一括ファクタリングとは?でんさいとの違いやメリット・デメリットを解説
2023年5月25日
「一括ファクタリング」とは、従来まで支払企業が使っていた「手形」による支払いではなく、「売掛債権」に対してファクタリングを利用したシステムで決済の合理化を図る仕組みです。
売掛債権を金融機関が一括で買い取り、債権者である納入企業へ代金を振り込むファクタリングサービスの1つといえます。
これまで手形を支払いに使っていたケースに代用して利用されることが多く、債務者である売掛先と債権者である利用者、そして金融機関の3社でやり取りを行う「3社間ファクタリング」の仕組みと同じです。
ただし目的や用途は違うため、もし利用するのなら一括ファクタリングの仕組みや主旨も把握しておくようにしましょう。
そこで、一括ファクタリングとはどのような仕組みなのか、でんさいとの違いやメリット・デメリットについて説明していきます。
一括ファクタリングとは
「一括ファクタリング」とは、保有する売掛債権を現金化する「ファクタリング」を、売掛先・利用者・ファクタリング会社の3社で一括により行うファクタリングです。
売掛債権の現金化は一般的なファクタリングと同じですが、一括ファクタリングの場合、納入企業に対する支払手段として利用されます。
また、一般的なファクタリングの場合は売掛債権を保有する利用者が利用を決めますが、一括ファクタリングは売掛先が利用を決めることも違いです。
そもそも一括ファクタリングは手形割引に代わる手段として利用されている仕組みであり、手形を使わず決済をするための手段として使われています。
一括ファクタリングの流れ
「一括ファクタリング」を利用する場合、売掛先とファクタリング会社(銀行)がシステム登録・契約しておくことが必要です。
ファクタリング会社は売掛先から申し込みを受け付けた後で審査を行い、信用力に問題なければ契約を結びます。
売掛先とファクタリング会社の契約が成立すれば、すでに代金情報のやり取りや売掛債権譲渡も承諾済みとなるため、利用者との手続を行う必要はありません。
所定の手数料を支払うことにより、売掛債権は現金化され、利用者に支払われます。
その後、売掛先は売掛債権の支払期日に、ファクタリング会社へ代金を支払うという流れです。
一括ファクタリングの流れをまとめると、以下のようになります。
1.売掛先とファクタリング会社で一括ファクタリング契約を締結・債権譲渡承諾
2.利用者が売掛債権をファクタリング会社に譲渡
3.ファクタリング会社が利用者に対し売掛債権買取代金を支払う
4.売掛金の支払期日に売掛先がファクタリング会社に代金を支払う
ファクタリング会社によっては、買取代金の支払いの際に、先に売掛債権の一部を支払って売掛金入金後に残りが支払われるという場合もあるようです。
一括ファクタリングのメリット・デメリット
一括ファクタリングの仕組みができたのは、売掛先の手形発行による負担を軽減するためといえます。
しかし売掛先にはメリットがあっても、利用者にとっては何のメリットもないと感じるかもしれませんが、決してそうではありません。
「納入企業」である利用者と、「支払企業」である売掛先それぞれのメリットとデメリットを知っておくと、より利用しやすくなるでしょう。
そこで、
1.納入企業側のメリット
2.支払企業側のデメリット
の2つをそれぞれ説明していきます。
納入企業側のメリット
納入企業である利用者にとって、一括ファクタリングを利用することは次の3つのメリットがあると考えられます。
1.信用力が向上する
2.現金化による資金調達が可能
3.手形管理の負担を軽減できる
それぞれ説明していきます。
信用力が向上する
一括ファクタリングは支払企業だけでなく、納入企業にもメリットがあるといえますが、その1つが信用力の向上です。
まず、一括ファクタリングを利用するためには、ファクタリング会社である大手金融機関の審査を通り、特に問題がないと認められることが必要となります。
そのため銀行から融資を受けるときや、信用取引のタイミングにおいて、信用力の高い会社であることをアピールすることができるでしょう。
