企業価値評価とは?スタートアップ資金調達の課題は
2024年1月11日
M&Aやスタートアップの資金調達などの時によく聞く『企業価値評価』、どういった意味なのでしょうか。企業価値評価=バリュエーション(valuation)です。
スタートアップの資金調達、M&Aや株価に連動する金融商品の評価でも使われます。企業価値は一概に決まるものではなく、事業の収益性や資産、また負債など対象企業の様々な要素によって決められていきます。
この記事ではバリュエーションについて解説します。
バリュエーションの価値の見方
そしてこのバリュエーションは、企業フェーズや活用される目的によって”価値の見方”が変わります。
例えば、
A:この先5年、10年、20年と事業継続を前提した価値か
B:企業を清算する(商売を終わる)前提の価値か
また、
・買収する側からみた価値か
・売却する側からの価値か
など、わかりやすくすると上記のように状況によって価値が変化しますので、バリュエーションと言っても一概にまとめられるものではない、ということにご注意下さい。
スタートアップにおいてのバリュエーションとは
前述のようにその計算の目的によってこのバリュエーションは変化します。
スタートアップにとって、事業を成長させる、イグジットさせる、資金調達するなどの手段を利用するときにこのバリュエーションは非常に重要になります。
目的が事業の継続的な成長なのであれば先ほどの、
A:この先5年、10年、20年と事業継続を前提した価値
を算出する必要があります。
逆にバイアウトして、事業を清算したい場合は、
B:企業を手放す前提の価値
となります。
バリュエーションを通じて、企業価値が算出され、価格としていくらになるのかが明確になるため、例えば資金調達をする際など、投資家やVCの重要な判断基準として用いられます。バリュエーションで資金調達することで、ダイリューションを防ぎながら資金調達が可能です。そのため、どういった手法でバリュエーションを算定するのか、その手法は妥当なのか検証していく必要があります。
バリュエーションの種類とは
バリュエーションと呼ばれるスタートアップの企業価値の評価手法は主に3種類があります。
各種類の算出方法を紹介しましょう。
コストアプローチ(ネットアセット)
会社の純資産を基準に企業価値を評価する方法であり、ネットアセットアプローチと同義語です。 会計上の純資産額に基づいて評価を行う簿価純資産方式と、時価に引き直して算定する時価純資産方式に分けられます。
現時点での資産や負債を基に算出されるため、現在の企業価値を客観的に捉えることができる反面、ブランドや技術力など会計上の帳簿に記載されない価値は対象外となる点は注意が必要です。
ベンチャーや中小企業のM&Aなどでの活用が多く、コストアプローチでの主な算出方法は、以下の3つです。
1. 簿価純資産法:会計帳簿に記入された資産や負債の評価額から算出します。会計上の純資産額から計算するため客観性に長ける一方で、時価と比較した際に乖離することもあります。
2. 時価純資産法:資産や負債項目を時価(=その時の市場価格)に変換して株式価値を算出します。時価資産の合計から営業債務を除き、有利子負債を差し引いたものが株式価格となります。
3. 修正簿価純資産法:資産と負債のうち、有価証券や土地・建物などで含み損益が大きく、かつ、時価が入手しやすい項目のみ時価修正する方法です。
マーケットアプローチ
比較対象となる企業や業界を基準として企業価値を算出する方法です。
上場企業の場合は現在の株価を軸に評価できるものの、スタートアップのような非上場企業の場合、評価対象企業の決算書等の数値に係数(一定の率)を乗じて価値を算出を行います。
乗じる係数により算出価値が変動するため、何を根拠に係数を乗じたかがポイントとなります。
主な算出方法は以下4つです。
1. マルチプル法(類似会社比較法):上場している類似企業の株価などを参考にして、売上や利益などのKPI(重要業績評価指標)に倍率をかけて、企業の相対的な価値を求める方法です。実際のマーケット価格を反映するため、比較的客観性が高いと考えられている方法です。スタートアップの資金調達では主にマルチプル法が使われることがほとんどです。
2. 市場株価法:株式市場での実際の株価を参照する方法です。上場企業のみが採用できる方法で、株価の前日終値、1ヶ月間の終値の平均値、3ヶ月間の終値の平均値、6カ月間の終値の平均値などを用いて算定します。
