売掛債権の時効とは?請求できなくなる前に知っておくべき基礎知識と対策
2025年10月12日
企業間取引では、商品を納品したりサービスを提供した後に、代金を後日受け取る「掛取引(売掛金取引)」が一般的です。
しかし、取引先が支払いをしないまま時間が経過してしまうと、法律上「時効」により請求する権利が消滅してしまうことがあります。
この記事では、売掛債権の時効期間や起算点、時効を止めるための方法など、実務で知っておくべき重要なポイントをわかりやすく解説します。
1. 売掛債権とは何か?
まず、「売掛債権」という言葉の意味を整理しておきましょう。
売掛債権とは、企業が取引先に対して持つ「代金を支払ってもらう権利」のことです。
たとえば、製品を納品した後に代金を請求するケースでは、「売掛金」が発生します。
つまり、売掛債権=売掛金などの未回収代金に対する請求権ということです。
この売掛債権は企業の資産として計上されますが、もし一定期間が過ぎると法律上その権利を失う(時効消滅)可能性があります。
それが「売掛債権の時効」です。
2. 売掛債権に時効がある理由
時効制度は、権利関係をいつまでも不安定なままにしないために設けられています。
長期間放置された債権については、「権利を行使する意思がない」とみなされ、一定期間経過後に法的に消滅する仕組みです。
これにより、古い取引をめぐって永遠に紛争が続くことを防ぎ、社会的な取引の安定を図るという目的があります。
3. 売掛債権の時効期間
民法改正(2020年4月施行)により、債権の時効に関するルールが大きく変わりました。
それまで「商事債権は5年、民事債権は10年」などとされていましたが、現在はよりシンプルなルールになっています。
現在の法律では、売掛債権の時効期間は以下の通りです。
(1)原則:5年
企業間取引による売掛債権は「商取引に基づく債権」として扱われ、原則5年間で時効となります。
これは「権利を行使できる時から5年間」経過すると時効が成立するという意味です。
(2)特例:消費者との取引は10年
もし売掛債権の相手方が企業ではなく個人(消費者)である場合、原則として「10年間」が時効期間になります。
ただし、職業別に短期消滅時効が定められていた旧民法のような特例は、改正後は廃止されています。
4. 時効の起算点(いつからカウントされるか)
売掛債権の時効は、「権利を行使できる時」からカウントが始まります。
具体的には、支払い期日(支払期限)を迎えた翌日から時効期間がスタートします。
たとえば、2020年5月31日が支払い期日であれば、翌日の2020年6月1日からカウントが始まり、2025年5月31日までに請求・回収などの行為をしないと、原則として時効が成立します。
5. 時効が成立するとどうなるか
時効が成立すると、債権者(あなた)は法的に代金を請求できなくなります。
ただし、厳密には「請求できなくなる」というより、相手が“時効を主張した場合”に限り権利が消滅します。
これを「時効の援用」といいます。
つまり、取引先が何も主張しなければ請求自体は可能ですが、法的強制力(裁判などでの回収)はなくなってしまいます。
時効完成後に相手が「もう時効ですよ」と主張すれば、それ以上の回収はできません。
6. 時効を止める方法(時効の更新・完成猶予)
「もうすぐ5年経つけど、まだ支払ってもらえていない…」という場合には、時効を止める手段があります。
改正民法では「時効の更新」と「時効の完成猶予」という2つの考え方が導入されています。
(1)時効の更新
時効の進行を一度リセットし、新たにゼロからカウントを始めることです。
更新の方法には次のようなものがあります。
・裁判上の請求(訴訟・支払督促などを行う)
・強制執行や仮差押えなどの申立て
・債務者による債務の承認(支払いや一部入金、謝罪など)
これらが行われると、時効期間はリセットされ、再び5年のカウントが始まります。
(2)時効の完成猶予
一定期間、時効の進行を一時的に止める仕組みです。
たとえば、以下のような場合が該当します。
・内容証明郵便で請求した場合(6か月間の猶予)
・和解交渉中で当事者が協議している場合
・災害などで訴訟ができない状況にある場合
これらを活用すれば、すぐに裁判を起こさなくても、時効成立を防ぐことが可能です。
7. 実務での具体的な対応策
実際に売掛金が長期間未回収になっている場合、次のようなステップで対応すると良いでしょう。
(1)まずは内容証明郵便で請求する
「支払いを求める意思」を明確に残すため、内容証明郵便で正式に請求書を送ります。
これにより6か月間の時効完成猶予が得られます。
(2)相手の支払意思を確認する
電話やメールで交渉し、支払日や分割払いの約束を取り付けることも有効です。
もし相手が「今月末には支払います」などと発言すれば、それが「債務の承認」とみなされ、時効が更新されます。
(3)支払いがない場合は裁判手続きへ
猶予期間中に支払いがなければ、支払督促や訴訟などの法的手段を取ることで、時効を正式に更新できます。
小規模の金額であれば、簡易裁判所での手続きでも対応可能です。
(4)帳簿管理を徹底する
請求日・支払期日・請求金額などを正確に記録しておくことで、時効の起算点を明確に把握できます。
特に、取引件数が多い企業では会計ソフトなどを活用し、時効期限を自動管理する仕組みを整えておくことが大切です。
8. 時効が完成してしまった後の対応
もしも時効が完成してしまった場合でも、相手が支払う意思を示すケースがあります。
このときは、「自然債務」として任意に支払うことは可能です。
ただし、法的に請求はできないため、相手が自主的に支払う以外の方法はありません。
そのため、時効が成立する前に確実に対策を取ることが非常に重要です。
9. 売掛債権管理でよくある落とし穴
売掛債権の時効管理で、企業が陥りやすいミスもあります。
・請求書を出しただけで安心して放置してしまう
→ 時効は止まりません。実際に請求行為(交渉や督促)が必要です。
・入金予定日を勘違いしている
→ 起算点のズレで時効成立が早まることも。
・債務者が倒産した場合の扱いを誤る
→ 破産手続中でも、債権届出を行わないと請求権を失う場合があります。
・時効をリセットしたつもりで証拠を残していない
→ 口頭のやりとりだけでは「債務承認」と認められないことがあります。
こうしたミスを防ぐためにも、日常的な売掛管理と法的知識の両方を持つことが大切です。
10. 売掛債権の時効対策まとめ
最後に、売掛債権の時効に関するポイントを整理します。
・売掛債権の時効期間は 原則5年(個人相手は10年)
・起算点は 支払い期日の翌日 から
・内容証明・裁判・債務承認 などで時効を止められる
・放置して時効が完成すると、法的請求ができなくなる
・時効管理は、日々の帳簿記録・請求履歴の保存がカギ
売掛債権は、企業の資金繰りやキャッシュフローに直結する重要な資産です。
たとえ少額でも、放置すれば法的に回収できなくなるリスクがあります。
請求期限をしっかり把握し、時効を迎える前に適切な対応を行うことが、安定した経営を支える第一歩です。
