これからの売上で新たな資金調達を!

2023年12月28日

スタートアップ企業が頭を悩ませる成長資金の確保は大きな課題のひとつであることは揺るぎない事実である。外部からの資金調達により早く、大きな成長を遂げることになるだろう。しかし、創業間もない赤字企業が銀行などから融資を受けるのは非常に難しい。そこで第三者割当増資──新株を投資家に引き受けてもらうことで資金調達を実施することになるが、株式発行には時間や労力もかかり、調達後には投資家からリターンを求められるようになる。
そうしたスタートアップから今、注目され始めているのが「RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)」と呼ばれる新たな資金調達手段である。欧米を中心に、調達手段として活用が広がっているRBFについて説明したい。

SaaSやD2Cビジネスの資金調達に日本でも活用され始める

RBF、あるいはそれに類似した事業資金調達の仕組みは、古くは石油やエネルギー業界で利用されてきた。そして薬品開発や映画製作の業界で活用されるようになった後に、スタートアップ企業の成長資金の調達手段として注目されるようになる。近年ではリカーリング型モデルのビジネスへの適用が進んでいるところだ。

RBFを活用してSaaSスタートアップへの投資を行うVCには、米国のNovel CapitalやBigfoot Capital、Lighter Capitalなどがある。また、カナダのClearco(旧Clearbanc)や英国のValerian Fundsなども、D2Cをはじめとする欧米の消費者ブランドに向け、RBFによる投資を行っている。

日本でもいくつかの企業がRBFを新しい資金調達手段として提供を始めている。2021年4月にRBFサービスの「Yoii Fuel」をクローズドベータ版として提供開始したYoii(ヨイ)は、同年10月にシードラウンドで約1億円、2022年2月には追加で2500万円の資金調達を実施している。また「Flex Capital」を1年余りベータ版として提供してきたFivot(フィボット)も、間もなく正式なサービス開始を予定している。

Fivot代表取締役の安部匠悟氏によると、同社はベータ版としてすでにSaaSやD2Cスタートアップを中心とした数十社に1社数千万円程度の資金を提供してきたが、現時点でのデフォルト率は0%だという。今後は1社5000万円から1億円程度の提供も想定する。RBFを提供する事業者は債権を譲受する際、一定額ディスカウントして資金を提供し、その差分額でマネタイズする。海外ではおおよそ債権の6〜12%をディスカウントするケースが多く、Fivotも今後同程度の料率でのビジネスを検討している。

今後、サブスクリプションビジネスが活性化している日本でも、従来より利用しやすい資金調達手段として、RBFの活用が広がると考えられる。

「RBF」とはデットとエクイティのハイブリッド型の調達手段

Revenue-based finance(レベニュー・ベースド・ファイナンス、RBF)は、日本語にすると「収益還元型金融」。Royalty-based finance(ロイヤリティ・ベースド・ファイナンス)とも呼ばれ、スタートアップなどの資金調達手段の1つである。「将来発生が見込まれる売上(債権)を譲渡する」というスキームを活用したもので、投資家は企業の継続的な総収入の一定割合と引き換えに出資し、事業収入に応じた金額を、あらかじめ決められた金額が支払われるまで受け取る。

RBFはしばしば、金融機関などによる融資(デットファイナンス)とエンジェルやベンチャーキャピタル(VC)による投資(エクイティファイナンス)の中間に位置付けられる。RBFでは、銀行融資などで求められる担保や創業者の個人資産などによる保証は必要としない。また投資家から出資と引き換えに株式(持分)を求められることもない。スタートアップは株式を希薄化することなく、将来の売上を現金化して、成長資金を確保することができる。

サブスクリプション型のSaaSやD2Cなど、継続的に収益が発生するリカーリング型ビジネスでは、売上予見性が高いため、RBFとの相性が良い。「LTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)」ベースでの利益は見えているものの、足元のキャッシュフローに苦しむスタートアップのキャッシュの“ズレ”を埋め、より機動的な成長につなげることが可能になる。

投資家にとっても、RBFには利点がある。まず、投資先の取締役会に席を置く必要がなく、投資のための評価作業(バリュエーション)も不要だ。RBFにより提供した資金が有効に活用され早期に売上が増加すれば、資金の回収も早まるため、投資家とスタートアップの双方にとってメリットがある。