ファクタリングは違法?過去の判例から見る合法・違法の境界線を徹底解説
2025年10月1日
中小企業の資金繰りを支える方法として注目されているファクタリング。
請求書(売掛債権)を譲渡して早期に現金化する仕組みは、銀行融資に代わる柔軟な資金調達法として広がっています。
しかしその一方で、「違法なファクタリング」や「偽装ファクタリング」と呼ばれる手口も問題となっており、実際に裁判で違法と判断された事例も少なくありません。
この記事では、合法と違法の線引きがどこにあるのか、過去の判例をもとに詳しく解説します。
1. ファクタリングの基本的な仕組み
ファクタリングとは、企業が取引先に発行した請求書などの売掛債権を、ファクタリング会社に譲渡して資金化する取引のことです。
取引の流れとしては、まず企業が取引先に商品やサービスを提供し、売掛金が発生します。その後、ファクタリング会社がその債権を買い取り、企業は早期に現金を受け取ります。取引先からの支払いは後日、ファクタリング会社が受け取るという仕組みです。
この構造はあくまで「債権譲渡契約」に基づくものであり、融資ではありません。
そのため、貸金業登録がなくても合法的に運営でき、企業の信用情報にも影響を与えないとされています。
つまり、リスクを取って債権を買い取る行為であることが、ファクタリングの根本的な特徴です。
2. 違法と判断されるファクタリングとは
見た目はファクタリングの契約でも、実態が「貸付」と変わらない場合には違法と判断されます。
裁判所は、契約書の文面よりも「実際の金銭の流れ」や「リスクの所在」を重視して判断します。
たとえば、売掛債権が回収できなかった場合に利用者が買い戻す義務を負っている場合、それは実質的に貸付とみなされます。
また、売掛先に債権譲渡の通知をしていない場合、実際には債権の譲渡が成立していないと見なされ、融資と変わらない構造になります。
さらに、手数料が極端に高い場合も問題です。年利に換算すると出資法の上限を大幅に超えるケースがあり、これも高利貸付として違法とされます。
ほかにも、存在しない売掛金(架空債権)を使った取引や、給与や年金など法律で譲渡が禁止されている債権を対象にしたものは、明確に違法です。
このように、契約書上は「売買」でも、実際の内容が貸付と変わらなければ、ファクタリングではなく「闇金行為」と判断されます。
3. 違法とされた代表的な判例
(1)給与ファクタリング事件(最高裁令和5年2月20日)
給与債権を買い取る名目で、労働者にお金を前払いするという形の「給与ファクタリング」が全国的に広がった時期がありました。
しかしこの取引は、給料日後に労働者が業者へ返金する仕組みであり、実態としては高金利の貸付でした。
最高裁判所は、「この取引は貸金業法上の貸付にあたる」と明確に判断。
貸金業登録をしていなかった業者は違法とされ、出資法違反(高金利)にも該当しました。
さらに、給与債権そのものが労働基準法で譲渡禁止とされていることも大きな理由となりました。
この判決によって、給与ファクタリングは実質的に全面的に違法とみなされています。
(2)大阪地裁平成29年3月3日判決(償還請求権付き取引)
この事件では、中小企業の売掛債権の一部をファクタリング会社が買い取る契約が問題となりました。
契約上は「債権の売買」とされていましたが、もし債権が回収できなかった場合、利用者が差額を補填する義務がありました。
つまり、ファクタリング会社には実質的なリスクがなく、利用者が債権の不履行リスクをすべて負っていたのです。
大阪地裁はこれを「実質的に貸付と同じ構造」と判断し、債権譲渡契約ではなく貸付契約であると結論づけました。
この判例は、買戻し義務(償還請求権)を伴う契約は貸金とみなされるという判断を明確に示した事例として知られています。
(3)東京地裁令和3年2月9日判決(給与ファクタリング事案)
都内の業者が給与ファクタリングを行っていた事件では、手数料が20〜40%と極めて高額で、返済が遅れた場合にはさらに延滞料が加算されていました。
裁判所は、この取引を「貸金業登録をしていない業者による貸付行為」と認定し、違法であると判断しました。
さらに、業者には損害賠償および返金命令が出されました。
このような判例が積み重なったことで、給与ファクタリングは社会問題として取り上げられ、金融庁や警察も摘発を強化する動きに転じています。
4. 合法なファクタリングとの違い
違法業者と、適法に運営しているファクタリング会社の最大の違いは「契約の実態」にあります。
合法なファクタリングでは、債権を譲渡した時点でファクタリング会社がリスクを負います。
つまり、取引先が倒産して支払いがなくても、利用者が返金する必要はありません。
これを「ノンリコース(償還請求権なし)」と呼びます。
また、売掛先に対して債権譲渡の通知や承諾を行う「3社間ファクタリング」では、取引の透明性が高く、トラブルも少なくなります。
一方、売掛先に通知しない「2社間ファクタリング」は違法ではありませんが、内容次第では偽装ファクタリングと見なされるリスクがあります。
手数料も重要です。正規業者ではおおむね1〜20%程度が相場ですが、これを超える高額な手数料を要求される場合は、実質的に高利貸付の可能性が高いと言えます。
契約書の内容だけでなく、手数料の根拠や支払いの仕組みをしっかり確認することが重要です。
5. 判例から学ぶ注意点とリスク回避策
違法業者とのトラブルを避けるためには、いくつかのチェックポイントを押さえておく必要があります。
まず、「買戻し義務」や「償還請求権」がある契約は避けましょう。
この条件がある時点で、法律上は貸付と見なされる可能性が高く、のちにトラブルになる恐れがあります。
次に、売掛先に債権譲渡の通知を行うかどうかを確認しましょう。
通知が行われる3社間ファクタリングは安全性が高く、法的トラブルも少ない形態です。
また、手数料が高すぎる場合も要注意です。
正規の業者であれば、手数料率の根拠や計算方法を明確に説明してくれます。
曖昧な説明しかなく、金利換算で100%を超えるような条件であれば、違法の可能性があります。
そして、給与や年金など、法律で譲渡が禁止されている債権を扱う業者は確実に避けるべきです。
「個人でも利用できるファクタリング」「給料即日現金化」などをうたう広告は、ほとんどが違法業者による勧誘と考えて差し支えありません。
6. 違法業者と契約してしまった場合の対処法
もし契約後に違法性に気づいた場合は、できるだけ早く専門家に相談しましょう。
弁護士や司法書士、消費生活センター、金融庁の相談窓口などが頼れる窓口です。
契約書や請求書、やり取りの履歴などを保存し、証拠を残すことも大切です。
実際、裁判では被害者が弁護士を通じて返金を受けたケースも多くあります。
違法契約を放置すると、返済を迫られたり、信用に傷がついたりする恐れがあるため、早期の対応が肝心です。
7. まとめ:合法と違法の境界線を理解して安全に利用を
ファクタリングそのものは、正しく使えば非常に有効な資金調達方法です。
しかし、判例にあるような「買戻し義務付き契約」や「給与債権の取引」は明確に違法です。
合法かどうかを判断するポイントは、実態が貸付になっていないかどうかに尽きます。
リスクを取るのはファクタリング会社であること、利用者に返済義務がないこと、そして手数料が合理的な範囲であること。
この3つを満たしていれば、安全なファクタリングと言えます。
過去の判例からも分かる通り、「形式」よりも「実態」で判断されるのが法の原則です。
契約内容をしっかり確認し、信頼できる業者を選ぶことで、安心して資金繰りを改善することができるでしょう。
