日本各地では、地方の人口減少や高齢化、都市への過度な人口集中などが深刻な課題となっています。こうした現象に対応するため、国や自治体では「地方創生（いわゆる地域創生）」を掲げ、地域が持続的に発展できる体制づくりを進めています。中心となるのが、地域の課題を自ら見つけ出し、解決につなげるための支援策としての補助金や交付金制度です。本稿では「地方創生 補助金」をキーワードに、制度の背景・目的、主な補助金・交付金の枠組み、活用にあたってのポイント、企業・自治体・地域団体それぞれの視点からの留意点、そして今後の展望を整理していきます。

地方創生とは何か、その背景と意義

「地方創生」とは、人口・産業・生活環境などの視点から地域の活力を回復・維持し、都市と地方のバランスをとりながら、地域が自律的に発展していく仕組みを作ることを指します。地方から都市へ人口が流出し、地方の過疎化・衰退が進む中、地域の将来を見据えた施策として、地方自治体が主体となる地方版総合戦略の策定や、国の交付金・補助金を活用した取組が進んでいます。たとえば、地域が抱える課題（人口減少、雇用の確保、産業の空洞化など）に対して、地域自身が目標を設定し、プロジェクトを実施していくという流れです。

このような地方創生において、補助金・交付金は非常に重要な役割を果たします。補助金とは、国や自治体が地域団体・企業・ＮＰＯ等の事業を支援するために費用の一部を負担する制度であり、交付金とは自治体などへの財政支援を指すケースが多く、地域の取組を後押しする財源枠となっています。地域が主導して事業を進めるための起動力・資金基盤として、こうした制度が位置づけられています。

主な補助金・交付金制度の枠組み

地域創生に関わる補助金・交付金制度には、国レベル・都道府県・市町村レベルで多様なものがあります。たとえば、国の制度としては、地方創生推進交付金が挙げられます。これは地域自治体が策定した地域再生・活性化に係る計画に基づき、交付を受ける制度です。自治体は地域の人口・雇用・産業などに関する目標を定めて計画を作成し、国の認定を受けて交付金が交付されます。地域の主体的な取組を促し、ＰＤＣＡ（計画・実行・評価・改善）サイクルを回して持続可能な地域づくりを目指す枠組みです。

また、起業を促すための制度として、地方創生起業支援事業（起業支援金）があり、都道府県または市町村が地域課題解決に資する社会的事業等を対象とし、事業費の一部を助成するものです。厚生労働省・内閣府等が情報を提供しており、社会性・事業性・必要性を備えた事業を意図しています。さらに、都市部から地方への移住と就業・起業を支援するための制度としては、地方創生移住支援事業（移住支援金）があり、特に東京23区在住者等が地方への移住・起業・就業を行う際の支援がなされています。

加えて、「新しい地方経済・生活環境創生交付金」といった新世代型の交付金制度もあり、インフラ整備を除いた分野や、デジタル田園都市国家構想との連携枠など、地方創生を次の段階に進めるための支援制度が整備されています。こうした制度を用いて、観光振興、産業振興、地域のデジタル化、移住・定住促進、人材育成など多岐にわたるテーマを地域が包括的に取り組めるようになっています。

制度活用による地域のメリット

補助金・交付金を活用することで、地域・自治体・企業・ＮＰＯ等にはいくつもの利点があります。まず一つに、地域課題を自ら整理し、目標を掲げ、計画的に取り組むための「資金的基盤」を確保できることが挙げられます。人口減少や雇用減少など、長年の課題を抱える地域では、自前資金で大規模な取組を行うのは難しいケースが多く、国の交付金を活用することで事業をスタートさせやすくなります。次に、補助金・交付金制度を契機として、地域内外の関係者（住民・企業・行政・ＮＰＯ等）が連携を図る「プロジェクト・プラットフォーム」をつくる機会が生まれます。地域が主体性を持って取り組むことが可視化され、地域ブランドづくりや観光資源活用、産業転換なども進みます。

さらに、補助制度による取組が一定の成果（ＫＰＩ）を伴うことが求められることが多く、地域が「成果志向」で動きやすくなります。たとえば、移住者数、雇用創出数、観光客数、地域内消費額の拡大といった目標設定と実績報告が義務づけられており、単に補助を受けて終わるのではなく、継続的に改善していく仕組みが整っています。これによって、補助金を手段としつつ、地域が自走できるモデルを目指すことが可能となります。

