診療報酬担保融資のデメリットとは?医療機関が知っておくべき落とし穴と注意点

2025年4月22日

医療機関の資金繰り対策として活用される「診療報酬担保融資」は、診療報酬という安定した収入を担保にして融資を受けられることから、銀行やノンバンクを問わず多くの金融機関が提供しています。しかし、この手法は万能ではなく、利用にはいくつかのデメリットやリスクが伴います。

本記事では、「診療報酬担保融資」のデメリットを中心に、利用を検討している医療法人やクリニックの経営者が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

診療報酬担保融資とは?

まず簡単に診療報酬担保融資についておさらいします。これは、医療機関が将来的に受け取る予定の診療報酬(医療保険の点数に基づき支払われる報酬)を担保に、金融機関から資金を借り入れる方法です。返済は、診療報酬が金融機関の指定口座に振り込まれ、そこから自動的に返済される形を取ることが多く、融資の審査でもこの診療報酬の安定性が重視されます。

メリットとしては、売上に相当する診療報酬を担保にすることで、比較的高額な融資が受けやすく、資金繰りの安定化につながるという点があります。しかしながら、この便利な仕組みには見逃せないデメリットも存在します。

1. 将来の売上を先取りするため経営の柔軟性が失われる

最大のデメリットは、診療報酬担保融資が「将来入るはずの売上を先に現金化する」仕組みであるという点です。一時的には資金が潤いますが、返済の原資は将来の診療報酬です。そのため、今後の売上の一部を借金返済に充てる必要が生じ、日常的な運転資金の自由度が下がる可能性があります。

一見便利な制度に思えても、慢性的に資金繰りが悪化している場合は、融資のたびに将来収入を食いつぶす状態になり、結果的に経営を圧迫しかねません。

2. 診療報酬が減少すれば返済が困難になるリスク

少子高齢化や診療報酬改定などの影響で、今後医療機関の診療報酬が減少する可能性も否定できません。診療報酬担保融資は、「一定の売上が将来も確保されること」が前提になっているため、予期せぬ患者数の減少や診療報酬制度の見直しによって収益が落ちると、返済に支障をきたすおそれがあります。

特に開業したばかりのクリニックや、経営規模が小さい医院では、こうした収入の変動に弱く、返済負担が重荷となり倒産の引き金になるケースもあり得ます。

3. 担保設定により他の資金調達に制約が生じる

診療報酬担保融資を利用する場合、多くの金融機関では「診療報酬債権に対する債権譲渡登記」が必要になります。これは、金融機関に対して診療報酬が担保であることを法的に示すものです。

一度この担保設定がなされると、他の金融機関が同じ診療報酬を担保に融資を提供することが難しくなります。つまり、診療報酬を担保に使う権利が「占有」されてしまい、資金調達の選択肢が狭まるリスクがあるということです。

4. 金利や手数料が高くつくケースもある

診療報酬担保融資は比較的高額な資金を調達しやすい反面、金利や手数料が割高になることがあります。特にノンバンクや専門業者を通じた融資では、実質年率が10%を超える場合もあり、長期にわたって借りるとトータルで支払う利息負担が重くなる点は見逃せません。

また、金融機関によっては診療報酬の入金口座を変更させられたり、管理費用を請求されたりと、表面上は見えにくいコストがかかるケースもあります。

5. 利用には審査や手続きが必要でスピード感に欠けることも

診療報酬担保融資を利用するには、一定の事務手続きが必要です。主に以下のような書類提出や審査プロセスが求められます:

● 診療報酬の入金実績(過去6か月分など)

● 月別の売上推移・レセプトの内容

● 経営状況の説明(決算書など)

このような審査には時間がかかることもあり、即日や翌日といったスピード資金調達を望む医療機関にとっては不向きな場合もあります。急ぎで資金が必要な場面では、他の手段(例:診療報酬ファクタリング)を検討したほうがよいかもしれません。

6. 借入であるため信用情報に影響する

診療報酬担保融資はあくまで「融資」であり、返済義務のある借金です。そのため、借入額や返済状況は法人の信用情報に記録されます。将来的に別の銀行融資を検討する際、すでに借入があると審査上不利になることがあります。

さらに、経営者個人が保証人になるケースもあり、その場合は経営者個人の信用にも影響を及ぼす可能性があります。

7. ファクタリングとの違いを誤解しやすい

診療報酬をもとにした資金調達手段には、「診療報酬担保融資」と「診療報酬ファクタリング(債権売却)」の2種類があります。両者は似て非なるもので、ファクタリングは債権売却のため返済義務がない一方、融資は借金であるため返済義務が生じます。

この違いをよく理解せずに利用してしまうと、「返済が不要だと思っていたのに実際には借金だった」といった誤解が生じることもあるため、十分な理解と比較検討が必要です。

まとめ|診療報酬担保融資は慎重な活用がカギ

診療報酬担保融資は、医療機関にとって頼りになる資金調達手段の一つですが、将来の売上を先取りして借り入れる仕組みである以上、経営の自由度や資金繰りに与える影響は小さくありません。

金利や手数料、他の金融機関との取引制限、信用情報への影響など、さまざまなデメリットを理解した上で、「本当に必要な資金か」「返済できる見込みがあるか」をしっかり検討することが重要です。

必要であれば、専門の会計士や金融アドバイザーに相談したうえで、自院の資金繰り状況に最も合った手段を選ぶことをおすすめします。また、ファクタリングや補助金、助成金など、他の調達手段との比較も欠かせません。