ファクタリングは短期借入金になる?

2024年1月17日

ファクタリングは融資に代わる新しい資金調達方法として近年注目されています。売掛金の買い取りによって資金を調達し、売掛金の入金日に回収した売掛金をファクタリング会社に送金することで完結します。
ファクタリングは1年~数年など長期にわたって行う取引ではなく、売掛債権を買い取ってもらった後は、売掛金の入金サイトが来ればすぐにファクタリング会社に全額支払いします。
その意味では短期借入金に近いものがあります。果たしてファクタリングは短期借入金と同じように会計処理をしても良いのでしょうか?
今回は、ファクタリングと短期借入金の関係について解説します。

原則!ファクタリングと短期借入金は異なる!

ご存知のようにファクタリングは融資ではなく、売掛金、売掛債権の譲渡です。つまり、銀行法や貸金業法、利息制限法などが適用されません。
融資ではないことのメリット、デメリットについては資金を調達するときに利用される方法ですが、売掛金を売却して資金化する方法のため、事業用資金を借り入れたときと同じ経費処理にはなりません。
融資の場合、その借入金を1年以内の短期で返済するなら「短期借入金」、1年以上の期間にわたって返済するなら「長期借入金」の勘定科目を使用します。
ファクタリングの場合、1年以上のサイトの売掛金というのは(0ではありませんが)まずありません。そのため「短期借入金」勘定を使って処理したくなりますが、違います。
ファクタリングは融資ではないので、借入金勘定、借入金の費目を使っての経理処理はできません。
ファクタリングについては一種独特な経理処理を行うため、短期借入金の勘定科目は使用しないことになります。
ファクタリングを行った場合の経理処理(仕訳)については以下のようになります。これは2社間ファクタリング、3社間ファクタリング、双方で共通するものなのでぜひ覚えておいてください。

短期借入金勘定を使用する例外的なファクタリングの経理処理

ファクタリングは融資ではないので、短期借入金勘定を使うことは原則ないのですが、例外的に短期借入金勘定を使って経理処理することがあります。その例外的な状況について解説します。あくまで例外的な経理処理で、通常は短期借入金勘定を使いません。
「金融会計基準第10号、金融商品に関する会計基準」にファクタリングが売買契約となる条件、つまり借入ではなく譲渡契約について以下のように記載されています。
1.債権譲渡登記をしていること
2.通常の(現金振り込み)方法で資金調達できること
3.償還請求権がないこと(ノンリコース契約をしていること)
の3条件を満たす場合です。3条件を満たさない場合、債権譲渡=ファクタリングではなく融資になります。
その場合、調達した資金は売買取引ではなく、金融取引となり融資です。短期借入金の勘定科目を使って仕訳しないといけません。
また、3条件を満たさない場合は融資になりますので、ファクタリング会社は銀行か貸金業の許可が必要になり、手数料を年利換算すると20%より高くできません。利息制限法に引っかかってしまいます。
実質3条件を満たさないファクタリングは、売掛債権を担保にした融資(動産担保融資)になります。
売掛金を担保にした短期借入金を、売掛金の支払日に一括して返済するイメージになります。
ファクタリングで短期借入金勘定を使う場合は、もはやファクタリングではなく動産担保融資だとご認識ください。

ファクタリングの仕訳でお示ししたケーススタディーを動産担保融資として売掛金を担保に借りたケースを考えてみましょう。
ファクタリング会社C社は、銀行業か貸金業の許可を持っていなければなりません。
また、ファクタリングで手数料10%売掛金回収サイト60日は、年利換算すると
10%÷2か月(サイト60日)×12か月=60% 年利60%の融資となり利息制限法違反、違法になります。
動産担保融資の場合、金利上限は20%なので
X%÷2か月×12か月≦20
X≦3.333333・・・
短期借入金勘定を使う動産担保融資の形態を取る場合、ファクタリング手数料は3.3%以下でないと違法になります。
ファクタリング手数料3%台というのは、3社間ファクタリングでとても条件が良いケースです。
つまり、短期借入金勘定を使うファクタリングは、かなり条件が良くイレギュラーな動産担保融資のケースに限られることになります。
短期借入金となるファクタリングは「融資」なので、信用情報照会が審査の過程であり、また実行された場合も、審査に落ちてしまった場合も、その旨信用情報に掲載されます。
どちらにしても利用歴が信用情報に残るので、多用はデメリットが大きいでしょう。
では、実際の仕訳を見てみましょう。

A社がB社に部品を掛け売りする(売掛金が発生)

(6月30日)
借方          貸方
売掛金 ¥1,100,000 売上 ¥1,000,000
仮受消費税 ¥100,000
「仮受消費税」の勘定科目を使わずに、税込み表示として単に
借方         貸方
売掛金 ¥1,100,000 売上 ¥1,100,000
でも大丈夫なのは通常のファクタリングと共通しています。

8月10日にファクタリングを申し込み、審査に通過した

入金期日(売掛金支払期日)前にファクタリングによって資金調達しようと思い、ファクタリング会社とファクタリング契約を結びます。ただし、3条件を満たさないファクタリングなので動産担保融資となります。
(8月10日)
仕訳なし
通常のファクタリングと違うのがまずここです。融資になるので、借方「未収入金」、貸方「売掛金」の仕訳は発生しません。仕訳はここでは行いません。

