架空債権を使ったファクタリングや売掛金の二重譲渡にご注意
2023年3月30日
売掛債権を売却し現金化するファクタリングを使って資金調達をする経営者が多くなりました。しかし、業者の中には法外な手数料を請求しようとする悪徳業者などが存在するため、利用する上でそのような被害に遭わないように注意が必要とされています。
ただ利用者が被害を受けるケースばかりではなく、利用者が架空債権を売却しようとしたり、債権の二重譲渡を行おうとして業者が被害者となるケースも少なからず存在します。
節度を守りファクタリングを有効な資金調達の方法として利用できるように、どのような行為が架空債権や二重譲渡に該当するのか、その内容を把握しておきましょう。
トラブルの要因は2社間での契約方法?
ファクタリングを利用する方ではなく、売掛金を買い取るファクタリング会社が被害者になるケースとは、主に売掛先を介さず契約を結ぶ2社間ファクタリングで起きがちです。
まずは3社間ファクタリングと2社間ファクタリングの違いを理解することが必要なので、それぞれの内容を把握しておきましょう。
2社間ファクタリングとは
2社間ファクタリングとは、利用者とファクタリング会社で契約を結ぶファクタリングですので、3社間ファクタリングとは違い売掛先に債権譲渡の事実を通知したり承諾を得たりということは行わない点がメリットです。
この売掛先に対する債権を譲渡する旨の通知や承諾を得るという行為は、ファクタリング会社が売掛金を買取り、新しく売掛債権の権利を保有することになったことを証明するために行われます。
2社間ファクタリングでは通知や承諾を得て新しく権利を保有していると証明できないため、代わりに債権譲渡登記を行う点が3社間ファクタリングとの違いと認識しておきましょう。
2社間での債権譲渡が多く利用される理由
2社間ファクタリングは売掛先を取引に加えない形の契約のため、主に、売掛先との関係を悪化させたくないと考える事業者が多く利用します。
3社間ファクタリングを利用すると売掛先に対して通知や承諾を得る手続きが必要となるため、2社間ファクタリングよりも手間がかかり、資金調達できるまでのスピードも違いが出てしまいます。
また、ファクタリング会社に売掛金を買取ってもらうことを売掛先に伝えることになるため、売掛金を資金調達に利用しなければならないほど資金繰りが悪化しているのか…と余計な不安を与えることにも繋がってしまう可能性も出てきます。
その後の売掛先との取引に影響が及ばないとも限らず、2社間ファクタリングのようにこっそり売掛金の買取代金を受け取り資金調達に活用できない部分は3社間ファクタリングとの大きな違いです。
これらのことから、手間や時間をかけず売掛金をスムーズに現金化でき、売掛先にも知られることなく資金調達が可能となる2社間ファクタリングにメリットを感じ多く利用する経営者が増えているといえるでしょう。
手数料が3社間に比べて高め
現金化までが素早く、売掛先に知られず契約が可能となるのが2社間ファクタリングです。3社間ファクタリングとは違い、2社間のほうがメリットは高いと考える経営者は多いことでしょう。
先に前倒しで売掛金を回収できる上に売掛先にも知られることがないなら、利用者側からみればメリットは高く感じられるでしょうが、反対にファクタリング会社の立場としてみればリスクが高い取引となります。
まず3社間ファクタリングであれば、売掛先から承諾を得た上での契約となるため、本来の売掛金の支払期日に売掛先から支払われるその代金は直接売掛先からファクタリング会社に支払われ回収されます。
しかし2社間ファクタリングでは売掛先を取引に加えませんので、売掛金の支払期日には利用者が売掛先から代金を回収し、回収した代金をファクタリング会社に支払いを行う形になります。
ここで問題となるのが、もし利用者が売掛先から代金を回収したタイミングで資金難に陥っていた場合などです。利用者の口座に送金され回収できた売上代金は、すでにファクタリングを利用して現金化した売掛金です。そのため回収した代金はファクタリング会社のものであると認識しておき、遅れずファクタリング会社に支払いを行うことが必要です。
利用者はあくまでも売掛先からの回収業務をファクタリング会社に代行して行うにすぎないので、自社の口座に入金され回収できたからといって、自社の別の支払いに充ててよいお金だと勘違いしないことが大切です。
この回収代金を使い込みされてしまうリスクやデメリットといえる部分を踏まえ、2社間ファクタリングでは手数料が高めに設定される傾向が高くなります。
2社間での債権譲渡がトラブルになりやすいその背景
2社間ファクタリングでトラブルが起きがちなのは、ファクタリングがそもそも融資を受けることができない事業者が多く利用する手法であることが背景にあります。
ファクタリングは法整備が不十分
