社内貯蓄制度の落とし穴:見逃せないデメリットとは?

2025年8月16日

社内貯蓄制度は、企業が従業員の給与の一部を預かり、利息を付けて貯蓄する福利厚生制度の一つです。銀行よりも高い利率が設定されることが多く、魅力的に映る制度ですが、実は見逃せないデメリットも存在します。ここでは、社内貯蓄制度の注意点やリスクについて詳しく解説します。

社内貯蓄制度の概要

社内貯蓄制度は、従業員が毎月の給与から一定額を天引きし、会社がその資金を管理・運用する仕組みです。利率は厚生労働省が定める最低利率(現在は年0.5%)以上で設定されるため、一般的な銀行預金よりも有利な場合があります。

社内貯蓄制度の主なデメリット

1. 会社の倒産リスク

社内貯蓄制度において最も深刻な懸念の一つは、企業が倒産した場合に、従業員が預けていた貯蓄が全額返還されない可能性があるという点です。この制度では、従業員が毎月の給与から一定額を会社に預け入れ、会社がその資金を管理・運用する形を取っています。しかしながら、社内預金は銀行預金とは異なり、法的には会社の資産の一部として扱われるため、企業が経営破綻に陥った際には、従業員の預金が債権者への返済に充てられる可能性があります。

具体的には、会社が破産手続きに入った場合、裁判所の管理のもとで資産の整理が行われ、まずは金融機関や取引先などの優先債権者への支払いが進められます。その過程で、従業員が社内貯蓄制度を通じて積み立てていた資金は、返還の優先順位が低く設定されることが多く、結果として全額が戻ってこない、あるいは一部しか返還されないという事態が起こり得ます。

このようなリスクは、制度の性質上避けがたいものであり、従業員にとっては大切な資産が不測の事態によって失われる可能性を常に抱えていることになります。特に、会社の財務状況が不安定である場合や、業界全体が厳しい経済環境にある場合には、社内貯蓄制度の利用に慎重になる必要があります。制度の利率や利便性だけでなく、企業の信用力や経営の健全性を見極めることが、従業員自身の資産を守るためには不可欠です。

2. 引き出しの自由度が低い

社内貯蓄制度では、銀行口座のようにATMを利用していつでも自由に資金を引き出すことはできません。貯蓄の引き出しを希望する場合には、まず会社に対して所定の申請手続きを行う必要があり、その後、社内での処理を経て実際に資金が振り込まれるまでに数日から場合によっては1週間以上かかることもあります。こうした手続きの煩雑さや時間的な制約は、制度の利便性を大きく損なう要因となります。

特に、医療費の支払い、冠婚葬祭への急な出費、災害時の対応など、予期せぬタイミングでまとまった資金が必要になる場面では、即時に現金を確保できないことが大きな不安材料となります。銀行預金であれば、ATMやインターネットバンキングを通じて24時間いつでも資金を移動できるのに対し、社内貯蓄制度ではその柔軟性が著しく制限されているため、緊急時の対応力に欠けるという点は、制度を利用する上で十分に考慮すべきデメリットです。

また、制度によっては引き出し回数や金額に制限が設けられている場合もあり、必要なタイミングで必要な額を取り出せない可能性もあります。このような制約は、日常的な資金管理やライフイベントへの備えにおいて、利用者にとってストレスや不安を生む要因となり得ます。

3. 利率や制度の変更リスク

社内貯蓄制度は、企業が設定する利率によって運用されるため、その利率は企業の経営状況や方針に大きく左右されます。景気が良く、企業の業績が安定している間は比較的高い利率が維持されることもありますが、ひとたび経営が悪化すれば、利率が引き下げられる可能性は十分にあります。さらに深刻な場合には、制度そのものが廃止されることもあり得ます。

こうした変更は、従業員の意思や同意に関係なく、企業側の判断によって一方的に実施されることが多く、利用者にとっては予測が難しく、安定した資産運用を行う上で大きな不安要素となります。特に、長期的な貯蓄を目的として社内貯蓄制度を活用している場合、利率の低下や制度の終了は、将来設計に直接的な影響を及ぼす可能性があります。