8月12日に債権譲渡手続きが完了し手数料3%を支払い現金化した

利息制限法を超えてはいけないので、サイト60日の売掛金の場合、手数料は3.333・・%以下になります。手数料3%でファクタリングしたとすると以下になります。
(8月12日)
借方           貸方
現金預金 ¥1,067,000   短期借入金 ¥1,100,000
売上債権売却損 ¥33,000
「売上債権売却損」はファクタリング手数料を示します。ファクタリングではあるので、支払利息などの勘定科目にはなりません。

8月31日に売掛金を債務者(B社)から回収した

売掛金回収サイト60日(2か月)後、売掛金がB社から入金されました。
通常の3社間ファクタリングでは、この仕訳は不要でしたが、融資の返済になるので、ここは3社間ファクタリング(の動産担保融資)でも仕訳を行います。
(8月31日)
借方          貸方
短期借入金 ¥1,100,000 売掛金 ¥1,100,000
2社間ファクタリングの場合別の仕訳になりますが、手数料率的に、2社間ファクタリングで短期借入金勘定になるケースは考えづらいものです。
一応、2社間ファクタリングだったとすると以下の仕訳になります。

8月31日に売掛金を債務者(B社)から回収した(2社間ファクタリング)

売掛金回収サイト60日(2か月)後、売掛金がB社から入金されました。
(8月31日)
借方        貸方
現金預金 ¥1,100,000 売掛金 ¥1,100,000

同日、ファクタリング会社(C社)に売掛金の振り込みをした(2社間ファクタリング)

(8月31日)
借方         貸方
短期借入金 ¥1,100,000 現金預金 ¥1,100,000
このような仕訳になります。
実際に短期借入金勘定を使うファクタリングは稀です。銀行や貸金業許可を持っていないとできず、そうした会社ならばファクタリングではなく融資をすすめることが多いはずです。
したがって、ファクタリングで短期借入金勘定を使うことはほとんどありません。売掛金、売掛債権という動産を担保に融資を受ける場合、ファクタリングの仕組みを流用して例外的に短期借入金勘定になると知ってください。
ファクタリングはあくまで売掛債権の売却であり、融資性はありません。売掛債権を担保に借りるのと、売掛債権そのものを売るのではまったく異なります。

事例でファクタリングの仕訳を検証しよう

実際に事例をお示しし、そこからファクタリング仕訳、つまり短期借入金勘定を使わない仕訳について説明します。
A社はB社に対して機械の部品を製造、卸している工場です。そのA社が100万円(税抜き)の部品をB社に掛売し、サイト60日で売掛金回収する事例を考えてみます。

A社がB社に部品を掛け売りする(売掛金が発生)

(6月30日)
借方          貸方
売掛金 ¥1,100,000 売上 ¥1,000,000
仮受消費税 ¥100,000                 

「仮受消費税」の勘定科目を使わずに、税込み表示として単に

借方          貸方
売掛金 ¥1,100,000 売上 ¥1,100,000
とすることもできます。

8月10日にファクタリング会社にファクタリングを申し込みOKとなった

入金期日(売掛金支払期日)前にファクタリングによって資金調達しようと思い、ファクタリング会社とファクタリング契約を結ぶとこうなります。
(8月10日)
借方          貸方
未収入金 ¥1,100,000 売掛金 ¥1,100,000

8月12日に債権譲渡手続きが完了し手数料10%を支払い現金化した

ファクタリング手数料10%で買い取りが成立しました。なお、わかりやすくするため、掛け目(買取率)については考えないものとします。
(8月12日)
借方          貸方
現金預金 ¥990,000  未収入金 ¥1,100,000
売上債権売却損 ¥110,000
「売上債権売却損」はファクタリング手数料を示します。税込み1,100,000円の10%なので手数料は110,000円になります。
ファクタリング会社への手数料の勘定科目は「売上債権売却損」ではなく「支払手数料」や「雑損失」などを使っていただいても構いません。
これらの勘定科目は経費の勘定科目ですので、ファクタリング手数料は経費、損金に計上できます。
なお、ファクタリング手数料(売上債権売却損、支払手数料、雑損失)は「非課税」です。もし、手数料に消費税を上乗せして請求してくるファクタリング会社があれば、悪徳企業の可能性が高くなります。
3社間ファクタリングの場合は、これで仕訳が終了です。本来の売掛金支払日には、ファクタリング会社(C社)が直接売掛金をB社から回収するのでA社はすることがありません。
2社間ファクタリングの場合は、そのあとにもう1つ最後の経理処理があります

8月31日に売掛金を債務者(B社)から回収した

売掛金回収サイト60日(2か月)後、売掛金がB社から入金されました。
(8月31日)
借方          貸方
現金預金 ¥1,100,000 預り金 ¥1,100,000
B社からの入金は自分のお金ではなく「預り金」として一時的に預かり、その後C社へ返済します。

同日、ファクタリング会社(C社)に売掛金の振り込みをした

(8月31日)
借方          貸方
預り金 ¥1,100,000 現金預金 ¥1,100,000
以上で経理処理が終わりました。特に2社間ファクタリングの場合は、少し面倒なのですが、これがファクタリングの経理処理で、短期借入金勘定は使わないことがわかりました。