ファクタリングの仕訳方法を会計基準に沿って解説
2024年1月16日
企業の資金調達方法のひとつであるファクタリングは、金融機関からの融資などにくらべて敷居が低く、緊急の資金需要にも対応できるため頼りにしている経営者もたくさんいます。
ただし、融資とは異なるため、このファクタリングを利用するうえで、会計基準による定めがあり、企業会計においては、この指針に沿った運用が求められることになります。
本記事ではこの指針について解説し、その後で、指針に沿ったファクタリングの仕訳方法について解説していきます。
加えてファクタリングにおいては消費税が非課税になること、ファクタリング手数料は損金で処理できる(売掛債権譲渡損)ことについても解説していきます。
また最後に、国際財務報告基準にのっとった仕訳方法についても解説します。
ファクタリングには会計基準による定めがある
企業経営において、ファクタリングによって資金を調達した場合、会計上ではどのように処理すべきなのでしょうか。
日本税理士会連合会他4団体は、ファクタリングの利用を「資産の譲渡」であると定めています。これは、つまり融資ではないということです。
まず、この点について説明していきましょう
ファクタリングは「資産の譲渡」という定義が定められている
会計基準におけるファクタリングの定めについては、日本税理士会連合会などの4団体が連名で公表している「中小企業の会計に関する指針」において、以下のように記載されています。
14.金銭債権の譲渡
手形の割引又は裏書及び金融機関等による金銭債権の買取りは、金銭債権の譲渡に該当する。したがって、手形割引時に、手形譲渡損が計上される。
わずか2行の文章だけなので拍子抜けしてしまうかもしれませんが、これによって「ファクタリングは資産の譲渡である」ということが示されています。
ファクタリングの対象となる売掛金は、上記で定められている「金銭債権」に該当します。
そしてファクタリング会社にその金銭債権を売却して資金調達を行うことは、「金融機関等による金銭債権の買取り」ということにほかなりません。
このため、日本においてはファクタリングは融資ではなく、資産の譲渡として公的に認められていることになりますから、企業会計における仕訳も、この基準に沿って起こす必要があります。
ファクタリングは融資とは異なる資金調達方法
前述したとおり、ファクタリングは融資とは異なります。
なぜなら資金を調達した後、契約当事者に以下のような義務が課されないためです。
・利息を支払う義務がない
・元金を返済する義務がない
そもそも、元金の返済義務があったり、利息を支払ったりしなければならない資金調達方法は、ファクタリングではありません。
それは「売掛債権担保融資」であり、別のものであると言えます。
このようにファクタリングは融資と異なりますから、融資を受けたことを信用情報機関に登録されることもありません。
ということは、すでに多額の融資を受けており、債務超過となってしまっている企業であっても、ファクタリングなら利用できる場合も多いということになります。
ファクタリングを利用した場合の仕訳は?
