インボイス制度における振込手数料はどう扱う?処理方法を解説します!

2023年10月7日

インボイス制度がスタートしたことで、仕入税額控除を行うのに「インボイス(適格請求書)」が必要となっています。金融機関へ振り込みをする際に発生する振込手数料も課税取引のひとつなので、少額であってもインボイス制度に則った対応をとらなければいけません。

振込手数料は買い手負担が原則!

企業間の取引において、振込手数料は原則として代金を支払う側が負担することとなっています。これは、民法484条、485条に「債務者(支払いを行わなければならない側、買い手側)は、債権者(支払いを受ける権利を持つ側、売り手側)の住所で支払いを行うのが原則である」と定められているからです。

「住所」を「銀行口座」と読み替えると、支払う側が支払われる側の銀行口座に代金を入金しなければならず、「そのための振込手数料は支払う側が負担する」ということになります。

なお、企業間が「振込手数料は売り手側が負担する」と取り決めを行っている場合は、売り手側が負担することもできます。ただし、あくまでも書面による合意がある場合のみ。買い手側が支払い時に無断で振込手数料を減額することはできません。状況によっては下請法違反とみなされる可能性もあるため、注意が必要です。

振込手数料の適格請求書は金融機関が交付するもの

振込手数料は、課税取引のひとつ。税額控除を受けるためには、適格請求書の交付を受ける必要があります。金融機関を介さない取引であれば、売り手が買い手に対して適格請求書を発行するだけで問題ありません。

しかし、銀行口座に振り込みをする場合、振込手数料を負担した企業と金融機関の間で新たな取引が発生します。これは、振込手数料が買い手負担でも、売り手負担でも同様です。具体的な事例をもとに考えてみましょう。

例えば、A社がB社に11万円の支払いを行い、振込手数料が440円だったとします。

振込手数料が買い手負担であれば、A社は金融機関に対して11万440円を支払い、そのうち11万円がB社、440円が金融機関のものとなります。B社はA社に対して11万円分の適格請求書を交付しますが、手数料を受け取ったわけではありませんから、振込手数料440円に関する適格請求書は交付しません。振込手数料を受け取る金融機関が、A社に対して交付します。

ただし、振り込みの際にATMを利用した場合は、適格請求書の交付義務が免除されます。これは、適格請求書の発行が免除される要件である「3万円未満の自動販売機および自動サービス機により行われる商品の販売等」にATMが該当するからです。振込手数料が3万円未満であれば、適格請求書が発行されていなくても、帳簿への必要事項の記載のみで税額控除を受けられます。ATMを利用した場合に必要となる、帳簿への記載事項は下記のとおりです。

ATMを利用した場合の帳簿の記載事項
・金融機関の名称
・取引年月日
・取引内容
・取引金額
・特例の対象となる旨
・金融機関の所在地(●●銀行××支店ATMなど)

なお、ネットバンキングや金融機関窓口で振込手続きをした場合は、適格請求書の交付を受けなければいけません。振込方法ごとに適格請求書が必要かどうかとそれぞれの注意点について、下記にまとめましたのでご確認ください。

・金融機関の窓口、ネットバンキングの場合
適格請求書:必要
*交付義務があるため適格請求書を保存しておかなければ仕入税額控除を受けることができない

・ATMを利用の場合
適格請求書:不要
*交付義務が免除されているため不要だが、利用したATMの場所など一定の記載要件を満たした帳簿の保存が必要

一方、振込手数料を売り手側が負担する場合は注意が必要です。たとえ、実質的に売り手側が振込手数料を負担していたとしても、金融機関に対して振込手数料を実際に支払うのは買い手です。

なお、上記のケースでB社が振込手数料を負担する場合、A社は支払額である11万円から440円を差し引いた10万9,560円を振り込みます。結果、A社は11万円を支払い、B社は10万9,560円を受け取り、金融機関がB社から440円を受け取ります。