また、制度の変更に関する情報が社内で十分に共有されないケースもあり、従業員が知らないうちに利率が変更されていたり、引き出し条件が厳しくなっていたりすることもあります。こうした透明性の欠如は、制度への信頼性を損なう要因となり、結果として従業員が社内貯蓄制度の利用を控えるようになることも考えられます。

したがって、社内貯蓄制度を利用する際には、企業の財務状況や制度の運用方針を定期的に確認し、必要に応じて他の金融商品との併用や資産の分散を図ることが重要です。制度の利便性だけでなく、継続性や安定性にも目を向けることで、より安心して資産形成を進めることができます。

4. 転職・退職時の扱い

社内貯蓄制度は、従業員が毎月の給与から一定額を会社に預け入れ、企業がその資金を管理・運用する仕組みです。この制度を利用して積み立てた貯蓄は、退職時に全額が返金されるのが一般的ですが、その資金を転職先の企業に引き継ぐことはできません。つまり、社内貯蓄はあくまで在籍している企業との契約に基づくものであり、企業を離れると同時に制度の利用資格も失われることになります。

このような性質上、社内貯蓄制度は長期的な資産形成にはあまり適していません。たとえば、20年、30年といったスパンで老後資金を積み立てたいと考えている場合、転職や退職のタイミングで制度が終了してしまうため、継続的な運用が難しくなります。退職時にまとまった金額が返金されることは確かにメリットではありますが、それは一時的な資金としての性格が強く、長期的な資産運用やライフプランに組み込むには不安定な要素が多いと言えるでしょう。

また、返金された資金をその後どのように運用するかは個人の判断に委ねられるため、退職後に適切な金融商品へ移行できなければ、せっかく積み立てた資産が十分に活かされない可能性もあります。こうした点を踏まえると、社内貯蓄制度は短期的な貯蓄や福利厚生の一環としては有効であるものの、長期的な資産形成を目的とする場合には、iDeCoや積立NISAなどの制度と併用することが望ましいと考えられます。

5. 企業側の管理負担

社内貯蓄制度は従業員の福利厚生の一環として導入されるものですが、その運用には企業側にも相応の負担が伴います。まず制度を導入するにあたっては、労働組合との間で労使協定を締結する必要があり、制度の内容や利率、運用方法などについて合意を得るための協議が求められます。これには時間と労力がかかり、企業の人事・総務部門にとっては大きな業務負担となります。

さらに、従業員から預かった資金については、会社の財務とは切り離して適切に保全する措置を講じなければなりません。これは、万が一会社が経営破綻した場合でも、従業員の預金が保護されるようにするための重要な対応ですが、実際には信託口座の設置や保証契約の締結など、専門的かつ煩雑な手続きが必要になります。

加えて、従業員が退職する際には、預けられた資金を正確に計算し、速やかに返還する対応が求められます。この返還業務には、個別の残高確認や振込処理、税務上の対応などが含まれ、ミスが許されない繊細な作業となります。従業員数が多い企業ほど、この業務は膨大なものとなり、制度の維持・運用にかかる人的・時間的コストは無視できません。

これらの事務的・制度的な負担が積み重なることで、企業によっては社内貯蓄制度の継続が困難と判断され、制度の見直しや廃止に踏み切るケースもあります。特に中小企業では、限られた人員でこれらの業務を担うことが難しく、制度の導入自体を見送ることも少なくありません。

したがって、社内貯蓄制度は従業員にとってメリットがある一方で、企業側にとっては慎重な制度設計と継続的な管理体制が求められる、負担の大きい制度であることを理解しておく必要があります。

社内貯蓄制度はどう活用すべきか

短期的な貯蓄や福利厚生の一環としては有効ですが、長期的な資産形成やリスク分散の観点からは、他の金融商品(定期預金、投資信託、iDeCoなど)との併用が望ましいです。制度の内容をよく理解し、会社の経営状況にも注意を払うことが重要です。

まとめ

社内貯蓄制度は一見すると魅力的ですが、「会社にお金を預ける」という性質上、銀行預金とは異なるリスクが存在します。制度のメリットだけでなく、デメリットにも目を向け、冷静に判断することが、従業員自身の資産を守るために欠かせません。