建設業は、他の業種と比べて工期が長期化しやすく、請負契約に基づく代金の支払いも工事完了後や検収後など、一定のタイムラグを伴うことが一般的です。そのため、売上が確定していても、実際に現金が手元に入るまでに数ヶ月以上かかるケースも珍しくありません。こうした支払いサイトの長さは、企業の資金繰りに大きな影響を与え、特に中小規模の建設会社にとっては深刻な課題となることがあります。

さらに、建設業では工事の着工前からさまざまな費用が発生します。たとえば、資材の仕入れ費用、外注業者への支払い、現場スタッフの人件費、重機のレンタル費用、現場管理にかかる交通費や宿泊費など、先行して支払わなければならないコストが非常に多岐にわたります。これらの支出は、工事が完了して代金が入金されるまでの間、企業のキャッシュフローを圧迫し続ける要因となります。

特に、複数の現場を同時に抱えている場合や、公共工事などで入金までの期間が長い案件を扱っている場合は、資金繰りの調整が非常に難しくなります。資金が不足すれば、仕入れが滞ったり、外注先への支払いが遅れたりして、工事の進行そのものに影響を及ぼす可能性もあります。こうした状況を避けるためには、安定した資金調達の仕組みを確保しておくことが不可欠です。

そこで注目されているのが「ファクタリング」という資金調達手段です。ファクタリングは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に譲渡し、手数料を差し引いた金額を即座に受け取ることで、資金化する仕組みです。建設業においては、工事完了後の請負代金や出来高に基づく請求書などが売掛債権として扱われ、これを活用することで、入金を待たずに資金を確保することが可能になります。

この方法を活用すれば、工事の進行に必要な資材や人件費をタイムリーに支払うことができ、現場の停滞を防ぐことができます。また、借入とは異なり、信用情報に影響を与えずに資金調達ができるため、財務状況に不安がある企業でも利用しやすいというメリットがあります。

ファクタリングの仕組みと建設業での活用

ファクタリングとは、企業が保有している売掛債権をファクタリング会社に譲渡することで、債権の支払い期日を待たずに現金化する資金調達の方法です。具体的には、企業が取引先に対して発行した請求書や契約に基づく債権を、ファクタリング会社が一定の手数料を差し引いたうえで買い取り、即座に資金を提供するという仕組みです。これにより、企業は売上が確定しているにもかかわらず、入金まで時間がかかるという状況を回避し、迅速に資金を確保することができます。

建設業においては、特にこのファクタリングの仕組みが有効に機能します。なぜなら、建設業では工事の完了後に請負代金が支払われるケースが多く、支払いまでの期間が長期化する傾向があるからです。公共工事や大規模な民間工事では、検収や契約条件に基づいて支払いが行われるため、実際の入金までに数ヶ月以上かかることも珍しくありません。

また、建設業では「出来高請求書」と呼ばれる、工事の進捗に応じて部分的に請求を行う形式も一般的です。これらの請求書も売掛債権として扱われ、ファクタリングの対象となるため、工事が完了していなくても、進捗に応じた資金化が可能になります。これにより、企業は工事の途中段階でも資金を確保することができ、資材の仕入れや外注費の支払い、人件費の確保など、現場の運営に必要な資金をタイムリーに調達することができます。

さらに、ファクタリングは借入ではなく債権の売却であるため、企業の信用情報に影響を与えることなく資金調達ができる点も大きなメリットです。銀行融資のように厳しい審査がなく、売掛先の信用力が重視されるため、赤字決算や債務超過の企業でも利用できる可能性があります。

このように、ファクタリングは建設業における資金繰りの課題を解決するための、非常に有効かつ柔軟な手段として注目されています。

建設業にファクタリングが適している理由

建設業においてファクタリングが有効とされる理由は、業界特有の資金繰りの課題に対して、柔軟かつ迅速に対応できる点にあります。以下に、ファクタリングが建設業に適している主な理由を詳しく解説します。

支払いサイトの長期化

建設業では、工事の完了後に請負代金が支払われるケースが一般的であり、支払いまでの期間は平均して60日から120日程度とされています。特に公共工事や大規模な民間工事では、検収や契約条件に基づく手続きが複雑で、入金までにさらに時間がかかることもあります。このような長期の支払いサイトは、企業のキャッシュフローに大きな負担を与えます。ファクタリングを活用すれば、請求書や出来高に基づく債権を早期に現金化することができ、資金の流れをスムーズに保つことが可能になります。

材料費・外注費の先払い

建設業では、工事の着工前からさまざまな費用が発生します。たとえば、資材の仕入れ費用、外注業者への支払い、現場スタッフの人件費、重機のレンタル費用など、工事を進めるためには先行して多額の支出が必要です。これらの費用は、工事が完了して代金が入金されるまでの間に支払わなければならないため、資金繰りが非常に厳しくなります。ファクタリングを利用することで、工事の進行に必要な資金を前倒しで確保でき、現場の停滞を防ぐことができます。

信用情報に影響しない

ファクタリングは、銀行融資などの借入とは異なり、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に譲渡することで資金を得る仕組みです。そのため、信用情報に記録されることがなく、財務指標を悪化させる心配もありません。特に、融資枠を使い切っている企業や、信用情報に不安がある企業にとっては、ファクタリングは非常に有効な資金調達手段となります。財務状況を悪化させずに資金を確保できるという点は、経営の安定性を保つうえでも大きなメリットです。

