不景気の時は当期純利益が小さくなる、またはマイナスになるため内部留保率は下がります。

内部留保率をみると景気によって多少の増減がありますが、財務省が2020年10月に発表した昨年度の法人企業統計のニュースによると2012年度以降、利益剰余金は毎年増加しています。つまり、日本企業は内部留保が多いという現状です。

また、海外と日本を比較しても内部留保率が景気に左右される同様の傾向があります。内部留保は万が一の時の保険的な意味があるのかもしれません。

内部留保はなぜ重要なのか

冒頭でも説明しましたが、内部留保は企業にとって利益を蓄えることを意味するため重要です。
理由は2つあります。

1つ目は、内部留保(利益剰余金)が信用スコアになることが挙げられます。
このことは日本の商慣行が影響しています。日本では支払いを数カ月先延ばしにする掛取引が主流です。
掛取引が根強いのは、企業間の「信用」があるためです。
特に内部留保の累計額を意味する利益剰余金は、信用スコアとして重要視される指標の1つです。

また、もう1つとして、万が一の時に備えるためというのが挙げられます。
2020年の新型コロナウィルスの蔓延はコロナショックと言われる経済危機です。この状況下では、消費が冷え込み不景気となります。不景気では利益が小さくなる傾向があり、利益が出なければ貯金を切り崩すことになります。
貯金が無ければ銀行からの融資を検討することになりますが、特に中小企業では融資を受けられないこともあります。万が一の経営危機に備えて内部留保を行うことが重要です。

内部留保を高めるには

内部留保を高めるには計算式からいうと当期純利益を大きくする、または配当金を減らすことになります。

まず当期純利益を大きくするには、さまざまな要因があるため、企業によって異なります。
当期純利益は、企業の1会計期間の最終的な経営成績を表す利益です。当期純利益を算出する過程では本業関連の損益や営業外の損益、さらに特別な要因による損益と税金があります。
したがって、当期純利益を大きくするには、さまざまな方法が考えられ、企業によってその方法は異なるのです。

また、配当金を減らすことで内部留保を高めることができます。
上場企業では不特定多数の株主がいるため配当金が大きな金額になります。しかし内部留保を高めるために配当金を減らすのは簡単ではありません。経営者の立場上の問題や株価の問題があります。

まず、経営者の立場上の問題は、経営者は株主へ利益を還元しなければ解任されてしまうということです。配当金を実施しないで内部留保することを株主へ十分に説明しなければいけません。

次に、株価の問題は、配当金を払わない場合は基本的に株の人気が下がります。
このような場合でも現実では株価が上がることもあります。しかし、給与体系や役員報酬が株価連動型の場合は、株価を下げることにつながりやすいため、役員の立場からは選択しにくい状態です。

補足として、上場企業とは対照的に中小企業では内部留保が高いです。
理由として中小企業では不特定多数の株主がいないため、多額の配当金を支払わないためです。
つまり、当期純利益のほとんどが内部留保として利益剰余金になります。

しかし、内部留保をしすぎると法人税が課税されることがあります。ほとんどの中小企業は該当しませんが、以下の内部留保課税に該当すると、法人税が課税されます。

内部留保課税とは

内部留保課税とは、法人税の留保金課税(りゅうほきんかぜい)のことです。
留保金課税は、一定の法人(特定同族会社)が多額の内部留保を溜め込んでいる場合に追加で法人税を課税するものです。

留保金課税が想定する状況を説明します。
個人とその個人が50%超の大株主となっている法人は、法人の財産が実質的に個人の財産になります。
理由は、50%超の株式を通じて個人の意思決定がそのまま法人の意思決定となり、個人が法人を好きなように操作することが可能なためです。
この状態で法人が配当金を支払うと、個人のほうで所得税がかかってしまいます。しかし配当金を払わなければ所得税がかかることがありません。さらに、法人の財産 = 個人の財産のため、法人に財産を貯めておいても何も問題がありません。このような状況に対して、各要件がありますが留保金課税が行われます。

特定同族会社とは

留保金課税の対象となる法人は、特定同族会社です。ただし資本金または出資金が1億円以下の法人は基本的に該当しません。

特定同族会社とは、簡単に言うと親族経営の会社です。
要件などの各規定がありますが、法人の財産 = 親族の財産になる会社が該当します。
基本的には各個人が所有している株式数と血縁関係(親等や配偶者、内縁関係など)を考慮して株主をグループ化して判定していくことになります。このような判定で、親族の意思決定 = 法人の意思決定となる場合が特定同族会社です。

内部留保の税額

留保金課税の税額は、以下の計算式で算定されます。

【留保金課税の計算式】
税額 = 課税留保金額 × 特別税率

なお、課税留保金額は以下の通りです。

課税留保金額 = 当期の留保金額 – 留保控除額

また、税率は課税留保金額を以下の各段階に分けて乗じていきます。なお当事業年度が12カ月に満たない場合は月割計算を行います。

 

留保金額 税率
年3,000万円以下の金額 10%
年3,000万円超~1億円以下の金額 15%
年1億円超~ 20%

まとめ

内部留保は、損益計算書の観点、貸借対照表の観点や税金の観点で意味が少し違ってくる用語です。
厳密に使わない場面では、「利益を蓄えること」で問題ありません。

また、内部留保と預金・現金をセットにすると混乱の原因になりますので注意が必要です。内部留保の元は当期純利益で、あくまでも利益だということを覚えておきましょう。