調剤薬局におけるファクタリングの重要性と活用方法
2025年8月3日
少子高齢化が進む日本において、医療・介護業界の需要は年々増加しています。その中でも、地域医療を支える「調剤薬局」は、医師の処方に基づき薬を提供する重要な存在です。しかし、調剤薬局は経営上のある大きな課題を抱えています。それは「資金繰りの遅延」です。
その原因は、薬価の大部分を占める「調剤報酬」が、診療報酬請求を通じて支払われるという独自の構造にあります。入金までに時間がかかる一方で、薬の仕入れや人件費、店舗維持費などの支出は待ってくれません。このギャップを埋める手段として、今「ファクタリング」が調剤薬局の資金調達手段として注目を集めています。
本記事では、調剤薬局が抱える資金繰りの課題とファクタリングの仕組み、メリット・デメリット、実際の活用事例などを交えて詳しく解説します。
調剤薬局の資金繰り構造とは?
調剤薬局の売上のほとんどは、処方箋に基づく調剤報酬です。これは患者からの窓口負担(1〜3割)と、残りの公的保険(7〜9割)から支払われる構造になっています。公的保険部分は、薬局が請求書(レセプト)を「支払基金」や「国民健康保険団体連合会(国保連)」へ提出し、審査を経て翌月もしくは翌々月に支払われます。
このように、売上が確定しても入金までに1〜2ヶ月のタイムラグがあるため、日々の運転資金に困るケースが多く発生します。特に、以下のようなタイミングでは資金繰りがひっ迫しやすくなります:
・新規開業や新店舗の出店直後
・高額な薬剤を大量に取り扱った月
・季節変動により一時的に患者数が増加した時期
・薬価改定や診療報酬改定による収益減少
このような背景から、調剤薬局には「売上があるのに手元資金が足りない」という典型的な資金繰りの課題が発生するのです。
ファクタリングとは何か?
ファクタリングとは、企業が保有する「売掛債権」をファクタリング会社に売却し、早期に現金化する資金調達手段です。調剤薬局の場合、この売掛債権は「調剤報酬債権」、すなわちレセプト請求に基づく公的機関からの入金待ち金額を指します。
調剤薬局がファクタリングを活用する場合は、以下のような流れで資金が得られます:
・薬局が支払基金や国保連に対してレセプトを提出
・提出後、ファクタリング会社に債権譲渡の申請
・審査を経て、売掛債権の80〜90%程度の金額を即日または数営業日で入金
・実際の入金が支払基金からファクタリング会社に行われ、残額を差し引いた金額が清算
これにより、薬局は本来であれば1〜2ヶ月後にしか受け取れない資金を、最短即日で調達することが可能になります。
調剤薬局がファクタリングを導入するメリット
1. 入金サイクルの短縮による資金繰り改善
最大の利点は、レセプトの入金サイクルを短縮できる点です。支払基金からの入金は原則月1回のため、月初に発生した調剤報酬は2ヶ月以上先の入金になることもあります。ファクタリングによりこのタイムラグが解消され、現金が手元に残ることで支払いや仕入れを滞りなく行えます。
2. 借入ではないため、信用情報に影響しない
銀行融資やビジネスローンとは異なり、ファクタリングは「売掛債権の譲渡」であり、負債として計上されません。したがって、信用情報に影響を与えず、今後の融資枠や資金調達力に支障が出ないのもメリットです。
3. 開業初期でも利用可能
銀行融資では実績や担保が求められますが、ファクタリングでは将来の確定した売掛金があることで審査対象となります。開業から日が浅くても利用できる可能性があるため、創業期の薬局にとって非常に心強い手段です。
ファクタリングの注意点・デメリット
1. 手数料が発生する
ファクタリング会社はリスクを負って債権を買い取るため、手数料(3〜15%程度)が発生します。特に即日入金や無通知型(支払基金に債権譲渡を知らせない2社間型)の場合はリスクが高いため、手数料率も高めに設定される傾向があります。
2. 信頼できるファクタリング会社の選定が重要
調剤報酬債権は公的機関が支払いを行うため、不正請求があると行政処分の対象となることがあります。また、ファクタリング会社によっては手続きが複雑だったり、過剰な手数料を要求するケースもあります。医療分野に特化した信頼できる業者を選ぶことが重要です。
3. 審査に時間がかかる場合もある
初回利用時には審査や契約書類のやりとりに一定の時間がかかる場合があります。特にレセプト審査や支払基金との契約内容が複雑な場合、必要書類の準備が重要になります。
実際の導入事例
例えば、ある地方都市の調剤薬局では、インフルエンザ流行期に患者が急増。薬剤の大量仕入れが必要になり、手元資金が不足。そこでファクタリングを活用し、レセプト請求額の90%を翌営業日に受け取り、仕入れと人件費の支払いをスムーズに行うことができました。
また、別の事例では、開業2ヶ月の新設薬局が銀行からの融資を断られたが、レセプト債権を活用したファクタリングにより、開業初月の売上を元に翌月の仕入れ資金を確保できたというケースもあります。
ファクタリング導入の流れ(調剤薬局の場合)
レセプト請求額の確認:どれだけの債権が対象になるかを把握
・ファクタリング会社へ相談・見積もり依頼
・審査書類提出(直近のレセプト控え・決算書・薬局情報など)
・契約締結・債権譲渡の通知または承諾
・資金の受け取り
・支払基金からファクタリング会社への入金後、清算
今後の展望と選び方のポイント
調剤薬局を取り巻く環境は、薬価改定や地域包括ケアの推進など、常に変化しています。今後、さらなる資金繰りの柔軟性が求められる中、ファクタリングの重要性は増していくでしょう。
選定の際には以下のポイントを重視するとよいでしょう:
・医療・介護分野に特化したファクタリング会社かどうか
・手数料が適正で、透明性があるか
・支払基金との手続きに精通しているか
・契約が簡潔かつ迅速に行えるか
まとめ
調剤薬局は社会にとって不可欠なインフラでありながら、独特の資金回収サイクルによって経営リスクを抱えやすい業態です。そのような状況下で、ファクタリングは新たな資金調達の手段として、資金繰り改善や成長戦略において有効な手段となり得ます。
適切なパートナーを選び、ファクタリングを正しく理解して導入することで、調剤薬局の安定経営とサービス向上を同時に実現することができるのです。