資金調達における増資と融資との違い、それぞれのメリットデメリットを解説

2023年11月29日

株式会社の資金調達は非常に重要であり、運転資金や新規事業の投資など経営のさまざまな局面で必要になる、会社にとって重要な施策のひとつです。

この資金調達の代表的な2つの手法が、融資と増資です。
本記事では資金調達方法のうち、増資について用語の定義から融資との違い、メリット・デメリットを整理して紹介します。

資本金の増資および出資(投資)とは?

株式会社では設立時に資本金を拠出し、創業以降の必要資金とします。この資金を追加で確保するために行うのが増資です。

増資では、一般的に会社の株式を新たに発行し、それを株主となる人(もしくは既存の株主)が引き受ける(購入する)というかたちで資金調達が行われ、資本金が増加します。
似た言葉に「出資」「投資」がありますが、これは増資のためにお金を出す側からみた行為になります。「〇〇会社の増資に応じて、〇〇円を出資もしくは投資した」というように用いられます。

このように増資目的で株式を発行することを「募集株式の発行」や「新株発行」と呼びます。他にも資本金を増やす方法はありますが、一般的に増資といえば「募集株式の発行」を指します。

融資(借り入れ)とは?

金融機関から会社にお金を貸すことを「融資」といいます。借りる会社側からみれば「借入」「借金」となります。
個人がお金を借りる場合、単に「借金」と呼ぶことが多いですが、「融資」は会社が事業拡大目的で資金調達するというニュアンスで使われます。

資金調達方法における融資と増資(出資、投資)の違い

融資では、主に金融機関からまとまった資金を借りて金利を乗せて一定期間で返済します。いわゆる借金、ローンと同義です。
まとまった資金を調達するという点では増資と融資は同じ目的ですが、いくつかの点で明確な違いがあります。

会社の所有者に変化が生じる

融資はお金の貸し借りだけの関係性です。返済が終われば関係は終わります。

増資に用いる株式は、会社の権利を集めた資金に応じて発行する証書です。つまり、増資による資金拠出の代わりに会社の権利の一部を引き渡し、会社のオーナー(の1人)になるということです。株式を持っている間は会社との関係はずっと続きます。

資金調達のコストが異なる

融資におけるコストの中心は金利です。逆に言うと金利を含めて定期的な返済の目処が立っていれば問題ないともいえます。売上規模が大きくなくても定期的な入金がある企業で使いやすい方法です。

増資におけるコストは配当やキャピタルゲインです。これらは融資への返済と異なりすぐに支払いが必要ではないこともありますが、時間に猶予がある分、長期的には融資の金利以上の期待となることが一般的です。今は売上が少ないが競争力のある製品リリースなど、時間はかかるが大きな成長が期待できるサービスや企業で使われることが多くなります。

登記など事務作業・事務コストの有無

融資であればその手続は金融機関側で行うことが多くなりますが、増資では新たに発行する株式数や1株あたりの金額算定など会社側での事務コストが多くなります。

また、増資後には会社登記簿の発行済株式の総数や資本金の額の変更も必要になり、司法書士への依頼や登録免許税などの費用もかかります。一般的には司法書士に依頼する方法が安心ですが、打ち合わせ時間や費用を節約したい方にとってはGVA 法人登記のようなネットで登記書類を作成し、法務局に行かずに申請できるサービスもおすすめです。

納税額への影響

増資をすると会社の資本金額が上がります。資本金が上がると納税額が増えます。
いくつかのラインがありますが一般的なものとして

消費税:資本金1000万以下の場合、2年間の免税措置がある
外形標準課税:資本金1億円以下であれば免除される

その他にも下請法などの適用基準や補助金申請の可否などに影響する場合があります。

資本金を増資するメリット・デメリット

融資と増資には上記のような違いがあります。では、増資して資本金を増やす場合のメリット・デメリットは何でしょうか?代表的なものをピックアップしました。

増資のメリット

調達先とお金の貸し借り以上の強固な関係が築くことで信用度が上がる

有名な会社、特定の業界で競争力のある会社と資本関係になることで信用度が上がったり、クライアント企業へのアクセスがしやすく可能性があります。

定期的なキャッシュフローがない段階でも資金調達できる

融資であればすぐに定期的な返済が求められますが、増資では時間的な猶予があるのが一般的です。(上場企業など一部企業ではではすぐに配当が必要になる場合もあります)

調達で会社の味方が増える

株主が増えることで、株主がサービスを積極的に紹介してくれたり、人材を紹介してくれたりと会社にとって好ましいネットワークができる可能性があります。

増資のデメリット

金利よりも資金調達コストが高くなる可能性

特にスタートアップ・ベンチャー企業での増資は、直近の配当よりも将来の成長性が強く求められます。この負担を融資として比較することも大切なことです。経営方針とも密接に関わるポイントですのでよく考えて決めましょう。

経営者(オーナー)の株式比率が減少し権利が希薄化する

増資をすることは、オーナーの持分比率が減少することになります。これにより自分だけで大きな意思決定ができなくなる可能性があります。

一度株主になったら関係性を変えることは難しい

特に未上場の会社では、一度株主になったら会社側の都合で変更するのは非常に難しくなります。手軽に株式を売買する株式市場もないですし、そもそも増資に応じた株主も短期での売買を求めていないことが多いからです。

増資してからやっぱりやめたいと思っても後戻りできないということを十分理解しておきましょう。特に、素性もよく知らない人が株主になって後から問題のあることがわかった、ということだけは絶対に防ぎましょう。

融資のメリット・デメリット

融資のメリット

スピーディに資金調達できる

一般的に融資のほうが、資金調達の実行(着金)までの時間が短くなります。金融機関が提示する条件に合えば、スピーディに資金調達ができます。増資の場合、条件をゼロからすり合わせたり、デューデリジェンスなどの手間が発生するため時間がかかる傾向があります

経営の自由度を変えずに資金調達できる

融資の場合は、会社の株式の持ち分に変更はありません。融資した金融機関とは、あくまでも借りたお金を返済できるかどうかの関係になります。返済が滞るようなことがなければ、経営の自由度やオーナーシップを維持して資金調達できます。

融資のデメリット

多額の調達がしにくい可能性

融資の場合、その会社が持つ財産やキャッシュフローなども勘案して融資可能額が決められます。魅力的なビジネスだけど創業からまもなく売上や資産がない場合、多額の資金調達ができない場合があります。増資の場合、ユーザー増加率や成長性次第では、融資では難しい金額を調達できる可能性があります。

利息や元本の返済が必要

当たり前ですが、融資の場合は利息や元本を毎月や決められたタイミングで返済する必要があります。出資においても金銭的なリターンは期待されますが、調達直後から定期的な支払いは発生することはほとんどないでしょう。

担保や保証人が必要な場合がある

融資の場合、担保や保証人が必要となる場合があります。とくに社長の個人保証を求められた場合、業績の不安定な時期にはさまざまな面で負担になってしまう可能性があります。