振込手数料の負担はB社ですが、金融機関に対して440円を支払ったのはA社です。そのため、金融機関から交付される適格請求書はA社宛のもので、B社宛ではありません。

このようなケースでB社が振込手数料分の税額控除を受けるためにはどうすればいいのか、詳しくは後述します。

インボイス制度で売り手が振込手数料を負担する場合の対処法

インボイス制度で売り手が振込手数料を負担した場合、振込手数料にかかる消費税を仕入税額控除の対象にできない可能性があります。これは、振込手数料を受け取った金融機関が発行する適格請求書が、売り手側ではなく買い手側に対して交付されるものだからです。

振込手数料を受け取った銀行は、振込手数料を支払った相手に対して適格請求書を発行します。実際は手数料が売り手の負担だったとしても、窓口やインターネットバンキングで実際に振込手数料の支払いを行うのは買い手側ですから、適格請求書も買い手側に対して発行されます。

インボイス制度スタート後は、原則として適格請求書がないと仕入税額控除が認められません。そこで、売り手が負担した振込手数料の消費税を仕入税額控除の対象にするための対処法を3つご紹介します。自社と取引先にとって都合の良い方法を選択してください。

対処1:売り手が買い手に対して適格返還請求書(返還インボイス)を交付する

振込手数料を売り手が負担する場合、実務としては買い手が支払う金額から振込手数料を差し引く場合がほとんどでしょう。これは、「売り手が買い手に対する振込手数料分の値引きに応じた」と言い換えることもできます。

インボイス制度がスタートしてからも、このような値引きを含めた取引を行うことは可能です。値引きを行うためには、原則として「適格返還請求書」の交付が必要ですが、振込手数料のみの値引きであれば、基本的に発行が免除されます。

・適格返還請求書とは
適格返還請求書(返還インボイス)とは、売り手側が買い手側に対して取引の対価の一部を返還する際に交付しなければならない書類です。ただし、交付義務があるのは、売り手側が適格請求書(インボイス)発行事業者であり、買い手側が課税事業者である場合です。免税事業者は適格返還請求書の発行ができません。
適格返還請求書を発行しなければならないケースとしては、商品の値引き、返品による返金、販売奨励金の支払いなどが挙げられます。振込手数料を差し引く場合は、商品の値引きに該当するため、適格返還請求書の交付が必要です。

適格返還請求書の記載要件
・適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
・対価の返還などを行う年月日
・対価の返還などのもととなった取引を行った年月日
・対価の返還などの取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
・税率ごとに区分して合計した対価の返還などの金額(税抜または税込)
・対価の返還などの金額に係る消費税額等または適用税率

売り手が適格返還請求書を交付して、振込手数料を値引き扱いにすることで、売り手側は振込手数料の消費税処理を行う必要がなくなります。また、仕入税額控除の対象にならないという問題も起こりません。

例えば、11万円(本体価格10万円、消費税額1万円)をA社からB社に振り込みで支払い、振込手数料が440円(本体価格400円、消費税額40円)であったとします。

上記の場合、B社が振込手数料を負担するのであれば、A社からB社に支払う金額は10万9,560円です。本体価格10万円から実質400円の値引きをしたことになるため本体価格は9万9,600円となり、消費税額は9,960円に。結果として、もとの消費税額1万円から振込手数料にかかる消費税40円を差し引いた金額が、B社がA社から預かる消費税額となります。

なお、この方法をとった場合、B社は値引きをした分の売上がマイナスに。B社が簡易課税制度を導入していた場合は、売上に応じて納税する消費税額が決まることから、消費税の圧縮にもつながります。実務に即しているうえにメリットが大きい方法です。ただし、売上を多く計上したい場合はデメリットになります。

また、事業者の負担を減らすために、税込1万円未満の返還については、適格返還請求書の交付義務が免除されます。振込手数料が1万円以上になるとは考えにくいため、多くの場合、適格返還請求書の交付を省いて処理できるでしょう。帳簿に必要事項を記載する必要がある点には注意してください。

