債権流動化とファクタリングの違いとは?資金調達手法を徹底比較

2025年8月10日

企業が資金繰りの改善や経営の効率化を図る手法として、「債権流動化」や「ファクタリング」が注目されています。これらは一見似たような資金調達方法に思えますが、仕組みや活用目的、法的構造などにおいて大きな違いがあります。

この記事では、両者の基礎的な定義から、仕組み・目的・メリット・リスクなどを徹底的に比較し、それぞれの使い分けポイントや実務における選び方までを詳しく解説します。

1. 債権流動化とは?

債権流動化(Securitization)とは、企業が保有している売掛債権やリース債権、ローン債権などを証券化し、第三者に売却・移転することで資金を調達する手法です。特に一定の規模と信用力のある企業が、大口の債権ポートフォリオを市場に乗せて流動資産化する際に使われます。

債権流動化の特徴
・主に大企業向けの資金調達手法

・特定目的会社(SPC)を設立し、債権を証券化して売却

・長期的かつ大規模な調達が可能

会計上オフバランス処理(資産圧縮)ができるケースもある

2. ファクタリングとは?

ファクタリング(Factoring)とは、企業が保有する売掛債権を、ファクタリング会社に譲渡することで、代金を早期に現金化する資金調達方法です。特に中小企業が利用するケースが多く、入金前の売上を迅速にキャッシュ化できる点が魅力です。

ファクタリングの特徴
・売掛債権を早期に資金化できる

・審査が比較的緩く、即日入金が可能な場合も

・銀行借入とは異なり、信用情報に影響しない

・小規模・短期間の資金ニーズに対応

3. 債権流動化とファクタリングの主な違い

それぞれの違いを整理しながら、細かい点まで見ていきましょう。

(1) 目的・使われ方の違い
債権流動化:
 → 経営効率化、資産のスリム化、バランスシートの改善、大規模資金調達が目的。

ファクタリング:
 → 売掛金の早期現金化による短期の資金繰り改善が目的。特に中小・ベンチャー企業で多用される。

(2) 対象とする債権の規模や内容
債権流動化:
 → 多数の債権をまとめてパッケージ化し証券化(ローン債権、リース債権などを含むことも)。

ファクタリング:
 → 単発または少数の売掛債権を対象。多くの場合は1社~数社分の売掛債権が対象。

(3) 取引構造の違い
債権流動化:
 → 特定目的会社(SPC)や信託会社を通じて債権を切り離し、投資家へ証券として売却。複雑な法的・会計構造。

ファクタリング:
 → ファクタリング会社が債権を買い取り、手数料を差し引いた金額を即座に支払う。比較的シンプルな取引。

(4) リスクの引き受け方
債権流動化:
 → 投資家が債権のリスクを引き受けるが、アレンジャーや原債権者が一部保証を負うこともある。

ファクタリング:
 → 「償還請求権あり」と「償還請求権なし(ノンリコース)」で異なるが、多くは債権譲渡先(ファクタリング会社)が回収リスクを一部負担。

4. 各手法のメリットとデメリット

債権流動化のメリット

・資産のオフバランス化が可能(財務諸表の健全化)

・長期・大規模な資金調達が可能

・資産を持ったまま資金に転換できる

・金利が比較的低めで資金調達できることも

債権流動化のデメリット

・スキーム構築が複雑で、法律・税務・会計の専門知識が必要

・SPCの設立や維持に高額なコストがかかる

・実行までに時間がかかる(数か月単位)

ファクタリングのメリット

・即日〜数日で資金化できるスピード感

・与信審査が比較的通りやすい

・銀行融資と異なり、負債として記録されない

・支払条件が柔軟

ファクタリングのデメリット

・手数料(5〜20%)が比較的高い

・頻繁な利用は利益圧迫につながる

・顧客に知られる(2社間ファクタリングなら回避可能)

5. どちらを選ぶべきか?使い分けのポイント

・企業の規模、資金ニーズの緊急度、債権の種類によって、最適な手法は異なります。

・債権流動化が適しているケース
安定した大量の債権を保有している

中長期の資金調達が必要

バランスシートの改善を図りたい

財務体制が整っており、法務・会計の専門対応が可能

・ファクタリングが適しているケース
資金繰りが厳しく、短期的な資金が必要

銀行融資が受けられない状況にある

少額の売掛債権を早期に現金化したい

急な仕入れや人件費支払いなどに即応したい

6. 実務でよくある誤解と注意点

「ファクタリング=借金」ではない
多くの経営者が誤解していますが、ファクタリングはあくまで「債権の売却」です。借入ではないため、信用情報に影響せず、返済義務もありません(ノンリコースの場合)。

「債権流動化=すべての企業が活用可能」ではない
債権流動化は制度的な整備や信用力、債権の均質性などが求められ、すべての企業が自由に利用できるわけではありません。現実的には、大企業や金融機関が活用する手法です。

7. まとめ:両者の違いを理解し、目的に応じた選択を

「債権流動化」と「ファクタリング」はどちらも、企業の保有する債権を活用して資金を調達する方法です。しかし、実務での運用方法・目的・規模・スキームの複雑さなどに大きな違いがあります。

ポイントは以下のとおりです:

債権流動化:長期的かつ大規模な戦略的資金調達

ファクタリング:短期・小口のキャッシュフロー改善手段

企業の資金戦略や経営状況、財務体質に応じて、適切な手法を選択することが非常に重要です。