手形割引の仕訳をわかりやすく解説|会計処理の流れと注意点
2025年10月4日
企業の資金繰りを支える手段の一つに「手形割引」があります。
売上代金として受け取った約束手形を、期日よりも前に銀行に持ち込み、現金化する方法です。
資金を早期に確保できる反面、会計上の処理には注意点も多く、誤った仕訳をすると財務諸表に影響を及ぼすおそれがあります。
本記事では、手形割引の仕訳方法、会計上の考え方、実務での注意点までを、初心者にもわかりやすく解説します。
■ そもそも「手形割引」とは何か
手形割引とは、企業が取引先から受け取った約束手形を、期日前に銀行などの金融機関に持ち込み、一定の手数料(割引料)を差し引かれた金額で現金化することを指します。
たとえば、100万円の約束手形を受け取ったが、期日が2か月後で、今すぐ資金が必要な場合。
その手形を銀行に持ち込むと、銀行は利息相当分(割引料)を差し引いて残りの金額を支払ってくれます。
この仕組みを「手形割引」と呼びます。
つまり、手形割引とは「将来受け取るはずの代金を前倒しで受け取る行為」であり、実質的には短期融資の一種です。
■ 手形割引の会計上の位置づけ
手形割引は、受取手形を銀行に売却して現金を得る行為に見えますが、法律上は売却ではなく「手形担保による借入」として扱われます。
なぜなら、手形が不渡りになった場合、最終的な支払責任(償還義務)は手形の裏書人である企業に残るためです。
つまり、銀行が手形を割り引いても、手形が支払期日に決済されないと、企業が代わりに支払わなければなりません。
このため、会計上は「借入金の発生」として仕訳するのが正しい処理となります。
■ 手形割引の基本仕訳
手形割引を行った際の基本的な仕訳は、次のように考えます。
手形割引の仕訳は、次の3つの勘定科目が登場します。
・現金(または当座預金)
・割引料(手数料)
・手形割引(または短期借入金)
具体的な仕訳の流れを、以下のステップで説明します。
■ ① 受取手形を保有している状態の仕訳
まず、取引先に商品を販売し、代金として約束手形を受け取ったときの仕訳です。
(借方)受取手形 100万円 / (貸方)売上 100万円
この時点では、期日まで手形を保管し、期日に入金される予定です。
■ ② 手形割引を行ったときの仕訳
次に、この受取手形を銀行に持ち込み、期日前に現金化した場合の仕訳です。
例:
100万円の手形を銀行で割り引き、割引料として2,000円が差し引かれた場合。
実際に入金される金額は 998,000円 です。
この場合の仕訳は以下のとおりです。
(借方)当座預金 998,000円
(借方)割引料 2,000円
(貸方)手形割引 1,000,000円
ここでの「手形割引」という科目は、実質的には短期借入金を意味します。
つまり、銀行から手形を担保にお金を借りたという形で処理します。
なお、会計基準では「手形割引」ではなく「短期借入金」として処理する方法も一般的です。
中小企業会計では、どちらでも構いませんが、継続的に同じ処理方法を用いることが大切です。
■ ③ 手形の期日に取引先が決済した場合の仕訳
期日に取引先がきちんと支払いを行い、銀行が代金を受け取った場合には、企業の償還義務が消滅します。
つまり、「借入金(または手形割引)」を取り消す仕訳を行います。
(借方)手形割引 1,000,000円 / (貸方)受取手形 1,000,000円
これで、銀行への債務(手形割引の負債)と、資産(受取手形)が消えることになります。
このタイミングでは、実際の入金はすでに割引時に行われているため、新たな現金の動きは発生しません。
■ ④ 万が一、手形が不渡りになった場合
もし取引先が手形を決済できず、不渡りになった場合、企業は銀行に対して支払義務を負うことになります。
つまり、銀行に返済しなければなりません。
たとえば、100万円の手形が不渡りになった場合の仕訳は以下のようになります。
(借方)不渡手形 1,000,000円 / (貸方)当座預金 1,000,000円
このとき、「手形割引」の科目も同時に消滅させます。
不渡手形は損失として処理され、場合によっては貸倒損失として扱われます。
■ 割引料の会計処理について
手形割引にかかる「割引料」は、銀行に支払う手数料や利息のようなものであり、営業外費用に分類されます。