対処2:売り手が買い手から金融機関の適格請求書と立替金精算書を受け取り保存する

「売り手が負担する振込手数料を買い手が立て替える」という処理を行うのが、3つ目の方法です。買い手が一度振込手数料を立て替え、売り手に支払額が入金した時点で立替金を精算したとみなします。
「対処2」の方法と少し似ていますが、こちらは仕入れではなく、あくまでも立替としての処理をします。

振込手数料を立替金扱いで税額控除の対象にするためには、売り手側が下記2つの書類を受け取り、保存しなければいけません。

売り手側が受領・保存すべき書類
・金融機関が発行した適格請求書
・買い手が発行した立替金精算書

上記の両方を買い手側から受け取って保存することで、振込手数料を税額控除の対象にできます。ただし、買い手がATMから振り込みをした場合、金融機関から適格請求書は発行されません。これは、3万円未満の自動販売機や自動サービス機(ATMを含む)での取引について適格請求書の交付が免除されているからです。

ATMで振り込みを行った場合は、買い手が発行した立替金精算書を保存したうえで、帳簿に「◯◯銀行××支店ATM」といった取引の相手と、適格請求書の免除に該当する取引であることを記載してください。帳簿に必要事項を記載することで、税額控除が認められます。

この対処法も、売上額に影響を及ぼすことなく、振込手数料の消費税額を仕入税額控除できるやり方です。ただし、買い手側が行わなければならない処理が多くなる点には注意。売り手側の手続きで処理するのであれば、仕入明細書の交付のほうが適しています。

対処3:売り手が買い手に対して仕入明細書を交付する

買い手が適格請求書発行事業者であれば、売り手が買い手に対して仕入明細書を発行するという対処法がとれます。これは、振込手数料を「売り手から買い手に対して支払った手数料」として扱う方法です。

仕入明細書とは本来、買い手が売り手に対して支払いを行う際に発行する明細書のことを指します。「売り手が買い手に対して発行する」と前述していますが、これは、振込手数料以外の取引における売り手と買い手という意味です。この対処法では、本来の取引とは別に、売り手と買い手を逆にした「手数料の取引」が発生したものとして処理をします。

ただし、振込手数料を仕入明細書の発行で処理をする場合は、買い手も適格請求書発行事業者でなければいけません。また、仕入明細書の内容について、買い手に確認してもらうことが必要です。

この方法では、本来の取引にかかる金額と振込手数料を別々に処理するため、「対処1」のように売上額が減少するといったことはありません。本来の売上額を維持したい場合に検討してください。

いずれにせよ、買い手、売り手双方の手間が最も少ないのは、値引きとして処理する「対処1」の方法だといえるでしょう。双方で相談のうえ、対処法を決定してください。

インボイス制度で買い手が振込手数料を負担する場合の対応

買い手が振込手数料を負担する場合は、売り手が負担する場合に比べて手続きは簡単です。原則に沿って買い手が振込手数料を負担する取引では、処理方法を選ぶ必要はありません。振込方法に応じた対応をしましょう。

金融機関の窓口またはインターネットバンキングを利用した場合

買い手が、金融機関の窓口またはインターネットバンキングを利用して振り込みを行った場合は、金融機関から振込手数料に関する適格請求書の交付を受けることが可能です。買い手は、交付された適格請求書を保存することで振込手数料にかかる消費税額を税額控除の対象にできます。

金融機関のATMを利用した場合

金融機関のATMを利用して振り込みを行った場合、金融機関は適格請求書の交付を行わなくても良いと定められています。そのため、適格請求書を保存する必要もありません。

ただし、ATMで振り込みをした際の振込手数料であることがわかるように、ATMの場所などを帳簿に記載、保存する必要があります。

振込手数料の処理方法を確認しておこう(まとめ)

インボイス制度がスタートする前に、振込手数料をどのように処理すべきか、取引ごとに確認することが大切です。振り込みで支払いを行っている、あるいは受け取っている取引の中に、振込手数料が売り手負担のものはないでしょうか。売り手負担で処理している取引については、取引先と事前にどのような方法で処理をするのか相談しておくと安心です。この機会に、取引内容を再確認してみることをおすすめします。