現金化による資金調達が可能
納入企業側にとって一括ファクタリングがメリットになる理由として、売掛債権の現金化による資金調達が可能となり、資金繰りを安定させることができることが挙げられます。
たとえ利益が出ていて黒字だとしても、必要なときにお金がなければ「黒字倒産」する可能性も否定できません。
商品やサービスを販売・納入してから、その代金を受け取るまでの期間は、できるだけ短いほうが資金繰りは安定します。
仮に手形で決済されてしまうと、支払期日は120日以内で設定されます。
国も60日内に短縮することを強く求めていますが、長期で設定された手形では現金を受け取るまで時間がかかってしまいます。
手形が現金化されるまでに資金繰りが悪化してしまうことも少なくないといえますが、一括ファクタリングを活用することで代金の支払いを待たずに手元の資金を増やせます。
手形管理の負担を軽減できる
納入企業側の一括ファクタリングのメリットとして、手形管理の負担を軽減できることが挙げられます。
手形で支払いを受けた場合、決済までは手形を適切に管理することが必要となり、紛失など防ぐことが必要です。
さらに手形の現金化において、金融機関まで出向き手形の支払いを呈示することも必要ですが、呈示期間は支払期日を含め3営業日以内という決まりもあります。
手形を持ち込めばすぐ現金化されるわけではなく、金融機関が支払企業の当座預金口座に引き落とせる資金があるか確認する手続も必要です。
しかし一括ファクタリングを活用することにより、これらの流れが不要となるため、納入企業は手形管理や処理に手間や時間をかけず他の業務に集中することができます。
納入企業側のデメリット
納入企業にとっても一括ファクタリングはメリットのあるサービスですが、単独で導入を決めることはできません。
一括ファクタリングを利用したくても、支払企業の決断にゆだねられることは納入企業側のデメリットといえるでしょう。
資金繰りを悪化させたくない納入企業側にとっては、手数料は発生しても一括ファクタリングを活用したいと考えることもあるはずです。
しかし一括ファクタリングは、まずは支払企業と金融機関が契約していなければ利用できないため、支払企業が望まなければ実現させることは不可能といえます。
たとえメリットがある方法と認識していても、独断で利用することを決めることができないのはデメリットです。
支払企業側のメリット
一括ファクタリングを利用することの支払企業側のメリットは、主に次の2つです。
1.手形発行が不要
2.印紙削減が可能
それぞれ説明していきます。
手形発行が不要
一括ファクタリングを利用する支払企業側のメリットとして、まず手形を発行する必要がなくなることが挙げられます。
手形を発行するためには、手形振出人となる企業と銀行が「当座勘定取引契約」を結ぶことが必要であり、当座勘定口座を開設することが必要です。
その後、手形帳を交付してもらって初めて手形の振り出しが可能となりますが、当座預金の開設には金融機関所定の審査を受けることが必要となります。
当座預金開設時の審査では、
▶ 過去の取引状況
▶ 過去の決算書
▶ 当座預金の必要性の有無
▶ 面接による資料
などで総合的に金融機関の支店長が決裁していきます。
開設できれば銀行が振出銀行である小切手や手形を発行できるようになるため、銀行側から一定水準の「信用」を与えられたと認められるでしょう。
しかし金融機関の当座預金口座開設の審査は、上記の審査項目からもわかるとおり、社会的な信用力が高くなければ審査には通りません。
仮に当座預金を開設し、手形を振り出しても規定に則った記載がされていない場合は無効となるため、管理番号・支払地・名前など定めれた様式で記載するなど手間がかかります。
一括ファクタリングを活用することで、これらの面倒な手間を省くことが可能です。
印紙削減が可能
手形を使って決済する場合、管理や作業に手間がかかるだけでなく、印紙が必要なのでコストが増えます。