したがって、損益計算書上では「支払利息」や「手形割引料」として処理します。
決算時に、割引料を「支払利息」にまとめる場合もあります。
会計方針としてどちらを採用するかは企業の判断ですが、税務上の影響はほとんどありません。
■ 手形割引の実質的な意味 ― 短期資金調達としての側面
会計処理上は「借入」として扱われる手形割引ですが、実務的には短期的な資金調達手段として利用されます。
特に中小企業では、入金までのタイムラグを埋めるための資金繰りとして用いられます。
しかし注意すべきは、手形割引は「確実な資金」ではない点です。
期日前に資金を受け取れるとはいえ、取引先が不渡りを出せば、その負担は自社に返ってきます。
そのため、売掛先の信用状況を常に把握しておくことが欠かせません。
また、銀行側も取引先の信用度を見極めて割引を行うため、信用不安のある企業の手形は割引を断られることがあります。
■ 「手形割引」と「手形の裏書譲渡」の違い
手形を第三者に譲渡する方法には、「裏書譲渡」と呼ばれる方法もあります。
両者は似ていますが、会計上も法的にも性質が異なります。
手形割引:銀行など金融機関に手形を持ち込み、手数料を差し引いて現金化する。実質的には借入。
裏書譲渡:取引先や仕入先に対して支払い手段として手形を渡す。現金は伴わず、債務の支払いに使われる。
裏書譲渡の場合は現金が入らないため、仕訳は以下のようになります。
(借方)買掛金 100万円 / (貸方)受取手形 100万円
一方、手形割引は現金(または当座預金)が入る点で大きく異なります。
この違いを理解しておかないと、貸借対照表の構造が崩れることがあるため注意が必要です。
■ 決算書上の表示方法と注意点
手形割引を行った場合、貸借対照表上では次のように扱います。
「受取手形」はそのまま資産として残る
「手形割引」または「短期借入金」を負債として計上する
つまり、受取手形を保有しつつ、その裏に「銀行への返済義務」が残っている状態です。
これを「裏書譲渡未決済の手形」と同様に、注記で明示することが求められます。
中小企業会計指針では、手形割引を行った手形について、「割引手形の残高」や「償還義務の有無」を注記することが望ましいとされています。
これにより、財務諸表の利用者が実質的な負債リスクを正しく把握できるようになります。
■ 税務上の取り扱い
税務上、手形割引によって得られる現金は借入金として扱われるため、収益にはなりません。
一方で、割引料は支払利息と同様に「損金」として認められます。
したがって、会計上・税務上ともに一致して処理できます。
ただし、不渡りとなった場合の損失処理については注意が必要です。
取引先が倒産などで支払不能となった場合には「貸倒損失」として損金算入できますが、そうでない場合は一時的な債権とみなされ、損金算入できないこともあります。
■ 実務での注意点まとめ
1.割引手形は「借入金」として認識する
売却ではなく、あくまで一時的な借入金です。
2.割引料は支払利息として処理する
手数料ではなく、利息と同様の性質を持ちます。
3.不渡りリスクを常に意識する
手形が決済されなければ、自社が返済義務を負います。
4.財務諸表上で明示する
手形割引の残高やリスクは注記として明確に示すことが望ましいです。
5.信用取引の見直しを行う
取引先の資金状況や支払実績を定期的に確認し、必要に応じて割引利用を減らすなどの対策をとりましょう。
■ まとめ:手形割引の仕訳は「借入金」として扱うのが基本
手形割引は、企業にとって便利な資金繰り手段でありながら、会計上は「売却」ではなく「借入」として扱われます。
そのため、正しい仕訳を行うことが重要です。
割引時には「当座預金」「割引料」「手形割引(または短期借入金)」を用いて記帳し、期日に取引先が決済した段階で償還義務を消滅させます。
また、決算書上では、割引手形の残高やリスクを注記して透明性を保つことが求められます。
手形割引は、一時的な資金繰りには有効ですが、過度に依存すると借入依存体質を強めることにもつながります。
あくまで短期的な資金対策として利用し、長期的には売掛金回収の早期化やキャッシュフロー管理の強化を目指すことが、健全な経営への第一歩です。
