デジタル証券とは?ブロックチェーンがもたらす証券のデジタル化革命

2025年11月2日

デジタル証券とは

デジタル証券(Digital Securities)とは、株式・社債・出資持分などの有価証券的な権利を、ブロックチェーンや分散型台帳技術(DLT)を用いてトークン化し、オンライン上で発行・記録・管理・流通できるようにした新しい金融商品の形態を指します。
従来の証券が「紙または帳簿記録された権利」だったのに対し、デジタル証券は「デジタルで記録・移転・管理可能な証券的トークン」であり、小口化・即時発行・24時間流通などの新たな特性を備えています。

デジタル証券が注目される背景

証券発行・流通の効率化ニーズ

従来、証券の発行・管理・清算には多くの中間手続き・書類・印紙・管理機構(例:振替機構)などが関与しており、コストと時間がかかっていました。デジタル証券では、これらをブロックチェーン等で置き換えることで、発行から取引までのプロセスが簡略化され、より迅速かつ低コストな証券を実現することが可能となります。

小口投資機会の拡大と資産の多様化

従来、未上場株式・不動産・インフラ・アートなどの資産は大規模な投資が必要で、個人投資家にはアクセスが難しいケースが多くありました。デジタル証券化によってこれらの資産を細分化し、少額から投資可能にすることで、投資の裾野を広げることができます。

グローバルなアクセスと流動性の向上

デジタル証券はインターネットとブロックチェーンの特性を活かし、国境を超えた発行・流通が理論上可能です。さらに、「24時間365日取引可能」「即時決済可能」といった流動性を高める設計も期待されており、新しい証券インフラとして注目されています。

デジタル証券の仕組み・構成要素

裏付資産・発行体の設計

まず、デジタル証券を発行するためには、裏付資産または権利(株式・社債・信託受益権・不動産収益など)を明確にし、発行体がその資産をトークンに割り当てる設計を行います。発行体は、トークン保有者に対して配当・償還・収益分配・優待などの条件を定義します。

トークン化・記録・管理インフラ
発行されたトークンは、ブロックチェーンや分散型台帳上で「どの投資家が何口保有しているか」「移転履歴」「権利行使状況」などを記録・追跡します。これにより発行体・保有者の権利関係・移転履歴が明確になり、透明性が高まります。

流通・二次市場設計
デジタル証券の魅力の一つは、初期発行後に投資家間または市場で売買可能な設計を備えることです。流通市場の整備・取引プラットフォームの提供・スマートコントラクトによる自動決済等が組み込まれることで、流動性向上と市場参加者の拡大が期待されます。

法規制・ガバナンス・透明性
デジタル証券を活用するためには、発行体・プラットフォーム双方において法令対応(証券法・金融商品取引法など)・KYC/AML(顧客確認・マネーロンダリング防止)・ガバナンス設計・情報開示体制が重要です。特に、どのように権利が付与・移転されるか、発行体がどのような責務を負うかを明確にする必要があります。

デジタル証券のメリット・魅力

発行・取引コスト・時間の削減
デジタル証券では書類・中間者・印刷・送付などの従来プロセスを省略できるため、発行コスト・手続き時間が大幅に削減される可能性があります。また、スマートコントラクトによる自動処理が可能となることで、効率性がさらに高まります。

個人投資家への門戸開放と多様な投資対象
細分化・トークン化によって、これまでアクセスが難しかった資産(不動産・インフラ・アート等)に少額から投資できるようになり、投資対象の多様化が実現します。これにより、個人投資家でも「プロ級」の資産運用に参加するチャンスが広がります。

流動性・グローバル性の向上
デジタル証券は、一定の条件下で「24時間取引可能」「販売者・購入者がグローバルにアクセス可能」という特徴を備えやすく、従来の証券市場に比べて取引の柔軟性・即時性が高くなります。

透明性・信頼性の向上
ブロックチェーン上に記録されるため、取引履歴・保有情報・移転履歴が改ざん困難となり、発行体・投資家双方にとって信頼できるインフラを提供できます。

デジタル証券の課題・リスク

法整備・制度設計の未成熟
多くの国・地域では、デジタル証券に特化した制度・法令がまだ整備途上であり、発行体・投資家ともに法的リスクを負う可能性があります。特に、トークンが証券としての性格を持つか否か、どの法令が適用されるか、取引市場の位置付けはどうなるか、といった点が明確でないケースがあります。

流動性確保の難しさ
デジタル証券が発行されても、必ず活発に取引されるとは限りません。流動性が低いと、保有していても売却できない、価格が形成されないといったリスクがあります。

技術・プラットフォーム・セキュリティのリスク
ブロックチェーン、スマートコントラクト、ウォレット管理などの技術的運用にはハッキング・バグ・運営ミスなどのリスクがあり、実務運用においては注意が必要です。

ガバナンス・配分・公平性の課題
トークン化の初期設計が不十分だったり、権利・配分が偏っていたりすると、一部の参加者への利得集中・透明性欠如・ガバナンスの偏りが問題となる可能性があります。

日本国内におけるデジタル証券の動向

日本でも、デジタル証券の実証実験や発行案件が徐々に増えてきています。不動産信託受益権や社債、収益債権を裏付としたトークン発行が試みられており、個人投資家向けにも開かれた商品が出てきています。法制度面でも、「電子記録移転有価証券表示権利等」といった仕組みを通じて、デジタル証券の法的位置付けが整理されつつあります。
ただし、まだ市場規模・流通インフラ・取引制度の整備には時間を要する状況で、発行体・投資家双方において慎重な対応が求められます。

今後の展望・市場可能性

対象資産・活用領域の拡大
今後、デジタル証券化される資産は不動産・インフラ・エネルギー・アート・知的財産・著作権・スポーツチームの収益権など、幅広く拡大することが期待されます。これにより、従来は流動性・アクセスの低かった資産が、より多くの投資家に解放される可能性があります。

インフラ・市場流通の成熟化
デジタル証券が本格的に普及するためには、トークン発行・管理・取引・セカンダリー市場・決済インフラ・監査・ガバナンスといった仕組みが整備される必要です。これらが整えば、従来の証券市場も含めた「ハイブリッド資本市場」が形成されるでしょう。

制度・国際基準の整備と標準化
各国・各地域で証券・トークン・デジタル資産に関する規制整備が進んでおり、国際的な基準・枠組みの構築が進むことで、デジタル証券のグローバル流通が現実味を帯びてきます。

持続可能なエコシステム構築の重要性
デジタル証券の発行が増えても、単なる発行・販売に終わると持続性を欠く可能性があります。発行体はトークン保有者に対して価値提供を継続し、流通と使用を促進するエコシステム設計が成功の鍵となります。

まとめ

デジタル証券は、ブロックチェーン技術を活用して証券発行・所有・流通の形を再構築する新たな金融モデルです。発行コストや取引時間を削減し、少額投資・多様な資産クラス・グローバル流通という特徴を備え、投資の裾野を大きく広げる可能性を秘めています。
一方で、法制度・技術・流通・ガバナンスなどの課題も残されており、発行体・投資家双方が慎重な対応を取ることが重要です。
今後、インフラと制度の整備が進めば、デジタル証券は従来の証券市場と共存・融合しながら、新たな資本市場の一翼を担うと期待されます。