審査が柔軟

ファクタリングの審査では、企業自身の信用力よりも、売掛先の信用力が重視されます。つまり、取引先が信頼できる企業であれば、自社が赤字決算であってもファクタリングの利用が可能になるケースがあります。これは、建設業において特に重要なポイントです。なぜなら、工事の規模が大きくなるほど、資金繰りが厳しくなりがちであり、赤字決算や債務超過に陥る企業も少なくないからです。ファクタリングは、そうした企業でも資金調達の道を開く柔軟な仕組みとして、多くの建設会社に支持されています。

ファクタリングの種類と選び方

建設業向けのファクタリングには、企業の資金ニーズや取引先との関係性、スピード感などに応じて複数の種類が存在します。それぞれの方式には特徴とメリット・デメリットがあり、状況に応じて最適な選択をすることが重要です。以下に代表的なファクタリングの種類を詳しく紹介します。

2社間ファクタリング

2社間ファクタリングは、利用企業（建設会社）とファクタリング会社の2者間で契約を結ぶ方式です。最大の特徴は、売掛先である取引先にファクタリングの利用を通知する必要がない点です。これにより、取引先との信頼関係や商取引の流れを崩すことなく、資金調達が可能になります。特に、長年の付き合いがある取引先や、通知によって関係性が悪化するリスクを避けたい場合に適しています。

ただし、ファクタリング会社にとっては売掛先からの直接入金がないため、回収リスクが高くなります。そのため、手数料は3社間ファクタリングに比べて高めに設定される傾向があります。一般的には5％〜15％程度の手数料が発生することが多く、資金調達コストがやや重くなる点には注意が必要です。

3社間ファクタリング

3社間ファクタリングは、利用企業・ファクタリング会社・売掛先の3者間で契約を結ぶ方式です。この仕組みでは、売掛先に対してファクタリングの利用を通知し、売掛金の支払いをファクタリング会社に直接行ってもらう形になります。これにより、ファクタリング会社は回収リスクを抑えることができるため、手数料が低く設定される傾向があります。一般的には1％〜5％程度とされ、資金調達コストを抑えたい企業にとっては魅力的な選択肢です。

また、支払いの流れが明確になることで、契約の透明性が高まり、トラブルの防止にもつながります。ただし、売掛先に通知が必要となるため、ファクタリングの利用を知られることに抵抗がある場合や、取引先の理解が得られにくい場合には、導入が難しいケースもあります。

請求書買取型ファクタリング

請求書買取型ファクタリングは、請求書を発行した時点で、その請求書をファクタリング会社に買い取ってもらうことで資金化する方式です。従来のファクタリングが「債権譲渡」に基づく契約であるのに対し、請求書買取型は「請求書そのもの」を対象とするため、よりシンプルでスピーディな手続きが可能です。

特に最近では、電子インボイス制度との連携が進んでおり、請求書のデジタル化によって手続きの簡略化が図られています。これにより、書類のやり取りや契約処理の負担が軽減され、即日資金化も可能になるケースが増えています。建設業では、出来高請求や分割請求が多いため、こうした柔軟な資金化手段は非常に有効です。

利用時の注意点とコスト

ファクタリングは、売掛債権を活用して迅速に資金を調達できる便利な手段ですが、その一方で、利用にあたってはさまざまなコストが発生する点にも注意が必要です。特に建設業のように高額な債権を扱うケースでは、手数料や付随費用が経営に与える影響も大きくなるため、事前にしっかりとコスト構造を理解しておくことが重要です。

まず、ファクタリングの基本的なコストとして挙げられるのが「手数料」です。これはファクタリング会社が債権を買い取る際に差し引く金額で、一般的には債権額の5％〜15％程度が相場とされています。たとえば、500万円の売掛債権を2社間ファクタリングで資金化する場合、手数料が10％であれば、50万円が差し引かれ、実際に受け取れる金額は450万円となります。

さらに、2社間ファクタリングでは、契約内容によっては「登記費用」が発生することがあります。これは債権譲渡登記を行うことで、第三者に対して債権の譲渡を公示するための手続きであり、登記を行うことで法的な保護を得ることができます。登記費用は数万円程度が一般的ですが、債権の金額や契約内容によって変動する場合があります。

また、契約書の作成に伴って「印紙税」が必要になることもあります。これは契約金額に応じて定められており、たとえば500万円の契約であれば、印紙税は1,000円〜2,000円程度が目安となります。これらの費用をすべて合算すると、500万円の債権を資金化する際の総コストは約54万円程度になることもあり、資金調達の効率性を考えるうえで無視できない金額となります。

このように、ファクタリングはスピーディで柔軟な資金調達手段である一方、手数料や付随費用が発生するため、資金化のスピードとコストのバランスを慎重に見極めることが重要です。特に、短期的な資金ニーズに対応するために利用する場合は、手数料が高くても即日資金化できるメリットを優先するケースもありますが、長期的な資金計画を立てる際には、コストを抑えた方法を選ぶことが経営の安定につながります。