しかし一括ファクタリングなら、印紙代がかからないため必要コストを抑えることができるでしょう。
手形の印紙代も一回あたりで考えれば、それほど大きな負担ではないかもしれません。
しかし年間で考えれば負担は大きくなるため、印紙代を削減できることはメリットといえるでしょう。
支払企業側のデメリット
一括ファクタリングの支払期日は手形よりも短く設定されるため、支払企業ができるだけ支払いを先延ばしにしたいと考える場合は向きません。
「下請代金支払遅延等防止法」による手形の支払期限は最長120日ですが、一括ファクタリングの支払期限は60日なので約半分に短縮されます。
2020年11月、経済産業省は約束手形の支払期限を60日へ短縮する方針を固め、強く要請されていることも踏まえておく必要があるといえるでしょう。
一括ファクタリングとでんさいの違い
一括ファクタリングは、手形を使うことによる管理や事務的負担、コストなどを軽減させるための手法として取り入れられた仕組みでありサービスです。
本来ならもっと多くの企業に活用されたほうがよいのでは?と思う方もいるでしょうが、実際に大手の金融機関が導入を進めているのは「電子記録債権(でんさい)」です。
「でんさい」とは「でんさいネット」と呼ばれる「株式会社全銀電子債権ネットワーク」が取り扱っている「電子記録債権」のことで、一括ファクタリングと同じく従来までの「手形」や「振込」に代わる新たな決済サービスを意味します。
電子債権記録機関の「記録原簿」へデータを電子記録させ、債権の存在・帰属を「可視化」させる仕組みです。
紙媒体の手形を使った「手形割引」でも現金化はできますが、支払期日到来前に約束手形を銀行や手形割引事業者で換金します。
アナログで行っていた決済を電子化させるため、オンラインを使ったのが「でんさい」の特徴といえるでしょう。
金融機関に電子データを送信することにより、手形割引同様に債権を譲渡できます。
「でんさい」を利用するときには支払企業が「でんさいネット」に売掛金の発生記録を請求しますが、それにより「でんさい」から納入企業へ通知されます。
支払期日には支払企業の口座から納入企業の口座へと自動で代金が振り込まれる仕組みです。
確かに「でんさい」と「一括ファクタリング」は似ているように感じるでしょうが、でんさいには次の つの特徴があります。
▶ でんさいネットへの加入が必要であること
▶ 支払企業が倒産したときは弁済義務を負うこと
「でんさい」の活用は、利用者・金融機関・でんさいネットの間で利用契約を結ぶことが必要です。
そして「でんさいネット」を利用するときには手数料が必要になる場合もあり、余計なコストを増やさないためにも事前の確認が必要といえるでしょう。
また、債権を譲渡後、支払企業が倒産して代金が回収できなくなったときには、利用者が弁済義務を負うこととなるため、納入企業が支払企業に変わって支払わなければなりません。
一括ファクタリングは売掛債権を譲渡後の責任は問われないため、債権を譲渡すると同時に未回収リスクも手放すことが可能という点が大きな違いです。
どちらを利用するべきか、様々な項目を踏まえた上で検討することが必要といえます。
まとめ
「一括ファクタリング」は、従来まで「手形」を使って行われていた支払いをせず、「売掛債権」を使って決済を合理化するための仕組みです。
金融機関に売掛債権を一括で買い取ってもらうことにより、納入企業へ代金が振り込まれるサービスであり、手形による支払いの代用として利用されることが多い方法といえます。
売掛先・利用者・金融機関の3社が一括でやり取りするため、一般的な「3社間ファクタリング」の仕組みと同じですが、目的や用途は異なります。
そのため納入企業側だけが売掛債権を現金化させたいと考えていても、支払企業と金融機関が契約を結んでいなければ利用できないことがデメリットです。
もしも売掛先である支払企業の承諾を得ることができないときや、一括ファクタリングの手続を待つよりも先に現金が欲しいという場合は、一般的な「買取型」のファクタリングを利用したほうがよいでしょう。