3. 類似取引比較法:類似のM&A取引において成立した売買価格に基づいて評価する方法です。 実際に取引された案件でのマルチプルを算出して、評価対象企業に適用しますが類似案件がない場合、こちらの方法を使うことは困難です。
4. 類似業種比較法:国税庁のデータベースを活用して、対象企業の評価を行う方法です。対象企業と似ている企業を公開会社から選び、複数の要素を比較して、批准割合から企業価値を算出します。
①インカムアプローチ
将来の収益やキャッシュフロー予想を指標として企業価値を評価する方法で、M&Aや事業投資における資産価値評価の一つとして活用されます。
金融機関によるリスク予測などでも使われ、スタートアップにおいてもこちらのアプローチを用いて投資判断をされることが一般的です。
インカムアプローチにおける主な算出方法は以下の3つです。
1. DCF法:主にM&Aで活用される方法で、将来のキャッシュフローを現在の価値に変換し、その数値をもとに企業価値を評価するものです。いわゆる「のれん」と呼ばれている将来的に期待できる価値評価を合理的に行える方法になります。
2. 収益還元法:主に不動産などの収益性予測で活用され、将来的に見込める収益を、現在の価値に変換して企業価値を評価する方法です。
3. 配当還元法:大手よりもスタートアップなどで用いられる方法で、将来の配当予測値をベースに企業価値を算出するものです。元本となる株式価値は、期待される配当額を資本コストから配当金の成長率を引いたもので割って算出します。配当額は要素によって変動するため、未上場会社や少数株主の企業が対象になることがほとんどです。
スタートアップにおけるバリュエーションの課題
スタートアップ企業やベンチャー企業からみるとバリュエーションは資金調達における一つの指標になるため、「できるだけ高いバリュエーション(ハイバリュエーション)」を目指したいところです。しかしこれまで述べたように、企業側と投資家側ではバリュエーションの計算方法が微妙に異なってくるため、双方の落とし所を探して行くことになります。スタートアップのほとんどはブランドや技術力、ノウハウと言った無形固定資産をバランスシート上に持っていません。
一方でAIやIoT(Internet of things)、ドローンなど将来的に価値が高くなるであろう可能性を秘めた企業が多く存在することも事実です。現在のバリュエーションでは、基本的に資産や負債を中心に価値決定がなされることもしばしばあり、今ある「将来的に価値が上がるであろう技術やノウハウ」や役員やエンジニアなどの人的価値がバリュエーションに換算されてないことで、十分な資金調達ができない企業も散見されるため、投資家やVCとそういった「見えざる価値」や「将来のポテンシャル(期待値)」を突き合わせていけることが、スタートアップ、ひいては日本の将来的な財産となる企業が生まれていくために重要と考えます。
投資家から見たときには、誰の評価に基づくバリュエーションで、その「(まだ)見えない価値」は事業に結びつくのか、根拠があるのか、などを見極められることが重要です。
また優先株という種類株を使って特定の投資家に有利となる条項が含まれることを前提に高いバリュエーションが許容されるケースもあります。IPOを目指しながらも低いバリュエーションでExitせざるを得なくなった場合に投資家において契約条項としてダウンサイドプロテクションが図られているかも重要な要素です。
高いバリュエーションが許容される背景には、そうした特殊な契約条項の有無によっても変化してきます。またバリュエーションを直近ラウンドでは決めないJ-KISS型新株予約権(コンバーティブルエクイティ)もキャップとディスカウントという概念を用いて投資家のダウンサイドプロテクションを図っているという点においては、発行体であるスタートアップと投資家双方にフェアな条項が盛り込まれており、昨今普及が進んでいると考えています。
まとめ
企業価値を算出する際、売り手と買い手で評価が合致しない状況が生まれることで、双方に機会損失が生まれ、とてもいいものを持っている会社が正当な評価を受けることが難しいという環境が変わっていくとスタートアップのイグジットが活性化すると感じます。
バリュエーションにはすでに多くの種類がありますが、スタートアップやベンチャーにとってM&Aシナジーや将来性を加味した価値算出の方法が生まれてくることを期待したいです。