それでは、企業会計基準にのっとってファクタリングを利用すると、どのような仕訳となるのでしょうか。
それぞれのケースについて、解説していきます。
ファクタリングを契約した場合
企業会計におけるファクタリングの仕訳は、現金が入金されたときからではなく、ファクタリングの契約を締結したときから始まります。
なぜかというと、ファクタリングの契約を締結した時点で、ファクタリング会社との間で売掛金の売買契約が成立しているためです。
「契約した時点」ということは、ファクタリングを申し込んでも審査に通らなかったり、条件の折り合いがつかなかったりした場合は含まれていません。
そのような場合は、基本的には何も仕訳を起こす必要はないでしょう。ただ、ファクタリング会社によっては、「審査料」といった名目の費用を請求するところもあります。
そうした支払いをしなければならなかった場合は、その旨の仕訳を起こす必要があります。
多くのファクタリング会社では、審査するだけで料金を請求することはありませんが、中にはそのようなファクタリング会社もありますので、申し込み以前にきちんと確認すべきでしょう。
ファクタリング会社から入金された場合
さて、売掛債権を売却する契約が締結され、実際にファクタリング会社からその代金が入金されると、ファクタリング利用会社では資産が増加することになります。
ファクタリング会社から入金された金額は、売掛債権そのままの金額ではありません。
ファクタリングには手数料がかかりますので、譲渡した売掛金から手数料が差し引かれた額が入金されるはずです。このため「未収金」は、「売掛債権譲渡損」「売掛債権売却損」という2つの科目に分かれることになります。
もちろん、実際に入金された金額については、入金された口座や手段に合った方法で仕訳を入力する必要があることは、いうまでもありません。
またファクタリング会社の審査結果によっては、売掛金の全額を買い取るのではなく、掛目が適用される場合があります。
印紙税を徴収された場合
じつは、ファクタリングの契約書は、以下に示す「債権譲渡に関する契約書」に該当しています。
このため、印紙税の対象となる「課税文書」にあたることになるので、印紙税の納税が必要になります。
(厳密には、1万円未満の場合には印紙税は不要ですが、実際には1万円未満のファクタリング契約というものは考えにくいので、印紙税は必ず必要になるとおぼえておいたほうがいいでしょう)
債権譲渡又は債務引受けに関する契約書(第15号文書)
債務譲渡………債権をその同一性を失わせないで旧債権者から新債権者に移転することをいいます。
登記費用を支払った場合
登記費用は、登録免許税と、司法書士に支払う報酬で勘定科目が異なります。ただし、これらの費用をファクタリング会社が負担する場合は、利用企業の側で負担するのは不要ですので、仕訳の入力も不要です。
まず、登録免許税は、債権譲渡の登記をする場合に必要な税金です。したがって印紙税と同じく、「租税公課」の科目を使います。法務省の「債権譲渡登記手数料の変更について」によれば、登録免許税の金額は、原則として1件当たり7,500円です。
債権譲渡登記は、司法書士など専門家に依頼して行う場合もあるでしょう。
そうした場合の司法書士への報酬は消費税の課税対象となりますから、別途10%の消費税も支払わなければならないことになります。
これらの勘定科目は、以下のとおりとなります。
・司法書士など、専門家に対する報酬:「支払報酬」
・報酬にかかわる消費税:「仮払消費税」
その他の費用を支払った場合
ファクタリング会社によっては、事務手数料などといったその他の費用を請求される場合もあるかもしれません。
この場合は、支払った費用の名目というより、その費用が実体として何なのかという点に着目して仕訳を起こすことが求められます。
たとえば、事務手数料が実際には手数料の一部を構成しているような場合は、「売掛債権譲渡損」に含めて計上することになります。
売掛先から入金された場合
次に、売掛先から入金された場合の仕訳について説明します。
仕訳の必要があるかどうかは掛目の有無により変わります。
・掛目なし(全額買い取り)の場合:仕訳不要
・掛目ありの場合:ファクタリング会社に買い取られなかった部分について、仕訳の入力が必要
これは、ファクタリング利用企業とファクタリング会社の2社で契約する「2社間ファクタリング」を利用するのか、それに売掛先企業も加えた3社で契約する「3社間ファクタリング」を利用するのかといったことによっても変わってきます。
2社間ファクタリングを掛目なしで利用した場合、売掛先からの入金額は全額ファクタリング会社へ送金する義務があります。
3社間ファクタリングの場合は、そもそもファクタリング利用企業への入金自体がなく、売掛債権の売却代金は売掛先企業からファクタリング企業に直接入金されます。
どちらにしても会計上の入金額はゼロであるため、仕訳は不要となるわけです。
一方で、掛目ありの場合は、それを仕訳する入力が発生します。
たとえば220万円の売掛金を掛目80%で買い取ってもらった場合は、残りの2割相当(44万円)が未収入金のままとなっています。
2社間ファクタリングの場合は売掛先から、3社間ファクタリングの場合はファクタリング会社から送金された日となります。