制度活用にあたっての課題・留意点

一方で、補助金・交付金を活用するに際しては注意すべき点もあります。まず、申請準備および実績報告にかかる負荷が無視できません。申請書類の作成、計画の策定、事業のモニタリング、報告書の作成など、行政手続きが多く、それを担う人材・体制を地域が準備しておくことが重要です。また、補助金頼みの事業構造になってしまうと、補助が終わった後に持続性が確保できないというリスクがあります。制度設計上、「将来的には交付金・補助金に依存しない、自律的な地域経済圏をつくること」が意図されており、補助終了後の運営を見据えた収益モデルや体制構築が不可欠です。

さらに、制度を活用して成果を出すためには、地域の課題・ニーズを的確に捉えた事業を設計することが大事です。地域資源・地域産業・住民の価値観を踏まえずに、外部から持ち込んだ企画をただ補助金仕様で実施しても、地域との整合性や住民の支持を得にくいというケースがあります。また、ＫＰＩ設定や実績評価がなされる制度である以上、達成しやすい数値目標を安易に設定してしまうと後の評価で苦労する可能性があります。制度変更や予算の縮小、予期せぬ外部環境変化（例えばコロナや自然災害）も念頭に置いておくべきです。

企業・自治体・地域団体の視点からの活用ポイント

まず企業の立場から見ると、地方で事業展開を考える際に補助金・交付金活用は大きな助けとなります。地域における市場の未開拓性や人口構造の変化などをチャンスと捉え、地域課題の解決を伴うビジネスモデルを設計できれば、補助制度を通じて初期コストの軽減・リスク低減を図れます。そして、起業支援制度などをメインターゲットとすることで、地域内の連携・行政対応をスムーズに進めやすくなります。自治体・地方公共団体の立場からは、補助金・交付金を「地域内のプレーヤーを巻き込んだ総合戦略を実施するための資源」として捉え、住民・企業・行政・ＮＰＯと共に課題を共有したうえで、中長期の地域版総合戦略を描くことが成果につながります。また、地域団体・住民団体の立場では、補助金制度をきっかけに課題解決に向けた行動を起こせるよう、地域資源を洗い出し、住民参加を促す仕組みづくりが鍵となります。

活用事例から学ぶ

実際に補助金・交付金を用いて地域活性化に成功した事例には、地域の観光資源を活用して新たな体験プログラムを設けた自治体や、都市圏からの移住・起業を支援して定住化を図った地域などがあります。たとえば、都市部から地方へ移住し、地域資源を活かして新たな事業を立ち上げ、補助金を活用して初期費用を抑え、地域に雇用を生むという流れがみられます。こうした取組は地域内だけでなく、外部からの注目を集め、地域ブランディングの契機になることもあります。また、観光地であれば、観光まちづくり支援事業を用いて受入環境整備を行い、コロナ禍後のインバウンド回復を見据えて設備改修・システム導入・イベント展開を行った例もあります。

今後の展望と地域が取るべき方向性

これからの地方創生においては、補助金・交付金を「はじめのきっかけ」として、地域自身が持続可能な仕組みを持つことが求められます。例えば、デジタル・テクノロジーの活用、地域産業の再構築、脱炭素・ＳＤＧｓを意識したまちづくり、地域間連携、都市・地方連携（地方創生拠点整備型）などが次のフェーズとして注目を集めています。また、地域の魅力・資源をデザインと結びつけ、地域住民が安心して働き暮らせる環境を整備することも重要です。

さらに、補助金・交付金を活用した後も、地域が自ら循環する経済を確立し、補助金がなくても継続できる体制づくりがカギとなります。計画段階から補助終了後を見据えた収益モデルや運営体制、ＰＤＣＡの仕組みを取り入れることが、真に「地方創生」を実現するための要素です。

加えて、補助制度の数自体や内容が変化していることも念頭に置く必要があります。例えば、観光支援やデジタル化支援など、新たな政策課題に対応する補助金制度が登場しており、地域として柔軟に対応できる体制を持つことが競争力につながります。

まとめ

「地方創生 補助金」というキーワードから紐解いたように、地域の活性化・再生において、補助金・交付金制度は強力な支援ツールであり、地域・自治体・企業・住民が協働して進めるべき仕組みです。しかし、補助金が目的になってしまっては本末転倒です。重要なのは、地域が自ら課題を発見し、資源を活かし、補助金を足がかりとして自律的な成長のサイクルを作ることです。本稿が、地域活性化に取り組む皆さまにとって一つの手がかりとなれば幸いです。