ファクタリングのスキームや制度そのものに対して、まだ法的な整備が十分ではないこともトラブルの原因となっています。
特に2社間ファクタリングの場合、利用者だけでなくファクタリング会社の安全も十分に確保できない状況となりやすいので、信用取引という言葉がぴったりの状況で契約を結ぶこととになります。
融資を受けることができない事業者が利用する資金調達の手法
銀行やノンバンクに借り入れを申し込んだけれど断られてしまったものの、何とかして資金を調達しなければならない…という窮地に立たされた事業者がファクタリングという方法にメリットを感じ、保有する売掛金を資金化できるのなら!と利用するケースが多いといえます。
本来なら資金調達する方法は複数あり、その中の1つが銀行やノンバンクからの融資などです。しかし、融資を受けることは難しいという限られた選択肢の中で資金調達を行う必要がある状態では、冷静さに欠ける行動をとってしまうことが多くなりがちです。
ファクタリング会社が被害者となるトラブルの内容
以上のことを踏まえた上で、ファクタリング会社が被害者となるトラブルとはどのような状況なのか確認しておきましょう。
資金を何とかして調達しなければならない状況下の中で、銀行やノンバンクに借り入れの申し込みを行ったものの審査に通らないことに焦りを感じている状態を想像してみれば、つい魔が差してしまうのかもしれません。
しかし焦りを感じてしまったとしても、次のような行為を行えば訴訟を起こされ犯罪として取り扱われることになりますので、絶対に行わないようにしましょう。
同じ売掛債権を複数のファクタリング会社に売却する二重譲渡
二重譲渡とは、物や権利を他者に譲渡した譲渡人が、同じ物や権利を別の第三者にも譲渡することです。
手違いまたは意図的に同じ売掛金という売掛債権を譲渡し、その権利を所有する方が複数になることが二重譲渡といえます。
ファクタリングにおいての二重譲渡とは、すでにファクタリングに利用して売却した売掛債権を別のファクタリング会社に持ち込み、2度ファクタリングを行うことです。
売掛金は、売掛先からその代金を回収する権利という目に見えない特性を逆手にとって、すでにファクタリングに利用している売掛金でも別のファクタリング会社ならバレないと考える事業者が存在するのです。
しかし、すでにファクタリングでファクタリング会社に譲渡した売掛金はその時点でファクタリングの所有物です。その売掛金を勝手に譲渡することは、委託物横領罪や詐欺罪とみなされます。
二重譲渡を防ぐために行われる債権譲渡登記
先にも述べましたが、2社間ファクタリングでは売掛先に対して通知を行ったり承諾を得るということはありません。その代わりに債権譲渡登記を行うことがありますが、これは二重譲渡によるトラブルを防ぐためです。
債権譲渡登記とは、不動産登記や商業登記と同じように、法務局で手続きを行い誰がその債権の所有者か証明する手続きです。
公的に所有者であることを証明できるため、ファクタリング会社が買い取った売掛金を別のファクタリング会社に売却されてしまっても、すでにその権利が移転していることを証明することができます。
そして2社間ファクタリングで契約を結ぶ前に、登記が行われていないか確認することで売却済の売掛金を買い取ることを防ぐことも可能です。
ファクタリング会社が抱える未回収や貸し倒れリスクを軽減するために、2社間ファクタリングでは債権譲渡登記を必須とするケースも少なくありませんが、登記にかかる費用は利用者が実費で負担することになります。
また、資金調達後に銀行融資などを検討している場合においては、登記情報は誰でも閲覧可能である点を理解しておくことが必要です。
誰でも閲覧できるということは、売掛先だけでなく融資の審査を行う銀行も内容を把握することが可能ということになります。
銀行に融資の審査を行ったとき、売掛金に対する調査も行われますので、その際に債権の所有者が第三者に移転していることを知られれば、審査に通らなくなると考えられます。
そのため、2社間ファクタリングでも債権譲渡登記を行わず取引してくれるファクタリング会社を選ぶことが重要です。
債権の二重譲渡が発覚したときのファクタリング会社の対応
もし実際に二重譲渡が行われた場合、ファクタリング会社は売掛金が回収不能となることを避けるために、売掛先にファクタリングで売掛債権が現金化された事実を伝えざるを得なくなります。
売掛先に対して直接、債権譲渡通知を行うこととなりますが、本来2社間ファクタリングを利用した理由はファクタリングで資金調達することを知られたくないからだったはずです。
しかも後で売掛債権が譲渡された事実を知らされた売掛先は、いったいどこに対して支払いを行えばよいのか混乱することとなるでしょう。
自社の売掛債権を二重譲渡されたことを知り、誰に支払いが行えばよいかわからない状態にされたと知った売掛先は、利用者を信用できなくなりその後の取引を停止すると考えるかもしれません。
