債権保全の基礎知識|債権者が知っておくべきリスク管理と対策

2025年9月11日

企業経営や個人取引において「債権保全」という言葉は非常に重要です。取引先に商品やサービスを提供したにもかかわらず、代金が支払われない事態に陥れば、資金繰りが悪化し、経営そのものが揺らぐ可能性があります。こうしたリスクを最小限に抑えるために必要なのが「債権保全」です。本記事では、債権保全の基礎知識をわかりやすく解説し、具体的な方法や注意点を整理していきます。

1. 債権保全とは何か?

1-1. 債権保全の定義

「債権保全」とは、債権者が有する売掛金や貸付金などの債権を、債務者の支払い不能や倒産といったリスクから守り、確実に回収できるようにするための措置や仕組みを指します。
債権が「紙切れ」になるのを防ぐため、契約段階から担保や保証を設定したり、債務者の経営状況を定期的にチェックしたりする行為全般を含みます。

1-2. なぜ債権保全が必要か

債権回収は、発生してからでは遅いケースが多いのが実情です。特に中小企業にとって、1社の不払いが命取りになる場合も少なくありません。債権保全を適切に行うことで、

・資金繰りの安定化

・経営リスクの低減

・取引先とのトラブル予防
といった効果を期待できます。

2. 債権保全の主な方法

債権保全にはさまざまな手段があります。ここでは代表的な方法を紹介します。

2-1. 契約書による保全

最も基本的な方法は、契約書を明確に作成することです。取引条件や支払期日、遅延損害金、保証の有無などを文書化しておくことで、後の紛争時に証拠となり、債権回収を有利に進められます。

2-2. 担保の設定

債務者が支払い不能に陥った際の保険として、担保を設定する方法があります。

・不動産担保:土地や建物を担保に取る

・動産担保:在庫や機械設備を担保に取る

・債権譲渡担保:売掛金など将来の収入を担保にする
担保を設定しておくことで、万一の際に換価処分し、債権回収に充てることができます。

2-3. 保証人・保証会社

第三者に保証を依頼する方法も有効です。特に中小企業間取引では、代表者個人が連帯保証人になるケースも多く見られます。近年では保証会社を利用するケースも増えています。

2-4. 保険の活用

売掛債権を対象にした「取引信用保険」や「売掛保証サービス」を活用すれば、取引先の倒産時に保険金や保証金が支払われるため、債権保全の一助となります。

2-5. 公正証書の作成

金銭消費貸借契約などでは、公証役場で「執行認諾文言付公正証書」を作成しておくことで、万一不払いが発生した際、裁判を経ずに強制執行を行うことが可能です。

3. 債権保全に関わる法律知識

債権保全には、民法や商法、会社法などの法律が深く関わっています。ここでは最低限押さえておくべきポイントを整理します。

3-1. 民法における債権保全

民法には、債権者が自らの権利を守るための制度が規定されています。代表的なものに以下があります。

・詐害行為取消権(民法424条)
債務者が財産を不当に処分し、債権者が回収不能に陥る場合に、その行為を取り消せる権利。

・代位権(民法423条)
債務者が行使すべき権利を怠っているときに、債権者が代わりに行使できる権利。

3-2. 担保物権

債権保全で頻繁に利用されるのが担保物権です。抵当権、質権、先取特権などが代表例で、債権を優先的に回収する仕組みを法律上確保できます。

3-3. 破産・民事再生との関係

取引先が破産や民事再生を申し立てた場合、債権者は破産管財人や再生計画に従って回収を行うことになります。担保を持つか否かで回収率が大きく変わるため、事前の債権保全の有無が結果を左右します。

4. 実務における債権保全の流れ

実際の企業取引における債権保全は、以下のステップで考えると分かりやすいです。

・与信調査:取引開始前に相手の財務状況を調べる

・契約段階の工夫:支払条件・担保・保証を設定する

・債権管理:請求書の発行・入金確認・期日管理を徹底

・異変への対応:入金遅延や経営不振を察知したら追加保証を求める

・不払い時の回収措置:内容証明郵便、訴訟、公正証書による強制執行など

5. 債権保全の実務上の注意点

・取引先の信用調査を怠らない
帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社を活用すると安心です。

・契約時に交渉を恐れない
「担保や保証を求めると取引が壊れるのでは」と考えがちですが、リスク管理は双方の利益に資するものです。

・小口取引こそ要注意
金額が少ないからといって軽視すると、累積して大きな不良債権となる恐れがあります。

・法律や制度改正を常にチェックする
2020年の民法改正により保証契約や消滅時効に関するルールが大きく変わっています。常に最新情報を押さえておくことが重要です。

6. まとめ:債権保全は「予防」が最重要

債権保全は、債権発生後に慌てて対応しても効果が薄いケースがほとんどです。契約段階から「最悪の事態を想定した仕組み」を組み込むことが、最大の防御策といえます。

契約内容を明確にし、必要に応じて担保や保証を設定する

・取引先の信用調査を定期的に行う

・保険や保証サービスなど外部リソースも活用する

・法律知識を理解し、いざという時の回収手段を把握しておく

こうした基本的なポイントを押さえておけば、債権回収不能のリスクを大幅に軽減できます。企業経営者や個人事業主にとって、「債権保全」は単なる法的知識ではなく、事業を守るための必須スキルなのです。