発覚した後のダメージは大きいと考え、二重譲渡は行ってはいけない行為だと改めて認識しておくべきです。
ファクタリング利用における審査で虚偽の申告を行う
ファクタリング会社に安心して取引を行ってもらいたいと考えるあまり、審査の際に虚偽の申告をしてしまうことがあるようです。
たとえば売掛先の経営状況や自社の与信に関係するファクタリング会社からの質問に対して、本当のことを伝えると不安を与えてしまい買取金額が下がると考え、嘘の申告を行ってしまう事業者がいます。
しかしファクタリングの審査では、
・帝国データバンク
・東京商工リサーチ
・JICC 日本信用情報機構(指定信用情報機関)
などの信用情報機関で信用情報を確認しますので、いくら虚偽の申告を行っても登録されている情報と相違があると信頼性を失うだけです。
嘘を申告して審査の結果が上がることは基本的になく、反対に嘘の申告を行ったことが悪影響となる可能性が高いので、買取金額が下がるどころか場合によっては取引できないと判断される可能性が出てきます。
法整備が不十分な業界だからこそ、利用者とファクタリング会社の善意で成り立つところが大きいと理解し、虚偽の申告を行うことはデメリットでしかないと考えておくべきです。
取引先から入金された売掛金の横領
先にも述べたとおり、2社間ファクタリングでは売掛先からの代金回収は利用者が行います。
本来ならファクタリング会社自身が行いたい売掛先からの売掛金回収を利用者に代行してもらうという行為は、利用者に対する信頼を元に成り立っていることなのです。
売掛先から回収した売掛金はファクタリングを利用して現金化した時点で、すでにファクタリング会社にその権利が移転されています。
そのため、回収した期日にファクタリング会社に渡さず、自社の資金として流用することは契約違反であり、さらにファクタリング会社の所有する資金を勝手に使用した横領罪とみなされ、刑事告訴の対象となります。
もし2社間ファクタリングを利用する場合には、この横領行為を行わず回収した代金はスムーズにファクタリング会社に渡さなければならないことを肝に銘じておくことが重要です。
架空債権を用いて売却する行為
ファクタリング会社が被害を受けるケースで、もっとも悪質といえるのが架空債権を用いたファクタリングです。
特に悪質なケースになると、取引先と共謀して架空債権を作り持ち込まれることもあります。
請求書の偽造やねつ造、粉飾した決算書・試算表などをファクタリング会社に持ち込み、中には売掛先と継続して取引が行われているように見せかけるため通帳の写しなど履歴を偽造するケースもあるのです。
持ち込まれた売掛債権が架空のものか、ファクタリング会社でも信用情報などをもとにして審査を行いますが、見抜けないケースではファクタリング会社が騙されることになります。
もし発覚した場合は私文書偽造罪や詐欺罪という刑罰の対象となりますし、そもそも架空の請求書を使って現金を得たとしても、支払期日に回収されるはずのない架空債権の売掛金をファクタリング会社に入金しなければならなくなります。
存在していない売掛金なので売掛先から代金が回収されることも当然ありません。そのため期日に回収業務はなく、前倒しにより受け取った売掛金分のお金をファクタリング会社に支払うことはできないのです。
一時的に現金を得てもすぐに資金難に陥ることが目にみえている行為ですので、そもそも回収の発生しない架空の売掛金を使った資金調達は自社の首を絞める行為と留意しておくことが必要です。
なお、架空債権でファクタリングを行ったとしても、支払期日に嘘の売掛金分の支払いができればファクタリング会社にとって問題はないのかもしれません。
しかしそのような行為を好むファクタリング会社は悪徳業者でもない限り存在せず、資金繰りを改善して事業を円滑なものにする手助けをしたいと考える優良なファクタリング会社の願いを裏切る行為です。
正しく使えばメリットの高いず資金調達の方法ですが、使い方に間違いがあれにしてもば罪に問われる行為となることを十分に留意した上で活用すので、絶対に行わないるようにしてください。
まとめ
売掛金というまだ回収されていない売掛債権を売却して資金化するファクタリングは、中小企業などの有効な資金調達として注目されつつあります。
しかし法整備が十分でない点が銀行融資などとの大きな違いであり、悪用して架空債権や二重譲渡という方法でファクタリング会社を騙そうとするケースも後を絶ちません。
ただ、これらの行為はいずれも犯罪であり、一時的に資金を調達することに成功したとしてもいずれ発覚してしまいます。もし発覚すれば罪に問われるだけでなく、取引先や社会的信用を失うこととなり、その後、事業を継続できなくなる可能性もありますので絶対に行わないようにしてください。